太田述正コラム#2877(2008.10.28)
<皆さんとディスカッション(続x289)>
<moshika>
≫さあこれは、ぜひ私以外の読者の方に答えていただきたいですね。≪(コラム#2875。太田)
 浅学ながら、失礼します。
 集団的自衛権を行使しないということは、自国への直接攻撃だけを阻止すれば、日本の平和が守られるという考え方になると思います。しかし、日本の平和は、本当に日本列島の平和だけに依拠しているかは疑問ではないでしょうか。
 例えば、日本は主要先進国に比べてエネルギーの石油依存度の高い国ですが、石油の大部分を中東に依存しています。また、原油の安定的な供給のため、カザフスタンやアゼルバイジャンでも油田開発のプロジェクトを進めているようです。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2008/3-4.pdf
では、これらの地域の安定は日本の平和の一条件と言えないでしょうか。
 日本人は、純粋な領土問題たる竹島問題には関心が薄いようですが、原油価格高騰時には大騒ぎでしたよね。考えてみれば、石油価格のほうが生活に直結しているので、ある意味当然ですし、実際に生活が困っている方もいますね。(これは竹島の領有権主張が不必要ということを意味しません。あくまで、領土の安全がすべてではないと言いたいがための一例です)
 http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/ishikawa/news/20081024-OYT8T00896.htm
 とすれば、日本への原油供給の大部分を担っている中東地域の安定だって、カザフスタンやアゼルバイジャンの安定だって日本の平和のために必要です。
 この理屈を、極端に敷衍すれば、「世界の平和」を求めなければならないのかもしれませんが、限度もあります。
ですから、本当の独立国家ならば、どの地域がどの程度自国の平和を担うのか自ら見極め、主体的に安定を作ろうとするでしょう。(例えば、NATOやEU)
 しかし、日本は、集団的自衛権を行使できず、他国への侵害を自国への侵害と見なせません。それは、日本と軍事同盟を結ぶ国は負担ばかり背負うことを意味します。そんな国と軍事同盟を結ぶのは「宗主国」しかないでしょう。
自衛権
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%86%E5%9B%A3%E7%9A%84%E8%87%AA%E8%A1%9B%E6%A8%A9
 よって、日本は、権益に関わる地域の安定を、他国との軍事同盟を通して主体的に構築することなどできませんし、可能性すらありません。
 もちろん、すべての独立国が自国の権益にかかわる地域の安定に寄与できるわけではないでしょうが、日本のように世界に冠たる経済大国であり、主要先進国でありながら可能性すら破棄している国は世界のどこかにあるのでしょうか。
 こんなもんでどうでしょうか。改めて考えてみると、自分でも分かってるような分かって無いような。ご意見聞かせていただければ幸いです。
<太田>
 拍手! 優等生的回答です。
<KS>
 私なりに回答してみます。
一、軍隊はネガティブリスト(ハーグ陸戦法規等)のみによって拘束される。
二、軍隊はポジティブリスト(集団的自衛権を行使してよい等)で規制すべきではない。
(例外的な項目はあり得る)
三、よって集団的自衛権を行使するか否かの集合範囲でなく、ネガティブリストの補集合が担保されているかが軍隊の機能に関する常識である。
四、そうでなければ、戦争を必要と主体的に判断した場合に足かせなく動かすことはできない。すなわち独立国家とはいえない。
五、このような常識によっておかれた軍隊を持つ国が独立国家である。
六、なお、軍隊出動のチェックは国会が行う。
 以上の典拠は、色摩力夫等の一連の著書(小室直樹との共著となっているが、上記内容は色摩氏担当)
(例)
http://www.interq.or.jp/sun/atsun/komuro/data/1993002.html
http://www.interq.or.jp/sun/atsun/komuro/data/1994002.html
<太田>
 すごい! これは天才的回答です。
 なお、ネガ、ポジの話ですが、私もコラム#227でやっています。
 私自身が集団的自衛権の問題を国家主権の自主的な部分的放棄という問題として特に訴えてきた理由を法律論と実態論から簡単に説明しましょう。
 まず、法律論です。
 第一に、ネガ、ポジの話は法律の話であるのに対し、集団的自衛権の問題は憲法の話であり、より重大だからです。
 すなわち、緊急事態下で、通常のネガ、ポジの話なら、その時の政府は、超法規的措置と称して乗り越えることができるけれど、集団的自衛権(の少なくとも中心的部分)は、憲法(の政府解釈)上の禁止事項(ネガ)であることから、乗り越えることは、より困難です。
