太田述正コラム#2785(2008.9.12)
<事故米横流し事件>
1 始めに
 事故米横流し事件を論じておきましょう。
2 報道の概要
 「食用に使用してはいけない事故米と呼ばれるコメが、焼酎や菓子などに転用されていたことが発覚した。・・・農水省は、事故米を不正転売していた三笠フーズに、平成16~20年に95回も立ち入り調査をしている。しかも、偽装の疑いがあるという通報は以前にも受けている。偽装を見破ることができなかったのも当然の話で、調査日を事前に連絡し、三笠フーズの帳簿や伝票だけをチェックしていたに過ぎなかった。転売先のチェックをしないで、三笠フーズの言葉だけを信用していたのである。
 もっとも、「だまされていることを公にしたくなかった」という本音が、農水省にあるのではないか。ところが今回は、摘発しないとマスコミに情報が流され、ミートホープ事件の二の舞いになると察したのか、やっと本気で調査したのではないだろうか。事故米を食べさせられている消費者のことなど、全く眼中にないのではないか。
 農水省への不信はこれだけではない。判明している転売先の企業名を最初は公表せず、次は同意を得た企業だけ公表した。「消費者に健康被害を与える可能性がないから」だという。 
 事故米から検出されたカビ毒のアフラトキシンは、「地上最強の発がん物質」といわれ、JECFA(FAO=国連食糧農業機関=とWHO=世界保健機関=の合同食品添加物専門家会議)は「遺伝毒性発がん物質なので、摂取量を可能な限り低減すべきだ」としている。
 酒や菓子類は、原料原産地表示の義務がないので、消費者は輸入米を使っているかどうかも分からない。コメ菓子などを食べずに持っている消費者もいるだろう。公表すれば、消費者は食べずに済むことができるのだ。
  「公表すると事業者側の不利益になる」と農水省はいうが、公表しないことは、消費者だけでなく、業界に多大な不利益をとなっていることが分かっていない。・・・」(
http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/080912/sty0809120746003-n1.htm
。9月12日アクセス(以下同じ))
 「・・・政府は価格の安い輸入米が不正に横流しされ、国内のコメ農家が打撃を受けないよう厳しく流通を管理してきた。
 大半が輸入米である事故米も同様だ。政府との売買契約に基づき、購入した業者は加工計画書を提出。農政事務所の職員が出向き、工業用の原料にするためコメを砕く作業に立ち会い、帳簿類も点検する。入荷と出荷を突き合わせ、横流しがないか確かめるためだ。
 こうした立ち会い調査を農水省は、三笠フーズ(大阪市)に対して過去五年間で九十六回も実施<ただけでなく、三笠フーズからの転売先である>浅井(名古屋市)、太田産業(愛知県小坂井町)にもそれぞれ十六回、二十六回行った。
 だが回数も多く一見厳しそうなこの調査が、業者とのなれ合いの温床になっていた。
 農水省によると立ち会い調査は通常、業者と相談した上で、一週間ほど先の実施日を決めて行われていた。
 三笠フーズは、立ち会いがある時だけコメを砕き工業原料用の袋に詰めて見せ、職員が帰ると別の袋に入れ替えていたとされる。
 さらに、一部の業者は入出荷の帳尻を合わせた架空帳簿を常備。「(調査は)数十分ほど。ほかにも仕事があるから」(元農政事務所勤務の職員)という立ち会いでは、架空帳簿まで見抜けるはずもなかった。
 一方、事故米を購入する業者が、農水省にとって便利な存在だった点も見逃せない。
 事故米を焼却するにもコストがかかる。過去五年間で政府から事故米を購入したのは十七社。農水省の担当者は「米の状態が悪いと手を挙げる業者がいない。そんな時は、とにかく売れればと、三笠フーズなど実績のある業者に購入を打診することもあった」と明かす。
 問題発覚後、農水省は事故米が流通した可能性がある仲介や加工、販売業者の名前を、ほとんど公表していない。残留農薬やカビ毒が微量なことから 「健康への影響はない」と安全性を強調。業者への影響とてんびんに掛けた上で「同意を得た転売先だけ公表」という方針を貫いている。
 担当者は「われわれは公表をお願いする立場」と弁明。食品衛生法に触れる汚染米の調査権限は、基本的に都道府県の保健衛生部局にあるからだ。「連携して調査している」(担当者)とはいえ、消費者の安全という最も大切な視点は、縦割り行政の高い壁の前に置き去りにされたままだ。
 農水省の白須敏朗事務次官は十一日の会見で「立ち会い調査が非常に不十分だった」と認め、抜き打ち実施など調査を強化する方針を示した。だが、地方の農政事務所でコメや麦を管理する食糧事務を担う職員は、十年前の約一万人から現在は約二千三百人に激減。今や同事務所の存廃自体が政府内で取りざたされる状況で、強化を口にできる根拠は見あたらないのが実情だ。」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008091202000101.html
 「農薬や毒カビに汚染された「事故米」が食用として出回っている事件で、・・・農水省は「事故米」を、工業用糊や、木材の合板や修正材の接着剤の原料使用に限り販売を許可していると説明していたが、・・・問題を起こした三笠フーズの場合も「工業用糊加工品」に用途を限定することを条件に販売したという。しかし、工業用糊メーカーの大手ヤマト、不易糊工業、住友3Mに・・・取材すると、いずれも、澱粉糊のうち「米を原料にしているものはない」という答えが返ってきた。また、「米を原料に糊を作っているメーカーがあるという話は聞いたことがない」のだという。ちなみに澱粉糊はヤマトがタピオカ、不易糊工業はコーンスターチを原料にしている。また、森林総合研究所によれば、合板を作る際や、修正材に使う接着剤の原料に小麦を使う例はあるものの、米を使ったものは見たことがないそうだ。・・・」
http://news.livedoor.com/article/detail/3816468/。9月12日アクセス
 「・・・農林水産省は十一日、米粉加工販売会社「三笠フーズ」などによる汚染米転売問題の再発防止策として、カビ毒や残留農薬を含んだ汚染米の売買を全面的に廃止する方針を固めた。
 対策では、ミニマムアクセス(最低輸入量)米で汚染米が含まれていることが輸入検疫で判明した場合、輸出国へ返品する。国内米で発生した汚染米の売買も認めない。・・・
 同省はさらに、食品全般に対するチェック態勢を大幅強化する方向で検討を開始。
 具体的には、・・・立ち会いなどの日程を業者側に事前に通知するこれまでの方法を見直し、抜き打ち方式に切り替え・・・る方針だ。」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2008091202000129.html
3 終わりに代えて
 米は、かつては日本の食糧安全保障における基幹食糧でしたが、今では穀物のうちの一つに過ぎないのに、依然として海外からの輸入が厳しく規制され、べらぼうな内外価格差が維持されています。
 言うまでもなく、自民党恒久政権下の政官業の癒着構造がこのような米政策を墨守させてきたわけです。 
 今や農水省は、個々の農家や消費者のことなど、全く眼中にありません。
 このような政策の下で、農家の後継者難等による空洞化や消費者の米離れが進展しています。
 かかる背景の下、農水省の役人達の士気や仕事に対する意欲が低下するのは当たり前であり、今回の事件を通じてその恐るべき無能、退廃ぶりを改めて天下に晒した、ということでしょう。
 断末魔の自民党政権に、一刻も早くトドメを刺さなければなりません。
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太田述正コラム#2786(2008.9.12)
<マケインの逆襲(その2)>
→非公開