太田述正コラム#2721(2008.8.10)
<グルジアで戦争勃発(その2)>(2008.9.20公開)
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<最新戦闘状況>
 「独立を主張する南オセチア自治州の州都ツヒンバリ中心部まで進攻したグルジアの電撃作戦。軍事大国のロシアは小国グルジアを 相手に後手に回り、巻き返しに苦慮しているもようだ。メドベージェフ大統領とプーチン首相の「双頭政権」が抱え込む非効率な指揮系統が背景にあるとの見方 が浮上している。・・・これに軍事作戦上、グルジア軍の実力を過小評価したロシア軍の誤算が重なった。北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指すグルジアは、欧米諸国の支援により急速に軍装備や兵員訓練での「脱ソ連」、「近代化」を進めた。ロシア軍事筋は「今回の夜間電撃作戦は米軍やイスラエル軍に似ており、ロシア軍では不可能な水準だ」と指摘。軍事評論家のフェリゲンガウエル氏は「グルジアの軍事力はロシアを除く独立国家共同体(CIS)諸国の中で最精強だ。ロシア軍幹部は一九九〇年代の弱体なグルジア軍の印象にとらわれ、能力を過小評価していた」とみている。」(
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2008081002000111.html
。8月10日アクセス)
 この東京新聞の記事は、ロシアの諜報筋の、ミクロ的には正しいが、マクロ的には誤った情報に踊らされたヨタ記事であると言って良いでしょう。
 欧米の主要メディアは一致して、マクロ的に見れば、グルジア軍は、グルジア軍の攻撃を予期していたかのような迅速なロシア軍の大反撃によって苦戦を強いられていると報じています。
 ただし、南オセチアの首都では、首都北部のロシア軍と首都中心部と南部のグルジア軍との間でなお戦闘が続いているようです。
 グルジア軍は、ロシアと南オセチアを結ぶ唯一の道路の遮断を図っているものの、それに成功しておらず、グルジア軍は、南オセチア内のロシア軍は2,500人以上に達したとしています。
 なお、南オセチアの首都Tskhinvaliを日本のメディアは「ツヒンバリ」と表記していますが、当分、「ティンヴァリ」で行こうと思います。
 現在進行形のグルジア「戦争」の背景については、後でご紹介しますが、とりあえず興味深いことは、ロシア軍が激しく爆撃した、グルジア本体内のゴリは、グルジア人たるスターリン(Joseph Stalin)の生まれ故郷であっていまだにスターリンの像が建っているような場所であることと、ソ連時代にオセチアを南北に分断し、南部をグルジアに属せしめ、北部をロシアに属せしめ、後世に紛争の火種を残したのも、このグルジア人たるスターリンだったことです。
 さて、9日も戦闘が続き、全面戦争の様相となってきています。
 グルジアから事実上独立しているアブハジアでも、その「政府」軍が、アブハジア領内で唯一グルジアが2006年以来実効支配している上部コドリ峡谷(Upper Kodori Gorge)への砲撃を開始しました。
 また、ロシア軍は、欧米諸国政府に通知した上でアブハジアの港、オチャムチレ(Ochamchire)に黒海艦隊の艦艇(複数)を寄港させようとしていますが、これは陸上部隊を上陸させ、上部コドリ峡谷に駐留しているグルジア軍部隊に攻撃をしかけるのが目的だと解されています。
 これに伴い国連は、アブハジア「政府」の要求に従い、アブハジアに駐留している15人の軍事監視団を撤退をさせましたが、その直後からロシア軍機がコドリ峡谷への空爆を開始しました。
 ロシア軍によるグルジア本体内への空爆についてですが、TU-22超音速戦略爆撃機(54,000ポンドの爆弾と巡航ミサイル搭載可)が初めて投入されており、弾道ミサイル攻撃も行われるに至っています。
 ロシア側は、撃墜されたロシア軍機は2機にとどまっているとしていますが、グルジア側は10機を撃墜したとしています。
 これだけの大攻勢をロシア軍がかけてくることは、グルジア政府の予想を全く超えていたようです。
 なお、五輪開会式に出席していたロシアのプーチン(Vladimir V. Putin)首相は、9日夜、ウラジカフカスに到着し、直接ロシア軍部隊を督戦しており、メドヴェデフ(Dmitri A. Medvedev)大統領の存在感は一層希薄になっています。
 (以上、
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/10/russia.georgia
http://www.guardian.co.uk/world/2008/aug/10/russia.georgia1
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/09/AR2008080901769_pf.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/09/AR2008080900238_pf.html
http://www.nytimes.com/2008/08/10/world/europe/10georgia.html?_r=1&hp=&oref=slogin&pagewanted=print
(いずれも8月10日)による。なお、以下はこれらも参照する。)
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