太田述正コラム#2645(2008.7.2)
<中共体制崩壊の始まり?(続x5)>(2008.8.22公開)
1 始めに
 本日付の韓国や英米の主要メディアの電子版は中共での自由・人権状況を厳しく報じています。
 しかし、本日付の日本の主要紙電子版では、全く目にしませんでした。
 いや、それどころか、東京新聞電子版は、中共中央の提灯持ち的記事を掲げていました。
2 東京新聞の記事
 最初に、東京新聞から始めましょう。
 「・・・貴州省当局者は1日記者会見し、瓮安県で遺体で見つかり、暴動の原因となった地元少女=当時(16)=の死因確認のため、遺体を再び検視する方針を明らかにした。事態沈静化を図るためとみられる。明報によると、少女の死因をめぐり警察当局に不満を持った住民らが暴動を起こしたことについて、胡主席は「なぜ1つの小さな刑事事件がここまで規模の大きい暴動を引き起こしたのか」との疑問を口にしたという。」(
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008070101001021.html
。7月2日アクセス。以下同じ)
 これは、中共中央暴れん坊将軍・地方当局悪代官論ってやつです。
 「中国共産党が古い政治思想を打ち破る「思想解放」キャンペーンを展開している。毛沢東路線を見直して改革・開放をもたらした1978年、「社会主義市場経済」体制を確立した92年に続く「第三の思想解放」。胡錦濤政権が目指す「解放」とは、これまで置き去りにされてきた政治体制の改革、民主化であるとみられている。・・・
 思想解放は昨年秋の共産党大会で、胡総書記が提起し、今後五年間の活動方針となった。具体的には何を解放するのか。党機関紙、人民日報は「体制の束縛からの解放、マルクス主義の教条的理解からの解放」と定義する。「中国新聞週刊」は、「社会と大衆の自主性の余地を拡大すること。政治、経済、社会、文化における自由を拡大すること」と説明している。・・・
 キャンペーンは昨年末、広東省から始まった。同省トップの書記に就任したばかりの汪洋氏が党会議の演説で計22回も「思想解放」に言及。映画 「日本沈没」を例に、「世界第二の経済大国になった日本も“沈没”の危機感を持ち続けている」として、現状に満足せず改革を継続するよう呼びかけた。胡総書記の腹心で、後継候補のダークホースとも言われる汪洋氏の掛け声は、たちまち全国に伝えられた。・・・
 改革・開放発祥の地でもある広東省の深セン市は五月、今後の改革方針を示す「近期改革綱要」を発表して注目を集めた。
 指導者を定数より多い候補者から選ぶ「差額選挙」の拡大を公約し、初めて区長レベルで差額選挙を試行すると表明、さらに「条件が成熟した時に市長 の差額選挙を行う」とも明記した。1,200万人の人口を擁する深センで複数候補による市長選が行われれば、国政の民主化に向けた重大な突破口になる。綱要はまた、香港やシンガポールに学び、行政の中での政策決定権、執行権、監督権という「三権分立」を進めるとも表明した。
 改革派の理論誌「炎黄春秋」の呉思編集長は「中央が広東省を利用し、広東省は深センを利用した。今は池に石を投げ入れ、その波紋を見ている段階」としつつ、「深センの動きを見れば、党中央が何を考えているのか分かる」と指摘する。
 呉編集長は「改革を具体化させると、既得権益を保持している集団が反発する。改革とは利益の再分配をめぐる戦いであり、理論の争いではない」と言う。より幅広く利益を分配して権力基盤を強めたい胡政権と、それを阻む集団との戦いはこれから本格化する。」(http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008070202000124.html
 これは要するに、中共中央暴れん坊将軍・広東省政府大岡越前論ですな。
3 諸外国主要メディアの記事
 (1)朝鮮日報
 「中国での新型肺炎発生の事実<を>世間に伝え・・・、過ちを認めた政府が情報公開と積極的な防疫作業に乗りだしたことで、中国は危機を乗り越えた。それをきっかけとして、<この告発を行った元軍医の>蒋<彦永>医師は一躍「中国の良心」「人民の英雄」として脚光を浴び始めた。・・・2004年2月、<同>医師(78)は挑発的な手紙を書いた。15年前に起きた天安門事件に対する中国政府の再評価を求める内容だった。・・・「わが人民がわたしの目前で、人民が作った武器で武装したわが人民解放軍によって死んでいった」と書いた手紙を80通コピーし、全国人民代表大会・・・の指導部に送った<のだ。これに対し、>・・・当初政府官僚は蒋医師に主張の撤回を迫った。その後、医師には監視要員が付き、外出が制限された。・・・ <今では>「中国の良心」として尊敬されてきた老医師が恐怖に震えている。・・・米ワシントン・ポストの・・・支局長が蒋医師の元を訪れた<ところ、>・・・<彼は>盗聴を心配し、テレビの音量を上げると、小さな声で「政府を刺激したくない」とうつむくばかりだった。・・・彼は小さな声で「米国にいる娘と孫に会いたい。そのためには政府を刺激してはならない」と話した。」(
