太田述正コラム#2705(2008.8.2)
<イラクにおける女性自爆テロ>(2008.9.14公開)
1 始めに
 米軍の統計によれば、イラクでは今年に入ってから、既に少なくとも27件の女性による自爆テロがありました。
 これは、昨年わずかに8件しかなかったことからすれば、大変な増加です。
 これをどう考えるべきか、ご説明するとともに、改めて、女性による自爆テロそのものについて考察してみたいと思います。
2 イラクの治安状況の改善
 実は、イラクの治安状況は著しく改善されてきているのです。
 今年7月の在イラク米軍の戦闘による死者数は5名で、これを含む在イラク米軍の総死者数は13名でした。
 これは、対イラク戦争が始まってから5年間で、いずれも最低の数字です。
 昨年など、100名以上の死者が出た月が何ヶ月も続いたのですから、様変わりもいいところです。
 (在イラク米軍の月別死者数のグラフが、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/07/31/AR2008073100609.html
(8月2日アクセス)に載っている。)
 どうしてそうなったかについては、ここでは繰り返しません。
 また、イラクの一般市民やイラクの治安部隊の死者数については、上記5年間をカバーする統計がないのですが、今年7月の死者数は651名であり、その前の6月の917名、前の前の5月の1,135名よりも顕著に減少しています。
 これは、あらゆる、米軍やイラク一般市民やイラク治安部隊に対する攻撃が昨年に比べて顕著に減少しているからです。
3 それなのに女性自爆テロが増えているのはなぜか
 それなのに女性自爆テロが増えているのはどうしてなのでしょうか。
 実は、イラクでは自爆テロそのものが増えているのです。
 これは、治安状況の改善により、大きな爆弾を使用して、米軍の車両やモスクといった重要構築物に対してテロを決行することが困難になったからなのです。
 これに対し、一般市民の群衆に対して決行されるところの、自爆テロを防止することは極めて困難であることは容易に想像できると思います。
 女性自爆テロの防止は男性自爆テロよりも更に困難です。
 なぜなら、女性自爆テロリストが衣服の下に隠している爆弾を、大部分が男性であるところの治安要員が触ったり衣服を脱がしたりして発見することが、イスラム世界でははばかられるからです。
 ですから、女性自爆テロは自爆テロ全体の増加以上に増えてきているのです。
4 女性自爆テロリストの特徴
 イラクに限らず、女性自爆テロリスト一般の動機等は男性の場合と基本的に同じであり、自分の所属するコミュニティーに対する深い忠誠心と敵性勢力に対する様々な個人的うらみの組み合わせです。
 ただ、自爆テロが起きるような社会ではおおむね女性の地位が低いことから、女性は疑いをかけられにくく、爆弾を隠してもバレにくいのが実態です。
 また、女性自爆テロは衝撃的に受け止められることから、内外メディアによる注目度が男性自爆テロに比べて高いという事実もあります。
 興味深いのは、女性自爆テロは男性自爆テロに比べて、特定人物の暗殺により用いられてきたことです。
 一番有名なのは、1991年のスリランカのタミル・タイガー(Liberation Tigers of Tamil Eelam =LTTE)の一員の女性によるラジブ・ガンジー(Rajiv Gandhi)インド首相の自爆テロによる暗殺でしょう。
 全世界の自爆テロ統計によれば、女性自爆テロが占める割合は自爆テロ全体の15%に過ぎませんが、特定人物の暗殺のために決行された自爆テロ中、女性自爆テロが占める割合は65%にものぼり、女性自爆テロの対象は5人に1人が特定人物であるのに対し、男性自爆テロの対象が特定人物であるのは25人に1人にとどまっています。
 (以上、特に断っていない限り
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7532235.stm
(8月1日アクセス)、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/07/31/AR2008073100609_pf.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/01/AR2008080103128_pf.html
http://www.nytimes.com/2008/08/02/opinion/02orourke.html?ref=opinion&pagewanted=print
(いずれも8月2日アクセス)による。)
5 終わりに
 女性が抑圧されている社会において、自爆テロリストとなることで、彼女たちはその社会の女性の地位向上に意図せずして貢献しているのかもしれませんね。
 合掌。
 それにしても、いかなる社会においても、女性が自分の命をかけて特定の男性を命を狙ったら、男性は女性に対しては脇が甘いので、成功率は高いでしょうね。
 くわばらくわばら。