太田述正コラム#2744(2008.8.22)
<皆さんとディスカッション(続x229)>
<ライサ>
 コラム#2730における太田さんのグルジア「戦争」についてのご指摘を整理すると、
先月
・・・米国務省幹部達は、コーカサスにおける複雑な民族紛争に軍事的解決はありえないと警告した・・・
(アメリカは様々な軍事情報も分析せず、示さずに単に「警告」するだけという行為が出来るのでしょうか)
・・・何千もの部隊、戦車、火砲が国境線近くに集結していたのですから・・・(いつの時点かは分からないけれども集結の事実は当然知っていた事になる?)
8月6日
・・・グルジア高官が交渉を試みるために訪れた数時間後に、グルジア人集落に対する大々的な襲撃が始まりました・・・(分離主義者による襲撃?)
・・・米国からロシア軍の戦車が南オセチア自治州に向かっているとの衛星情報を得た・・・(産経)
8月8日未明(7日深夜?)
・・・グルジア軍は南オセチアの「首都」ティンヴァリに大攻勢をかけた・・・(情報を得たが、かまわずに大攻勢をかけた?)
下記の ◎最近のグルジア情勢の内容や、上記の一連の太田さんの解説や産経のグルジア大使の講演によっても大体の動きは分かりますが、どうしても分からないのは、集結の事実は知っていた、6日に米国から情報を得ていた、ロシア軍の戦車が南オセチア自治州に向かっていた(衛星情報)、にもかかわらず、7日に大攻勢をかけたと言うのが不思議です。
 6日から8日ぐらいの間を推察も含めて、なるほどと言えるような説明をどなたかしていただけませんか。
 と言うのは、
Georgia Army
http://www.globalsecurity.org/military/world/georgia/army.htm
にも記されていますが、素晴らしい武装とは言えないと思います。
 日本の自衛隊の装備から見れば、日本の自衛隊はすごいらしいので、まー、比較することがおかしいのかも知れませんが顕在兵力は30万人を越えていると言うことですし、軍事費も相当な物でしょう。
 一方、ロシアの軍備は詳しくは知りませんし、調べる気にもなりませんが、グルジアとは比較にならないほど巨大ですよね。それにもかかわらず、グルジアが大攻勢をかけたのが不思議なのです。いわゆる、自由主義陣営の後ろ盾か何か、特別の事情(表面には出ない確約)がなくて、こんな冒険に走るでしょうか。
グルジアの軍事組織(ウィキペディア)
グルジア軍は、陸軍、空軍、海軍の三軍種と国家警備隊から成る。グルジア共和国の国軍。総員28,991人
グルジア陸軍
総員21,739人   士官2,215人、下士官含む兵士19,508人 文官16人
グルジア空軍
総員1,813人
グルジア海軍
総員892人   士官178人 下士官405人、徴集兵119人、文官42人
国家警備隊
産経新聞8月21日
「領土を守るため反応」
駐日グルジア大使が講演(日本財団にて)
 『・・ロシアが「攻撃を始めたのはグルジアだ」と主張している点について「(開戦の2日前の)8月6日に、米国からロシア軍の戦車が南オセチア自治州に向かっているとの衛星情報を得た。われわれは領土を守るためにロシアの軍事活動に対して反応しなければならなかった」と説明した・・・』
◎最近のグルジア情勢
http://www.jiji.com/jc/v?p=ve_int_abkhazia-south-ossetia080810j-02-h400より引用
※記事などの内容は2008年8月13日掲載時のものです
3月 5日 グルジアからの分離独立を目指す南オセチア自治州最高会議がロシアや国連に独立承認を呼び掛ける決議採択。アブハジア自治共和国最高会議も7日に同様の決議採択
4月16日 ロシアのプーチン大統領(当時)がアブハジア、南オセチアとの関係強化を指示
4月21日 グルジア、ロシア軍が20日にアブハジア上空を領空侵犯し、無人偵察機を撃墜したと非難
5月26日 国連グルジア監視団、無人偵察機はロシア戦闘機が撃墜したと断定
6月 6日 ロシアのメドベージェフ大統領とグルジアのサーカシビリ大統領が会談
7月10日 ロシア、南オセチア上空をロシア軍機が8日に飛行した事実を認める
8月 6日 南オセチア南部でグルジア軍部隊と南オセチア部隊が激しく交戦
8月 7日 グルジア軍が南オセチアの州都ツヒンバリに進攻
8月 8日 サーカシビリ大統領が国家総動員令発令。 ロシアが南オセチアに増援部隊を派遣し、軍事介入
8月 9日 グルジア軍とロシア部隊の戦闘拡大。 サーカシビリ大統領が「戦時態勢」を宣言
8月10日 ロシア軍、ツヒンバリをほぼ制圧。 ロシア軍機がグルジアの首都トビリシ近郊を空爆。
      クシュネル仏外相がトビリシ入り、紛争調停が本格化
8月11日 サーカシビリ大統領が紛争の停戦文書に署名、ロシア側は停戦を拒否。
      先進7カ国(G7)外相がロシアとグルジアに自制促す。ロシア軍、トビリシ近郊に侵攻
