太田述正コラム#2595(2008.6.7)
<中共体制崩壊の始まり?(続x3)(その1)>(2008.8.1公開)
1 始めに
 「四川大地震による四川省都江堰・・・市の聚源中学校の校舎倒壊を巡る問題で4日、遺族らの抗議行動を取 材していた朝日新聞記者3人と中国人通訳ら4人、AP通信の記者1人の計8人が、警察当局によって約6時間にわたり拘束された。8人は成都市の警察当局で 事情を聴かれた。拘束理由は身分確認のためなどと説明された。 同校の校舎倒壊問題を巡る取材では、3日にも共同通信の記者2人が一時拘束された。」
 「四川大地震による校舎倒壊で約270人の生徒が亡くなった四川省都江堰市の聚源中学校の遺族ら数十人が4日、立ち入りが規制された同校倒壊跡地に入ろうとして警察当局ともみ合いになり、数人が拘束された。」(
http://www.asahi.com/international/update/0604/TKY200806040247.html
http://www.asahi.com/international/update/0604/TKY200806040310.html
(どちらも6月5日アクセス)による。)
と日本のマスコミでも報じられたように、四川大地震発生から1ヶ月近く経過した現在、ついに中共当局は逆コースへとはっきり舵を切り始めたようです。
 しかし、日本のメディアの電子版だけでは、中共当局がどうして逆コースへの舵を切ったのかが判然としません。
 英米(香港を含む)のメディアの電子版に拠って、この点を解明することにしましょう。
2 中共の逆コース
 (1)序論
 中共では、外国及び国内のメディアに対する規制が強化され、インターネット規制も強化されています。
 中共当局は、国営メディアに対し、とりわけ、校舎の建設に問題があった、地震生起情報を当局が事前に知っていて警告を発しなかった、当局の災害救助活動が遅れた、という3点について、報じてはならないという指示を出しました。
 (2)校舎の建設に問題があったこと
 2日、Xiang’er村から最寄りの都江堰に向けてデモをしようとした、Xiang’er中学校校舎倒壊によって子供を失った約100名の父兄に武装警察が立ち向かい、1名の父兄に殴る蹴るの暴行を加え、彼らを追い返しました。
 都江堰では、警察が3日、聚源中学校校舎の倒壊によって子供を失い、地方政府の役人達を訴えようと裁判所に入ろうとした約150名の父兄達を追い散らし、何名もの記者を拘束しました。
 4日には、警察と武装警察がこの中学校を訪れようとした記者や地元住民を阻止しました。(ただし、外国人記者の中には、この地元住民達に取材しても咎められなかった者もおり、まだ「取り締まり」は徹底していない感じです。)
 これら父兄の弁護活動も当局によって妨げられており、弁護士が裁判所に弁護届けを出すことさえままならない状況です。
 また、地方当局は、倒壊校舎の現地検分を遅ればせながら行ったものの、建築専門家ならすぐに耐震強度がほとんどなかったことが分かるというのに、何日経ってもそれを認めようとしていません。
 (以上、
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-rollback5-2008jun05,0,5770926,print.story
(5月5日アクセス)、及び
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/06/05/AR2008060503695_pf.html
(6月6日アクセス)による。)
 今週、四川省教育局は、校舎倒壊によってかくも多数の死者が出た理由を5つ発表しました。
 その中で、授業の最中に地震が起こったこと、校舎が建設されてから長い年月が経っていたことが挙げられていましたが、地方当局が建築基準を遵守させること怠ったことや、腐敗があったことは全く挙げられていません(
http://www.nytimes.com/2008/06/05/world/asia/05quake.html?_r=1&oref=slogin&ref=world&pagewanted=print
。6月5日アクセス)。
 それどころか、現在に至るまで、四川省の政府も中央の教育省も、今回の大地震で亡くなった先生と生徒の総数すら明らかにしていないのです。
 欧米の専門家による推計では1万人から1万5,000人の間であるとされています。全死亡者の約35%が学校の先生と生徒達だというのです。
 こういうわけで、一時称賛を集めた温家宝首相への批判が高まってきています。
 彼の前任者の朱鎔基 (Zhu Rongji)は、1998年の揚子江流域での水害の際、ダムや護岸工事に手抜きがあったことを厳しく糾弾し、腐敗がからんでいた、と10数名の中堅幹部を処罰しました。
 もちろん、朱だって問題の抜本的解決はできなかったわけですが、温は、朱とは違って、そもそも校舎の手抜き工事を厳しく咎めようという姿勢すら見られない、というわけです。
 温にしてみれば、今回は問題が大きすぎて、厳しく咎めたら四川省の政府が崩壊しかねないことを懸念しているのではないか、という憶測がなされています。
 (以上、
http://www.atimes.com/atimes/China/JF07Ad01.html
(6月7日アクセス)による。)
 (3)地震生起情報を当局が事前に知っていて警告を発しなかったこと
(続く)