http://www.chosunonline.com/article/20080702000017
http://www.chosunonline.com/article/20080702000018
 78歳の老人をここまで虐めるのかという怒りが伝わる記事ですね。
 (2)ワシントンポスト
 「・・・中共当局の公安官憲によって人権派弁護士のグループが、2人の米下院議員主催の日曜日の夕食会への参加を防止するため、勾留され、その後自宅軟禁された。・・・2人の弁護士は当日午後、自宅から北京の郊外に連れ去られ、北京に戻ることを妨害された。警察はもう一人の招待客が彼のアパート区域から外に出ることを阻止し、少なくとも他の6人の弁護士を追い返したり妨害したりした。少なくとも弁護士3人と牧師1人は夕食会に出席できたが、現在自宅軟禁状態にある。・・・」(
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/07/01/AR2008070100749.html?hpid=moreheadlines
 この記事は、中共当局は、明確な法的権限に基づかず、一般市民と外国人との交流を妨げようとする、としていますが、やはり怒りが伝わる記事だと思います。
 (3)ファイナンシャルタイムス
 「・・・現行の法制では、民間慈善団体やNGOは、政府の特定の省庁と提携した形でしか設立することはできない。民事省(The ministry of civil affairs)は、ここ何年も企業がこれら団体を<単独で>設立できるようにする法改正を検討しているが、民間団体にどれだけ自由度を与えるかをめぐる政治的議論が紛糾して現在に至っている。・・・すなわち、これら団体に、緊急援助を提供することだけを認めるのか、保健や教育といった社会政策分野を含めたもっと幅広い役割を果たすことを認めるのか、議論が続いているのだ。」(
http://www.ft.com/cms/s/0/a61a24b8-47a0-11dd-93ca-000077b07658.html
 これは客観報道ですが、中共に社会的自由など、まだなきに等しいことがよく分かる記事ですね。
 「中共の治安当局は、四川省での5月の大地震で多くの学校が倒壊したことについて完全な調査を求めている怒れる父兄達に圧力をかけるべく、震災地域の人権運動家達を連行した。
 ・・・都江堰(Dujiangyan)市の父兄は、当局が「問題を起こすなよ」と言いながら、<死亡した>子供1人あたりさしあたり12,000元(1,750米ドル)、将来的には更に20,000元(2,917米ドル)を黙って受け取るように促されたと証言している。警察は<徳陽(Deyang)市>綿竹(Mianzhu)地区の父兄が、当初憤懣をぶちまけていたにもかかわらず地方官憲と面談した後、そっとしておいてくれと言い出したことについて取材しようとしたジャーナリストにいやがらせをしたり尾行したりした。当初地方政府に対し、・・・中共の請願制度を通じて働きかけようとしていた父兄達も、・・・これを諦めたように見える。
 北京は、「北京への請願ゼロ、地方首都への請願ゼロ、そして五輪期間中の大衆事案ナシ」をすべての官憲が確保するため、・・・異議の声を全国的に封殺するよう命じた。・・・国家メディアによれば、甕安県党書記のShi Zongyuanは、<当地での>騒擾について、「悪しき勢力に影響を受けた下劣な動機を持った少数の連中による党と政府に対する公然たる挑戦である」と語った。ある地方党官憲は、地方官憲の子供達が少女の死に関わったことを否定した。
 四川省では、著名な人権運動家で6月10日に勾留され今度は国家機密保持の嫌疑をかけられたHuang Qi(45)を含め、少なくとも5人の人権運動家が勾留された。地震の後、何度も震源地を訪れたHuangは、綿竹地区、都江堰市等の父兄達とともに、いかに法的キャンペーンをかけるかについて話し合ってきたが、Huangの親族や仲間達はこれが彼の逮捕につながったと見ている。「嘆き悲しんでいる父兄達と話をすることがどうして国家機密とされるのだ」とHuangの支援者の一人はファイナンシャルタイムスの取材を受けているときに問いかけた。」(
http://www.ft.com/cms/s/0/636573a2-479b-11dd-93ca-000077b07658.html
 これぞ中共中央主導の逆コースと言わずして何でしょうか。
 胡錦涛政権の正体見たり、と言わんばかりの記事ですね。
4 感想
 日本の主要メディアだけを手がかりにしていると、隣国のことすら何も分からない、ということがお分かりいただけたでしょうか。