8月12日 ロシアのメドベージェフ大統領、「目的は達せられた」として軍事作戦停止を表明。
      ロシアとグルジアが和平案で合意。グルジア、独立国家共同体(CIS)からの脱退宣言
<amida>
 詳しいことは知らないし、この戦争について精査したわけではないが、いつものようにチャンネル桜を見ていたら、たしか、高森さんの解説だったと思うが、なんでも、バクー油田から延びグルジアを通る石油パイプラインの存在が、戦争の主な原因・理由だと言ってました。ロシアはこれに不満で、干渉してきたのだ、と。
<海驢>
 「米英の報道が優れている」とバグってハニーさんの仰ること(コラム#2742)は分かります。まったくもって正論です。
 しかし、その「英米の報道」ですら、大本営発表の御用報道をすることがある(直近ではボスニアやイラクで)、ということを当方は問題視しているわけです。
 後から「政府の発表が嘘だった!」なんて自己正当化したところで、それを報道した時点では、「本当のこと」になってしまいますよね(英米メディアの情報をすぐ「事実」認定する人にとっては)。
 例えば、以下のごとく。
<以下、引用:太田述正コラム#0483(2004.9.25)<イラク情勢の暗転?(その3)>>
3 予想外であったこと
(途中省略:海驢)
 イラクはもともと英国の統治を受け、その後バース党というファシズム政権下で世俗化・近代化が更に急速に進んだはずであったところ、1991年の湾岸戦争の後、国連の経済制裁下でなお政権の維持を図るため、フセイン大統領がイスラム教と部族主義的伝統主義を復活させたことがこれほど「成果」をあげていたとは、米英の諜報機関やメディアをもってしても把握できなかったのです。(米英両政府ともイラクに大量破壊兵器があると信じて疑わなかったくらいですから、閉鎖的な社会の実態を把握するのは容易でない、ということなのでしょうね。)
 米英の情報に拠っている私としても、とんだ予想違いをしてしまった次第です。
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<引用終わり>
 事実はいずれ明らかになるでしょうから、現時点では「こういう情報・報道がある」「ふ~ん、じゃあ○○かもしれませんね」ぐらいのレベルで良いのではないでしょうか?
>私も太田さんも一貫して異を唱えているのは海驢さんが書いた(そしてそれは北野氏や田中氏のメルマガにも認められる)

>>米国<がその>傀儡たるサーカシビリ氏を焚きつけた・・・

>という主張ですよ。正邪はさておくとしても、これは今次のグルジアによるツヒンバリ攻撃は米国による陰謀だ、という陰謀論でしょう?
(以上、コラム#2742より)
 何をもって「陰謀論」と仰っているのか理解しかねますが、グルジアのような小国が(しかもイラクに2千名もの精鋭部隊派遣中に)ロシアと本格的に事を構えるとは、バラ革命以来の支援者であり軍事顧問を派遣中でもある米国から、冒険主義を後押しする何らかの示唆を受けた可能性を考えるのは自然ではないですか?(正誤はともかく)
※参考:グルジア危険な賭け 欧米支援当て込み「南オセチア再統一」- MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/080809/erp0808092304014-n1.htm
 また、英米メディアの「小国グルジアを大国ロシアがいじめている」というニュアンスの報道姿勢からは、ロシアを悪者化する(ボスニアの時と同様の)意図を感じます。まして、太田コラムでも言及されているとおり、米国はイラン攻撃を控えており(コラム#2736など)、それに反対するロシアを抑える口実を欲していた事は確実と思われます。
 であるからこそ、先の投稿(コラム#2742)において述べたように、「イランがグルジア情勢に並々ならぬ関心を抱いている」とする宮崎正弘氏のメルマガを読んで、イラン攻撃に備えた世論の地均しのため、米国が何らかの示唆を行った可能性を考えたわけです。
 米国にとって喫緊の課題は「ドルによらない原油代金決済」「核開発」などで米国の覇権に挑戦するイランへの対応でしょうから、当然、グルジアを捨て駒にする選択肢も考えられるでしょう。
※参考:ロシア優位のまま停戦 グルジアは見捨てられるのか-JanJanニュース
http://www.news.janjan.jp/world/0808/0808124422/1.php
>太田さんはグルジア―南オセチア間はすでに戦闘状態にあり、米国の意向などなくともサアカシビリにはツヒンバリに攻勢をかけるには十分な動機があったと反論している(コラム#2742)
 当方、最初の投稿で「コソボ独立宣言の後、米国あるいはイスラエルのイラン空爆とどちらが先かと思っていたら、こちらが先でした。」と書いている(コラム#2738)ように、臨戦態勢であったことは十分に認識していた事を示しています。
 それに太田さんが反論?読み違いではないですか?
