太田述正コラム#2532(2008.5.7)
<過去・現在・未来(続x7)>
1 中共ファシズム論
 「支那の体制」シリーズ(コラム#2525、2527)(未公開)で、対内的に弱体で対外政策も拙劣なファシスト政権として現在の中共政権を描いたところです。
 現在の中共政権をファシスト政権と見るのは、欧米の常識になりつつあります(
http://newsweek.washingtonpost.com/postglobal/kinming_liu/2008/05/chinas_fall_from_grace_no_surp.html
http://www.feer.com/essays/2008/may/beijing-embraces-classical-fascism  
(どちらも5月7日アクセス))。
 後者のファーイースタンエコノミックレビュー誌掲載論考が、現在の中共政権は自信満々だと記している点は同意できませんが・・。
 自信満々なら、ダライラマ亡命政府と「対話」を再開したり、胡錦涛が訪日にあたってあそこまで対日宥和的姿勢を示したりしないでしょう。
 ただ、この筆者が、現在の中共政権をファシズムのイタリアやナチズムのドイツと比較はしても、間違っても戦前の日本になど言及しなかったことは、当たり前ではあるけれど、よかったと胸をなで下ろしています。
 ところで、昨日訪日した胡錦涛中共主席を福田首相が非公式夕食会にどうして日比谷公園内の松本楼に招いたのかというと、松本楼の創業者である小坂梅吉の孫と、梅屋庄吉の孫が後に結婚したため、梅屋の資料が小坂家に引き継がれたためです(
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20080507k0000e010017000c.html
。5月7日アクセス)。
 この梅屋庄吉と支那とのご縁については、コラム#1820をご覧下さい。
 太田述正コラムはためになるでしょ。
2 世界の恥の憲法論議
 憲法記念日に、朝日新聞は、「関西学院大学教授でニュースキャスターの村尾信尚」氏の、「・・・日本の貿易総額に占める対米シェア、対中シェアの推移をみてみる。88年には対米29.1%、対中4.3%だったのが、07年には対米が16.1%に落ち、対中は17.7%までに伸びた。いまや日本の最大の貿易相手国は中国なんですよ。さらに韓国や台湾、アセアン諸国を含めると、かつて日本が侵略した国々との貿易額の割合は4割を超えている。仮に自衛隊が海外で武力行使できるように9条を改正した場合、これらの国々との円滑な貿易や経済関係が保てるか非常に不安ですね。もし経済制裁をされたら、日本は多分立ちゆかないと思うんです。・・・9条をなくしてしまうと、アメリカの方に大きく軸足を移さざるをえない。それは日本の独立を保つというよりは、アメリカの世界戦略のなかに組み込まれていくことになると思います。対米一辺倒でなく、名実共に等距離外交をしなければなりません。・・・05年度の資料をみると、日本の防衛予算はドイツより多く、列強のなかに入るぐらいの額なんです。今の9条のもとでも、これぐらいの防衛力は持てる。それに、国を守るには、軍備よりも、政府の途上国援助(ODA)にもっと力を注ぎ、情報収集力を強化すべきです。かつて世界一だったODAの額は06年の実績で3位に落ちました。外交官の数は米英独仏やカナダより少ないんです。どんなに拡大解釈しても、自衛隊は海外で武力行使はできない。それはやっぱり戦争の一歩なんです。なのに、最近の議論を聞いていると、戦争を知ったうえで威勢のいいことを言っているのかな、と思うことがあります。9条を論じる前に本当の戦争の怖さを高齢者から聞き、想像力を働かせて十分議論をしないと非常に危険ですよ。」という声を紹介しました。
 また東京新聞は、「イラク支援ボランティアの高遠菜穂子さんは、武装勢力に拘束された経験を基に発言。「(自衛隊のイラク派遣で)日本が九条を突破したことで人質にされた。殺されなかったのは、私たちがイラクで丸腰で対話を続けてきたと分かったから。九条(の精神)を実践し、九条で命を守られた」と振り返った。作家の雨宮処凛さんは「貧困で生存権を脅かされた人が『希望は戦争』と言う状況は、貧困層が戦争に駆り出される米国と近いものがある。軍事費を削って人が生きるために使うべきだ」と話した。「人類の敵は貧困、病気、無学、人権侵害、テロ、温暖化。戦争ではなくせない。むしろひどくしている」と訴えたのは、米国の平和運動家コーラ・ワイスさん。」という3人の声を紹介しました。
 (以上、
http://www.asahi.com/national/update/0505/NGY200805050001.html
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008050502008939.html
(5月5日アクセス)による。)
 
 いくら電子版なのでスペースに限りがあるといっても、どうして反対言論を両紙は掲載しないのですかね。
 しかも、声が紹介された人の中に安全保障の専門家が一人もいないのはどうなっちゃってるのか。
 特に村尾氏が、元大蔵官僚で、しかも現在大学教授で、おまけにニュースキャスターの立場で、事実誤認だらけの見解を垂れ流すのは一体いかなる料簡なのでしょうか。
 前掲のファーイースタンエコノミックレビュー誌掲載論考は、対中共軍事力整備の不可欠性を訴えていますが、この点をさて置くとしても、中共すら参加している国連平和維持活動の意義について村尾氏は全く考えてみたこともないようです。
 オックスフォード大学の経済学教授他1名が、国連平和維持活動の費用対効果分析を行い、費用の3倍の効果を挙げてきていることを指摘した上で、他の政策手段と組み合わせることによってその効果は一層増大すること、いずれにせよ軍事力による国連平和維持活動は不可欠であること、を記しています(
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/05/05/2003411072
。5月5日アクセス)。
 日本の自衛隊は、憲法解釈上の制約により、本来の意味での国連平和維持活動に派遣することができないわけですが、村尾氏は、学者として上述ような分析の誤りを指摘する意思も能力もないのであれば、せめてどうして中共も人民解放軍を派遣しているところの国連平和維持活動に日本は自衛隊を派遣すべきでないのか、説明すべきでしょう。
 説明できるわけないけどね。
 このような、日本の新聞や、村尾氏のような元官僚、村尾氏のような学者、村尾氏のようなキャスターたる日本人を見ていると、私は、まるで自分自身が不始末をしでかしているように、恥ずかしくて仕方がありません。
3 米大統領選民主党予備選事実上決着
 5月6日に実施された予備選で、オバマは北カロライナ州でクリントンに圧勝したものの、インディアナ州では僅差で敗北しました(
http://www.cnn.com/2008/POLITICS/05/06/primaries.change/index.html
。5月7日アクセス)。
 しかし、この結果を受け、米スレート誌の記者は、最終的に代議員数でクリントンがオバマを逆転する可能性はもともとなかったところ、この両州でのそれぞれの得票数から、クリントンが総得票数でオバマを逆転する可能性もなくなった上、黒人人口が8.9%しかないインディアナ州でクリントンと拮抗し、白人を含めた貧しい層の支持率でクリントンを上回ったオバマは、貧しい白人層のウケがよくないという世評をも打ち砕いたとし、特別代議員は躊躇なくオバマに票を投じるだろう、と記しました。
 そして、クリントンにレースからの退場を促したのです。
 (以上、
http://www.slate.com/id/2190778/
(5月7日アクセス)による。)
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太田述正コラム#2533(2008.5.7)
<オバマ大頭領誕生へ?(続x8)(その2)>
→非公開