太田述正コラム#2616(2008.6.18)
<皆さんとディスカッション(続x168)>
<読者KY>
 自分は元来法律には疎く、まして英国惚けした自分の常識から余りに懸け離れた突飛な事件なので、是非御高見を拝聴致したく。
 先ず、領土の自国への帰属を主張する事を目的として他国の領海に民間船舶が入るのが国際法上の無害通航に該当するのかどうか。例えば、フランスの漁船団がジャージーやガーンジーに同様の目的で接近して示威をなす事は無害通航であるとは、とても思えないのですが。
 さらに一点。他国領海における自国船舶の保護(警察力の行使)を目的に、概水域に武装した公船により進入する事は無害通航なのか。例えば、シェットランド沖の英国領海内で治安が乱れているからといって、そこでアイスランドの巡視船がアイスランドの民間船舶を保護する目的で勝手に警察活動するのは合法であるとは、少なくとも自分には思えません。英国領海内の治安維持は英国海軍の所管事項である筈です。
 最後に、現に実効支配している海域に侵攻された場合に警察力なり軍事力なりを行使して防衛するのは、「国際紛争の解決」に該当するのか。そうならば、そもそも不戦条約の当事国は自衛戦闘自体を行えないかと思いますが。
<太田>
 第一と第二のご質問に対するお答えですが、どちらも無害通航とは言えません。
 第三のご質問ですが、英国海軍は軍隊と海上警察とを兼ねた機関であるのに対し、日本はこれがそれぞれ海上自衛隊と海上保安庁に分かれており、しかも海上自衛隊は、防衛出動が下令されないかぎり武力攻撃に対処することはできず、また、防衛出動や海上における警備行動や治安出動が下令されないかぎり警察行動に従事することもできません。
 さて、今回の民間船舶及び公船の行為・・非無害通航・・は、日本に対する武力攻撃には該当しないので、警察行動の対象ということになります。
 日本においては、常に警察行動に従事できる海上保安庁や、警察行動に従事する法的権限を臨時に与えられた海上自衛隊は、非無害通航を行う外国の民間船舶(不審船を含む)に対して、警察任務遂行に必要な範囲で武器を使用してその臨検、拿捕、撃沈等ができるものの、不可侵権のある外国の公船に対しては、非無害通航を行っているからといって、臨検、拿捕、撃沈等はできず、自艦ないし自部隊防御に必要な場合に限って武器の使用が認められます。
 (以上、必ずしもぴったりこない典拠だが、例えば、
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/document/2006/200605.pdf
参照。)
 すなわち、不可侵権のある外国の公船に対して、非無害通航を行っているからといって、日本が軍事力ないし警察力をもって、適切な対処を行うことは不可能なのであって、これは日本が「国際紛争の解決のため」の武力を憲法上禁止していることの論理的帰結である、というのが私の認識です。
 
 ちなみに、台湾の台北タイムスは、連日のように尖閣(釣魚台=Diaoyutai)諸島は日本の領土であると指摘するコラムを掲載しています(
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/06/17/2003414923
。6月17日アクセス、
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2008/06/18/2003414990
6月18日アクセス(以下同じ))し、「与党国民党の反日・中華ナショナリズムに押されて一時強硬対応に傾いた流れを、馬英九・・・総統が押しとどめ・・・台湾は抗議目的で検討していた同海域への軍艦派遣を中止した」(
http://www.asahi.com/international/update/0618/TKY200806170397.html
)ところです。
<新著編集者>
 連絡が遅くなりましたが、本日、お送り頂いた赤字を頂戴いたしました。丁寧にご確認頂き、まことにありがとうございました。
 この後、頂いた赤字のコピーをとり、正本を<ライターの>Kさんに送って、内容確認と章タイトルの案出しをお願いする段取りになっています。こちらではそれと並行して、用字用語や表記の統一作業などを進めます。
 その間、太田さんにはしばらくお待ち頂くことになると思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
<太田>
 同封したメモにも記しましたが、(もともとの私の構成案のできが悪いせいで、)とにかくダブリが多いと感じます。
 二部構成になっているのを一部構成に直す等、構成の見直しが不可欠だと思います。
 また、冗長な部分も散見されます。適宜圧縮していただいて結構です。
<新著編集者>
 ちなみに、全体構成については、先日お話ししたように、三部構成にすることも考えています。
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第一部 「予兆」 2~5章(あるいは~6章)
第二部 「告発」 6~15章(あるいは~18章のどこか)
第三部 「改革」 16~25章
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 要は、「2~5章は導入部で、少し前の話ですよ」ということを、最初から提示してしまおうということです。そのうえで、「はじめに」で、「5章までは90年代の話だが、防衛庁の体質を知ってもらうためにちょうどいいエピソードを披露している」といったような予告をしてはいかがでしょう(せっかく書き直して頂いた「はじめに」<(コラム#2613(未公開))>に、さらに加筆して頂くことになりますが)。
 また、確かに、全体に重複感があることは否めません。しかしこれは、一つのテーマについて強い主張を伴う本の場合によく見られることで、ある意味避け難いことなのかもしれません。
 さらに今回の場合、主な舞台が防衛庁/省という限られた領域であることもあり、よりその印象を強めている可能性はあるかと思います。
 いずれにせよ、「あえて繰り返すが」的な断わりを入れることで、そのまま生かせる箇所もあるかと思います。それでも重複感がある箇所については、削除するなどの整理が必要になるかと思います。
<太田>
 昨日、初めて新新著(共著)の私の担当部分の原稿を見ました。
 日本語としておかしいと思われたかもしれませんが、この原稿は、私の過去コラムから共著者がテーマをピックアップして、テーマごとに関連コラムをもとにライターに執筆させたものなので、私が書いたものではありません。だからこんな表現になるわけです。
 ちょっと驚きましたね。
 共著者自身の手も入っているのかも知れないけれど、恐るべき完成度です。
 このライターの力量は大変なものであると舌を巻きました。
 私がやらなければならないのは、共著者とライターが必ずしも私の最新のコラムまでを参照していないため、ごく一部、データや表現が古い箇所があり、これら箇所に修正を加えることだけです。
 
 この新新著(典拠付き)中の私の担当部分は、私の表芸であるところの、比較政治論の各論中のイスラム世界論やインド亜大陸論、国際安全保障論の総論、及びその他のトピックをカバーしており、われながら読み応えがあると思いました。
 これに対して、新著(典拠なし)の方は、私の裏芸であるところの官僚批判、自民党批判を包括的にカバーしており、両著は内容的にほとんどオーバーラップしていません。
 ひょっとすると、新著も新新著も同じ8月に出版されることになるかも・・。
 この2冊ともお読みいただけたら幸いです。
 これで、まだ本になる予定が立っていない主だったところは、私の比較政治論の総論と言うべきアングロサクソン論(イギリス論)と縄文・弥生モード論(日本論)、それに比較政治論の各論中の米国論、中共論、そしてこれらに関連する歴史論、ということになります。
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太田述正コラム#2617(2008.6.18)
<フランスの新防衛政策(続)>
→非公開