>でも、この陰謀論を支持する情報が北野・田中両氏のメルマガ以外にあるわけでもないんでしょ。(コラム#2742)
 これはまた随分と礼を失したコメントですね。
 ガーディアンの報道を「現地で見たわけでもなく」即刻「事実」認定する感覚の為せる業でしょうか。
 では、バグってハニーさんはご自分の考えなしに、どこかの典拠を丸写ししているのですか?ご自分がそうでないなら、他人も「自分の考え」を持っていると考えるべきではないですか?
 前述のコメントで回答になっていると思いますが、ソ連崩壊後の周辺国の状況、中央アジア・中東をめぐる資源戦争、英米vsロシアや英米vsイランの関係、ドル基軸体制の終焉(byジョージ・ソロス)等々について、当方が知り得た知識から思い至ったことですので、悪しからず。
<バグってハニー>
 海驢さん。
>何をもって「陰謀論」と仰っているのか理解しかねますが、グルジアのような小国が(しかもイラクに2千名もの精鋭部隊派遣中に)ロシアと本格的に事を構えるとは、バラ革命以来の支援者であり軍事顧問を派遣中でもある米国から、冒険主義を後押しする何らかの示唆を受けた可能性を考えるのは自然ではないですか?(正誤はともかく)
 可能性というのは無限にあるんですよ。それこそサアカシビリに神のお告げが下ったとか、火星人がグルジアに飛来してその科学力を当てにしてツヒンバリ攻撃を始めたとか(ふざけているのではなくて、次の投稿で紹介するワシントン・ポストの記事にあった表現をアレンジしてみました)。だから自分が思いついた可能性を挙げることにはたいした意味がなくて、大事なのは、数ある可能性の中でどれが一番もっともらしいか、一番説得力があるのか、一番可能性が高いのか、という程度を議論することなんですよ。「正誤はともかく」ではなくて、「正誤が一番大事」なわけです。そのためには、自説を裏付ける・支持する具体的根拠を見つけてくることが大事なわけです。
 「米国から、冒険主義を後押しする何らかの示唆を受けた可能性」を裏付ける具体的根拠、つまり米国の誰がグルジアの誰に何時どこでどんな示唆をしたのか、を私は何度も問うているのです。別に米英のメディアである必要はないんですよ。ロシア寄りの日本の報道でもロシアの報道でもロシアの諜報機関が出した情報でもなんでもいいんですよ(でも、田中氏と北野氏のメルマガは今まで説明したとおり、この件に関してはだめですよ)。それで、海驢さんはそういう具体的情報を一つももってないんでしょ?だから、その可能性はもっともらしいとは言えない、可能性として高いとは言えない、と言っているのです。
 私が唱えているのは海驢さんのと対立するような可能性であって、「米国はグルジアの軍事行動を後押ししたどころか、むしろ押しとどめようとした」というものです。そして、しつこいですが、私はいくらでもこの可能性を裏付ける具体的情報を挙げることができます。
・先月、ドゥブロヴニクで米国国務省幹部達がサアカシビリ・グルジア大統領にコーカサスで軍事行動をとらないように警告した。(ガーディアンの報道)
・米国務省欧州ユーラシア局のブライザ次官補代理の会見(朝日新聞の報道)
「ロシア軍はグルジア軍の何倍も強大。グルジアは持ちこたえることができない」とグルジアに攻撃の自制を求めた
「戦車などの陸上部隊は食い止められても空爆でやられる」などとも訴えた
・(ワシントン・ポストの報道によると、8月7日夜、グルジア軍によるツヒンバリ攻撃の開始数時間前)サアカシビリは西側NATO諸国の指導者達に何度も電話でコンタクトをとった。(後の)外国の報道陣とのインタビューで(サアカシビリは)「私は狂ったように電話をかけ始めました」と語っている。
米国のブライザ特使によると「我々の反応はこうだ『罠にはまるんじゃない、ロシア軍と対峙するな』」。ブライザによると、グルジアの機甲部隊がすでに南オセチア境界線に向かって移動を開始していたこと、サアカシビリが停戦を宣言した後にも移動を続けていたことはブライザには知らされていなかった。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/16/AR2008081600502_3.html?sid=ST2008081700211&s_pos=
