太田述正コラム#2549(2008.5.15)
<ミヤンマーに人道的介入?(続)(その1)>(2008.6.19公開)
1 始めに
 ミャンマーのサイクロン大水害をめぐって、人道的介入論議が一層ヒートアップしています。
2 人道的介入すべきとの論
 5月14日現在、ミャンマーへの諸外国からの援助物資は、医薬品を除いては、被災者には届かず、盗まれたり、軍が保管したりしているようです(
http://www.nytimes.com/2008/05/15/world/asia/15myanmar.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
。5月15日アクセス)。
 軍政当局が、援助物資を軍部に優先的に回さざるをえない理由をコラム#2547でご説明したところですが、もう一つの理由として、軍政当局上層部に、災害の深刻な実態が伝わっていない可能性が高いことが挙げられています。
 長年の軍部専制の下、ミャンマーの官僚機構は、軍政当局上層部に不都合な真実をあげなくなってしまったというのです。
 例を挙げましょう。
 少し前に軍政当局は、ミャンマーが過去5年間にわたって年13%の経済成長をしてきており、識字率も上昇し、成人の96%以上が読み書きができるようになったと宣言しました。
 しかしそんな数字はでたらめだし、そもそも数字の是否以前に、ミャンマーのGDPはカンボジャやバングラデシュの半分強に過ぎず、5歳未満の子供の30%は栄養不足であり、エンゲル指数は80%にのぼる以上、よくそんなことを言って胸を張れたものだ、と言うべきでしょう。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/13/AR2008051302903_pf.html  
(5月15日アクセス)による。)
 ちなみに、国民の健康のための支出は政府支出の3%に過ぎない一方で、軍事支出は40%を占めていて、医者も診療所も決定的に不足しています(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/11/AR2008051101782_pf.html
。5月12日アクセス)。
 軍政当局が軍政当局なら、実質的にミャンマーの宗主国と言ってよい、隣接する大国、中共にもまことに困ったものです。
 中共は、人道的介入の決議どころか、国連安保理事会で、ミャンマーの軍政当局に援助物資と援助要員の受け入れを命じる決議の採択にすら反対しているのです(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/13/AR2008051302735_pf.html  
。5月15日アクセス)。
 このような状況の下、米スレート誌は、ワシントンポストと同誌のコラムニストであるアップルバウム(Anne Applebaum)に、対イラク戦で自由意志連合(coalition of the willing)という言葉はすっかり汚れてしまったが、今こそミャンマーのための自由意志連合の出番だと叫ばせ(
http://www.slate.com/id/2191196/
。5月12日アクセス)、ワシントンポストは、まず12日付の論説で、人道的介入に係る2005年国連総会決議があるにもかかわらず、国際社会はダルフールやジンバブエに対し指をくわえて何もしていないが、親が子供を虐待したら政府がその子供を保護すべきなのと同様、国民を保護しない政府があったら国際社会がその国民を保護するのは当然だとし、ミャンマーに人道的介入をと主張し(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/11/AR2008051101782_pf.html前掲)、次いで14日付社説で、ミャンマー付近の海上に海軍艦艇を展開している米英仏を中心とする欧米諸国に対し、人道的介入を行う可能性を排除しないように呼びかけました。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/05/13/AR2008051302735_pf.html上掲  
による。)
 米国のシンクタンク(Carnegie Endowment for International Peace)のシニア・アソシエート(senior associate)のケーガン(Robert Kagan)は、13日付英ファイナンシャルタイムスに、より根源的な論考を寄せました。
 その要旨は以下の通りです。
 ロシア、中共、ミャンマー、ダルフール、イラン、ジンバブエ等における緊張状況を見るにつけ、民主主義諸国連盟ないし協調システム(league or concert of democratic nations)といった機関を設立しなければならないという思いにかられる。
 言い出しっぺは米国の民主党系ないしリベラルの国際主義者達だ。
 オルブライト(Madeleine Albright)元米国務長官はこのような機関を1990年代に設立しようとした。
 最近では欧州でもその賛同者が出てきている。
 国連安保理が人道的危機に際してコンセンサスに到達できない場合に、この機関の出番とあいなるわけだ。
 NATOやEUが既にあるのではと思うかもしれない。
 重要なことは、その世界版をつくることなのだ。インド、ブラジル、日本、オーストラリアといった民主主義大国が加われば、民主主義諸国連盟の権威は大きいものとなろう。 「民主主義国」であるかどうかの認定など不可能だとは言わせない。
 EUへの加盟資格は民主主義国であることだが、今まで何度もかかる認定を行ってEUは拡大してきたではないか。
 (以上、
http://www.ft.com/cms/s/0/f62a02ce-20eb-11dd-a0e6-000077b07658.html
(5月14日アクセス)による。)
(続く)