太田述正コラム#2283(2008.1.5)
<仙台防衛施設局時代>(2008.7.19公開)
1 始めに
 仙台防衛施設局長時代の日記から見つけた文章を、更に2篇ご紹介します。
 前篇は、当時の私の切実な問題意識を開陳したものです。読めばお分かりになるように、これは現在の私が行っている「たった一人の闘争」につながる問題意識です。
 後篇は、私のミニ縄文文化論、ひいてはミニ日本文明論といった趣がある小論であり、こういった試行錯誤を経て私は日本における縄文モード・弥生モード交替論に到達することになるのです。
2 1999年10月29日仙台防衛施設局幹部会議局長訓辞
 仙台防衛施設局幹部会議の開催に当たり、一言申し述べます。
 就任直後から申し上げていることですが、職員の皆さんは防衛施設行政の第一線において、実によくやっておられると思います。就任後三カ月たった現在でもこの認識に全く変化はありません。しかし、時代の変化のスピードはますます早くなってきています。昨日の基準に照らしてよくやっていると言えることでも、今日の基準に照らせば不適切なものになっていないという保証はありません。
 昨今の防衛庁を巡る、連日のような不祥事報道に接しているとつくづくそう感じます。そこで、私が、時代がいかなる方向に向かいつつあり、その中で防衛庁がどうすべきだと考えているかをごく簡単に申し上げた上で、皆さんに若干のお願いをさせていただきたいと思います。
 まず、世の中全般です。世の中は180度変わりつつあります。優良企業も駄目企業も官製談合や自発的談合、但し、いずれもいわゆるクリーンな談合ですよ…、を行いつつ、ドングリの背比べを続けることができた護送船団方式の時代から、グローバルスタンダードを踏まえた自由競争の時代へと。今や、各企業がきちんとした情報公開を求められ、その公開された財務内容や収益状況に基づき格付け会社が企業の格付けを行う。この結果優良企業はより低利の資金を集め、一層有利になる。駄目な企業はますます駄目になる。そのまま放置しておけば、あらゆる業種で独占的な企業が生まれてしまう。だからこそ、独禁法の存在が不可欠・・という時代へと変わりつつあるというわけです。
 このような世の中で、防衛庁だけが談合を放置したり、官製談合まがいなことを続けたりできるわけはありません。費用便益比が適正な装備品等を選定し、その調達に当たっては適正な競争入札を行い、随意契約にあっても、厳正な原価計算に基づきこれを行うべきことが至上命題となります。例えば、防衛上の要請から競争入札になじまない分野があれば、これを改めることはもちろんですし、随意契約だからと言って甘い原価計算をおこなうことも止めなければなりません。いわんや、再就職先を確保する観点から甘い原価計算を行うようなことがあるとすれば論外です。それでは防衛産業が成り立たない、退官後の生活が保証できないということであれば、政治に働きかけ、防衛産業助長政策を確立しなければなりませんし、恩給制度の導入も必要なのかもしれません。およそ論理に反することを永久に続けることは不可能なのです。
 以下例示的に申し上げることは、私見の域を出ませんが、燃料談合のケースで言えば、そもそも、米軍のように、油種の種類を限定して経済性と柔軟性を確保すべきですし、グローバルスタンダードたる米軍との燃料の共用性も追求すべきです。これに加えて自衛隊独自で、これも米軍並に石油タンクを整備すべきでしょう。また、艦船修理費談合疑惑については、・・これは今後どう展開するか分かりませんが・・、本来、地方総監部に所在する業者を優遇できるような制度があってしかるべきなのです。
 このようなことは言うは易くして実行することは容易ではありません。しかも、基本的には防衛庁中央が取り組むべき事柄です。だからと言って、出先は何も考えずに、これまでのやり方を続けていて良いということならないと私は思っています。当局においても然りです。
 皆さんに是非ともお願いしたいことは、まず第一に、これまでのやり方に法令に合致しない部分があれば、法令通りに改める勇気を持ってほしいということです。そして第二に、局レベルの解釈、裁量の余地がある業務にあっては、これまでのやり方が業務の趣旨・目的に合致しているか、時代の趨勢を踏まえ、不断に点検を行い、合致していないと判断されれば、これを改めることを躊躇しないことです。第三に、時代の趨勢を見極めるため、そして再就職等のためにも、業務に関わりのある、市場性があり、かつ社会性のある分野で専門家になる努力をすることです。英語、パソコン、とりわけLAN、そして会計学といった分野が推奨銘柄でしょう。
 しばしば、自己保身を図ったり、組織の利益を追求することは悪いことのように言われますが、私の見るところ、今や、以上のような仕事への取り組み方をすることこそ、真の自己保身や組織利益追求につながる時代なのではないでしょうか。
 この、当局で三回目を迎えた幹部会議が実りあるものとなることを期待しています。
3 1999年12月の「朝雲」掲載のコラム
 仙台防衛施設局は東北地方6県が管轄ですが、米軍基地等のある三沢におもむいた際に地元の古牧温泉で岡本太郎の作品多数に出会いました。そのご縁で、昨年、家族ともども川崎市にできたばかりの岡本太郎美術館に行って来ました。
 東北地方は、紀元前後まで、一万年以上続いた縄文時代において、日本列島の人口分布の中心でした。その時代の文化も日本文化である、いや日本文化そのものであると1951年に早くも指摘したのが岡本太郎でした。
縄文文化の特質を一言で言えば、自然との共生ということでしょう。世界最古の土器を作り出し、これで煮炊きすることで木の実や海産物の食料化率を飛躍的に高め、定住生活に入った当時の日本の人々は、多種多様な食物を節度をもって食することで、自然に過度な負荷をかけることなく、自然との共生を図ったのです。
 一万年以上続いた縄文時代に培われたメンタリティーは日本人に決定的な刻印を残したのではないでしょうか。例えば、世界的な建築家である黒川紀章氏は、30年来「共生」をキーワードとする設計活動を続けています。昨年3月にマレーシアを公務で訪れ、同氏が設計したクアラルンプール空港に降り立ったときの心を揺さぶられるような感動は記憶に新しいものがあります。また、グロテスクであるが可愛いポケモン達も縄文時代の土偶の再来だと言えないでしょうか。岡本太郎美術館に展示されていた彫刻の一つを見て、私の五歳の息子が、「「ルギア爆誕」(最新のポケモン映画)に出て来たフリーザーそっくりだ!」と叫んでいました。
 来るべき新しいミレニアムには、最長の現存文化である縄文=日本文化が、グローバルスタンダードを標榜するアングロサクソン文化と競争的協調関係を保ちながら、世界にはばたいていくことになる予感がしています。