 第二に、安全保障に係る憲法(解釈)上の定めとしては、このほかに「戦略核や本格空母等、他国に脅威を与える軍事力を保有してはならない」、「徴兵制をとってはならない」がありますが、前者はお経みたいなものですし、後者は実害がないので、実質的な禁止事項は「集団的自衛権を行使してはならない」だけだからです。
 次に実態論です。
 日本の戦略的地勢を前提にすれば、日本が安保条約によって法的に米国に守られている上に、より重要なことは、その米国が韓国及び台湾に軍事的コミットメント行い、かつ念を入れたことに、米軍が日本のみならず韓国にまで前方展開している、というのですから、日本が自らその領域防衛のため(=個別的自衛権を行使するため)に自衛隊(軍事力)を持つ必要は戦後一貫してこれまでありませんでした。このことは、現時点で見通しうる将来についても同様です。
 日本が日米戦争直前まで保有していた軍事力は、その大部分が領域(内地)外を防衛するための軍事力、つまりは広義の集団的自衛権行使のためのものであったことを思い出してください。
 ですから、日米安保及び米軍の前方展開の下で、日本が軍事力を保有するとすれば、その用途は大部分、米国とともに、あるいは単独で集団的自衛権を行使するためである、ということにならざるをえません。
 ところが、日本は憲法(解釈)上、集団的自衛権を行使できないというのですから、必然的に自衛隊の大部分は無用の長物だ、ということになってしまいます。
 以上のような、法律論と実態論を踏まえれば、日本は主権の一部を自主放棄して米国に委ねており、その結果日本は米国の属国(保護国)であることに甘んじている。米国に対して思いやり経費を支払っているのは宗主国たる米国への貢ぎ物であり、自衛隊を保有しているのは、単に、米国から武器を買うことで更に宗主国の歓心を買うためと、無知な米国の選挙民に日本だって宗主国米国に軍事面で全面的に依存しているわけではないという申し開きをするためだ、ということになるでしょう。
 集団的自衛権を行使できるようにすることは、ほぼ、日本が独立することとイコールである、と私が考えているゆえんがお分かりいただけたでしょうか。
<ミュンヘン>
 オバマ大頭領のコラムのときにコメントした者です。なるべく早く有料購読者になろうと思っています。太田さんを応援したいのはやまやまなのですが、遅れてではあっても無料でコラムが読めるのと本を買ったから、しばらくいいかなという気持ちもあるのです。
ゴメンナサイ。
<太田>
 お買い上げありがとうございました。
 なお、例外的に公開しないコラムもありますよ。
<ミュンヘン>
 『実名告発 防衛省』、『属国の防衛革命』、大変おもしろかったです。
 帯の写真もクールですごくいいと思います。でも、こんなに詳細に政治家や防衛省の腐敗ぶりを告発しているのに、何とかならないものなんでしょうか。改革への提言も最もだと思います。現実はどんどん総選挙が先延ばしになっていて、政権交代がいつ実現するのか不安になってくるのですが。
 佐高さんは集団的自衛権を認めさせてはならず、それが護憲のある種の生命線と信じている、と解説で書いていますが、それはいつまでも米国の保護国に甘んじ続けるということでしょうか。今の日本ではまだ独り立ちできないということなのかな。
 あと「日本はみずから望んで米国の属国になっているだけ」というのは言われてみると本当にそのとおりなんですね。その方が何かと都合がいいというか。でも、それがいつまでも通用するとはこの私でも思わなくなりました。やはり政権交代が必要ですね。
<コバ>
 実名告発 防衛省、入手しました。帯の写真かっこいいですよ!
<太田>
 帯の写真、好評なようで何よりです。
<友人TK>
 太田君へ。
 昨<26>日、『実名告発 防衛省』丸一日かけて読破しましたよ!
 眠い。
 今回の本は 随分一般向けになっていましたので かなりわかりやすくなったと思います。
 実名入りという表紙はインパクトありますね。
 本当は 実名の連中が どういういくらの案件を持ってきて いくらふところに入れたのか、間にはいってちゃっかり儲けた官僚や業者の取り分など知りたかったですね。
 そう暗闇の大きさを想像できるものが欲しいですね。
→ざっくり申し上げれば、防衛関係費について言えば、そのほとんど全額、とお考えいただけばよろしい。(太田)
 防衛省、外務省の「やる仕事がない」キャリアーの連中は腐っていると思いますし、指摘された状況は本当に寒くなりますね。内局と現場が仲たがいしているなども知りませんでした。
 検察も同じ官僚だということもなるほどそういう風に仕組みが成り立っているのだと知りました。迂闊でしたよ。
 一気に悪者が捕まらない理由がようやくわかりました。検察も天下りしたいのだということですか!
