太田述正コラム#2713(2008.8.6)
<ウィグル族蹶起す?>(2008.9.18公開)
1 始めに
 7月4日に中共の新疆ウイグル自治区カシュガルでウィグル人による警官隊襲撃事件が発生しました。
 この事件について、まずは米国でどのように報道されているか、等をご紹介することにしましょう。
2 米国での報道内容
 (1)当局の発表内容
 7月4日午前8時に70人の警察官達がカシュガルのYiquanホテルの前を朝の日課であるジョギングをしながら通り過ぎようとしていたところ、一人の男が運転するトラックが突っ込み、トラックは電柱にぶつかって止まります。犯人はそれから手製の爆発物を負傷した警察官達めがけて投げつけます。しかし、この爆発物は早く爆発してしまい、犯人の手は吹き飛びます。
 今度はもう一人の男がこのホテルから数百ヤード離れた警察署の門の近くで爆発物を投げつけます。この男も上記トラックに乗っていたのかどうかは定かではありません。
 二人はその場で逮捕されましたが、警察官16名が死亡し、16名が負傷しました。
 トラックの中から、更に9個の手製の爆発物、1丁の手製の拳銃、2本の長いナイフと2本の短刀が発見されました。二人のうち一人は、ナイフで警察官に斬りつけようとしたという報道もあります。
 当局によれば、犯人の二人は、八百屋のアハメット(Kurbanyan Ahmet)28歳とタクシー運転手のラーマン(Abdul Rahman)33歳であり、彼らは宗教的信条の方が命よりも、そして彼らの家族の幸せよりも、彼らの母親の幸せさえよりも重要であると語っているとのことです。「連中はジハードを決行するために最善を尽くそうとしていた」というのです。
 更に、当局によれば、彼らは一ヶ月前からこの襲撃を計画しており、4日の早朝大型のトラックを盗み、北京時間の午前8時ちょっと過ぎ(非公式の現地時間では6時ちょっと過ぎ)、彼らのうち一人がもう一人に電話で、警察官達が外で訓練のためにジョギングをしていると伝えたというのです。その後トラックの運転者はスピードをあげて70名の集団に後方から突っ込み、冒頭記したような仕儀と相成ったわけです。
 当局によれば、昨年から中共内外の東トルキスタン勢力(ウィグル独立を目指す勢力のことを中共当局はこう呼ぶ(太田))は北京五輪をターゲットにサボタージュや暴力的活動を試みてきており、今回のテロ事件は、3月の新疆ウイグル自治区の首都ウルムチでの航空機襲撃未遂事件、同じく3月のヘチアン(=Hetian。ウイグル語ではホータン=Khotan)での騒擾事件と同様、その一環であるとも見られるというのです。
 ちなみに、7月には自らをトルキスタン・イスラム党(Turkistan Islamic Party)と称するグループが、今週金曜日から始まる北京五輪の期間中に襲撃を行うと語ったビデオを公表したところです。
 ウィグル独立を目指す勢力は多数のグループに別れているとされています。
 当局によれば、今年に入ってから、この勢力の82名を逮捕し、ETIMのメンバー3名を処刑しました。ETIMは外国のイスラム過激派と連携しており、彼らから爆発物の作り方等を伝授されているとのふれこみです。
 ETIMの別称と考えられているトルキスタン・イスラム党は7月、雲南(Yunnan)省の首都である昆明(Kunming)で起こったバス爆破事件や他の3つの爆破事件は自分達がやったと述べたところです。
 (2)疑問の声
 もちろん、このような中共当局の発表内容の信憑性を一概に否定はできませんが、米国では、今回の事件は政治的目的のテロではなく、単に個人的うらみをはらすのが目的であった可能性が高いという意見が専門家の間から出ています。
 新疆ウイグル自治区に限らず、個人的うらみに基づく警察襲撃事件が中共の様々な所で頻発している、というのがその根拠です。
 7月1日にも、上海で警察署に火炎瓶を投げつけた上で、中にいた警察官達をナイフで刺し、6人を殺害した事件が起こりましたが、これは氷山の一角だと考えられているのです。
 (以上、
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/04/AR2008080402389_pf.html
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1829791,00.html
http://www.nytimes.com/2008/08/06/world/asia/06kashgar.html?ref=world&pagewanted=print 
(いずれも8月6日アクセス。以下同じ)による。)
3 日本人記者への暴行事件
 この事件の現場で4日、10人ほどの各国ジャーナリストとともに東京新聞の記者が取材していたところ、この記者は突然、数人の武装警察官に取り囲まれ、そのまま身体の自由を奪われ、連れ去られ、また、事件現場からやや離れたところで取材していた日本テレビの記者も突然武装警察官に羽交い締めにされ、東京新聞の記者は、脇腹をけられ、頭を足で踏み付けられ、テレビの記者はあごなどを殴られるという警察による暴行事件が発生しました(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008080502000252.html)。
 この事件について、中国外務省報道局の秦剛副局長は5日、在北京日本大使館に対し、「現地で起こったことは遺憾に思う」と電話で伝えました(
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008080690025920.html)。
4 終わりに
 外国のメディアによる取材が困難な状況下では、中共でのこの種事件の真相を解明するのは容易ではありませんが、今後ともウィグル独立を目指す勢力の動向に注目して行きたいと思います。