太田述正コラム#2279(2008.1.3)
<スコットランドの近現代への貢献(その1)>(2008.7.17公開)
1 始めに
 12月中に会費代わりのアマゾン・ギフト券を使って三冊の洋書を注文したところ、うち二冊が届きました。
 一冊は、2002年に上梓された、米国の歴史学者アーサー・ハーマン(Arthur Herman)による’ How the Scots Invented the Modern World–The true story of how Western Europe’s Poorest Nation Created Our World and Everything in It’です。
 ハーマンは、2000年に’Joseph McCarthy: Reexamining the Life and Legacy of America’s Most Hated Senator’、2004年に’To Rule the Waves: How the British Navy Shaped the Modern World’(注1)という本も上梓しています。
 (注1)ハーマンがこの英海軍の本について受けたインタビュー(
http://www.nationalreview.com/interrogatory/qa200501060730.asp
。1月3日アクセス)は一読に値する。
 まずはネット上の書評等を踏まえて序論的書評をものした上で、この本を実際に読み、各論的書評を書き上げることにしたいと思います。
2 序論
 私見によれば、スコットランドはアングロサクソンではなく、欧州世界に所属します。
 そのスコットランドとイギリスが1707年に合邦します(注2)。
 (注2)スコットランドとイギリスの合邦と現在のスコットランド「独立」への動きについては、コラム#1522、1524参照。
 これによりスコットランドに化学反応が起こります。
 イギリスの懐に飛び込んだことによってスコットランドの知識人は、イギリス人が行わなかったこと、すなわちアングロサクソン(イギリス)文明の中核部分の理論化、つまりは普遍化に成功するのです。
 イギリス経験論を理論化したヒューム(David Hume。1711~76年)(コラム#1257、1259、1699)、イギリス資本主義を理論化したアダム・スミス(Adam Smith。1723~90年)の二人を挙げるだけでもこのことがお分かりになるでしょう。
 また、スコットランド人はイギリスの産業「革命」(注3)にも決定的な役割を果たします。蒸気機関を完成させたあのジェームス・ワット(James Watt。1736~1819年)はスコットランド人です。 
 (注3)なぜ私が「」に入れるかについては、「産業革命をめぐって」シリーズ(コラム#1489、1501、1515、1570、1586)を参照されたい。
 これだけでも、米国のイギリスからの独立と発展、そしてイギリスの帝国形成、更にはアングロサクソン文明のグローバルスタンダード化に果たしたスコットランドの役割が極めて大きいことは想像に難くないでしょう。
 実は、スコットランドとイギリスの合邦は、イギリス側にも化学反応を惹き起こすのです。
 すなわち、スコットランドは不変の文明であるアングロサクソン文明を変化させるという離れ業をやってのけるのです。
 自由主義を旨とする民主主義嫌いのアングロサクソン文明(コラム#91)の自由・民主主義への変化・・進化と言うべきか・・です。
 
 (以上、
http://books.guardian.co.uk/reviews/history/0,6121,635676,00.html
http://www.electricscotland.com/familytree/frank/herman.htm
http://www.julielorenzen.net/scots.html
(いずれも1月3日アクセス)を参考にした。)
(続く)