>また、英米メディアの「小国グルジアを大国ロシアがいじめている」というニュアンスの報道姿勢からは、ロシアを悪者化する(ボスニアの時と同様の)意図を感じます。まして、太田コラムでも言及されているとおり、米国はイラン攻撃を控えており(コラム#2736など)、それに反対するロシアを抑える口実を欲していた事は確実と思われます。
>であるからこそ、先の投稿(コラム#2742)において述べたように、「イランがグルジア情勢に並々ならぬ関心を抱いている」とする宮崎正弘氏のメルマガを読んで、イラン攻撃に備えた世論の地均しのため、米国が何らかの示唆を行った可能性を考えたわけです。
 せっかくですから、私の意見も開陳しておきます。海驢さんが挙げたような周辺の情勢も加味すれば、「米国がグルジアの軍事行動を後押しした」という説は自己矛盾・破綻しています。
 米国はイランを攻撃しようとしてたんですよね?ロシアではなくて。そして、グルジアとロシアの戦力比をみればグルジア単独でロシアを抑えることなんて不可能なことは米国にとって自明ですよね?で、米国はイラク・アフガニスタンの両戦争で疲弊し、さらにこれからイランともどんぱち始めるわけですよね。つまり、米国にとってそれ以外(イラク・アフガニスタン・イラン以外)に割ける戦力はますます小さくなるわけですよね。
 それなのに、何ゆえに米国は新たな火種を欲したのですか?ただでさえロシアにかまっていられない時に、イランを攻撃すればロシアとの関係が悪化するのはわかっているのに、何ゆえ逆にロシアを挑発しようとするのですか?グルジア単独ではロシアに簡単にやられてしまうから、米国はどこかの時点でグルジアを軍事的に支援する必要がありますよね。これからイランと戦争をしようというとき?米国の戦力はこれからさらに厳しくなることがわかっているのに?
 むしろ、このような米国の事情を考慮すれば、何ゆえに米国が必死にサアカシビリの軍事行動を押しとどめようとしたのかが私にはよく理解できるのですが。
<太田>
 そう。
 陰謀論に立つと、どうして米国が自傷行為的な陰謀を行ったのか説明がつかなくなります。
 もっとも、田中宇氏は、米国内の隠れ多極派が米国を弱くしようとしている、というユニークな持論をお持ちなので、説明は一応つくわけです。
 以前は、いつもこのオチのところで抱腹絶倒していたのですが、最近ではマンネリで笑えなくなったので、息抜きのためにたまに同氏のメルマガ斜め読みする習慣を止める頃合いかもね。
<ライサ>
論客の皆様 有り難うございます。
 海驢様、
>『事実はいずれ明らかになるでしょうから、現時点では「こういう情報・報道がある」「ふ~ん、じゃあ○○かもしれませんね」ぐらいのレベルで良いのではないでしょうか?』
 適当で、何か物足りないのですが、所詮、渦中に居なくて(居ても・居るからこそ、分からないことも有るでしょうが!)、インターネットで集めた私たちの議論なんて、貴方のおっしゃるとおりかもしれませんね。本当は、誰もが真実を言っていて、誰もが真実を言ってないようで、変な気分です。
 でも、情報を探して、何かを組み立てるって楽しいですね。「だから、俺が言ったじゃないか」、とか「私が言ったでしょ」とか「わしが思った通りだ」とか、自慰行為に似て止められなくなりますよね。(笑)。
<新規有料購読申し込み者>
 コラムの無料購読を続けてきましたが、これほど価値のある見解を無料で読むのは失礼だと感じたからです。
 益々のご活躍をお祈りいたします。
<太田>
 ありがとうございます。
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太田述正コラム#2745(2008.8.23)
<恋と愛について>
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