 天下り斡旋の新しい仕組みの決定については 全く隠れ蓑になるというと太田君は主張していますがもっとよく知りたいです。
 高橋洋一の書いている内容を詳細に比較反論してほしいです。
 ここが一番今知りたいポイントですので。
→おっしゃることは分かりますが、そもそも、天下りは、現時点でも違法なんですよ。いかなる制度をつくろうと、天下りシステムを維持するメリットが政官業癒着構造にとって存在する限り、天下りはなくなりません。(太田)
 官僚には天下りのかわりに恩給を与えることを提案されていますが賛成です。
 しかしなぜ最後の給料のレベルを保障するのか納得できないですね。
 うち<の会社>でも65まで働けますが年収は58から年収は3分の一から4分の一ですよ。
→最後の給料のレベルを保証するなんて言ってませんよ。ただ、いずれにせよ、そんなことは本質的な問題ではありません。(太田)
 また政治家の立法能力が問われているので政治家の周りに政策官僚を天下りのかわりに大量に張り付けるのではだめですかね?
→国会、及び個々の議員の政策立案能力を高める必要はありますが、現状では官僚ないし官僚OBで政策立案能力を持っている人物などほとんどいませんよ。(太田)
 またなぜ年金の統合をすべきだというのはないのでしょうか?
→少なくとも国家公務員は恩給制度にすべきです。(太田)
 年金を破壊したのはまぎれもなく厚生労働省ですよね。
 これから日本が独立して核武装するまでいかねばならないとすると、どういうことを覚悟しなければならないのか。
→核武装の必要性は必ずしもありません。(太田)
 新しい未来への具体的なステップとかやるべきことなども、次回、話を展開してほしいです。独立する自立するということの大切さを知らしめ、それと引き換えに負担すべきものをわかりやすく書いて欲しいな。
→そうですね。(太田)
 いろいろ勉強させていただき感謝!
 本当に太田総理になってほしいですよ!
→「総理」は冗談だとしても、グーグルで名前を検索すると、件数が、「太田述正」は外務省出身の天木直人氏の10分の1、財務省出身の高橋洋一氏の半分弱に過ぎません。防衛省ブランドなんてそんなものですよ。(太田)
<FUKO>
 コラム2875において、タイムズ紙のランキングにも学術面にウェートをおいたランキングにも、国立大学の文系ではトップクラスにある(http://www.toshin.com/daigakuranking/kkrb.phpより)一橋大学が登場しないのはどういった理由からでしょうか?
 一橋も慶応や早稲田と同じように、ろくな教育がなされていない、ということになるのでしょうか。それとも一橋の場合は単に「college」であるからなのでしょうか。
<ミュンヘン>
 コラム#2875で太田さんの引用されたタイムズ紙のTopuniversitiesのSocial Sciences部門のランキングでは一橋大学が101位に登場していますね。
 ちなみに21位に東京大学、42位に京都大学、83位に早稲田大学。
 慶応大学はトップ100には出て来ません。
http://www.topuniversities.com/worlduniversityrankings/results/2008/subject_rankings/social_sciences/
 Arts & Humanitiesでは28位に東京大学、37位に京都大学、56位に早稲田大学です。
 なんとかワセダが世界的にがんばっている(?)というかんじですね。
 高等教育機関がこの調子だと、確かに日本の独り立ちは難しいかもしれない。
<太田>
 どうもありがとうございます。
 2008年版もインターネットで出ていたのですね。
 
 19位に東京大学、25位に京都大学、44位に大阪大学、61位に東京工業大学、112位に東北大学、120位に名古屋大学、158位に九州大学、174位に北海道大学、180位に早稲田大学、199位に神戸大学、214位に慶應大学ですね。
http://www.topuniversities.com/worlduniversityrankings/results/2008/overall_rankings/fullrankings/
 また、ご指摘のように、2008年版は分野ごとの100位までのランキングもインターネットに出しています。
 Arts & Humanities(人文科学)のランキングは、28位に東京大学、37位に京都大学、56位に早稲田大学となっており、Social Sciences(社会科学)のランキングは、21位に東京大学、42位に京都大学、83位に早稲田大学、101位に一橋大学となっていますね。(何で101位まで載っている?)
 ついでに、Life Sciences & Biomedicine(生命科学&バイオ医学)のランキングは、15位に東京大学、24位に京都大学、36位に大阪大学、Natural Sciences(自然科学)のランキングは、10位に東京大学、13位に京都大学、40位に大阪大学、57位に東京工業大学、68位に東北大学となっており、Technology(工学)は、9位に東京大学、21位に東京工業大学、22位に京都大学、49位に大阪大学、98位に東北大学となっています。
http://www.topuniversities.com/worlduniversityrankings/results/2008/subject_rankings/arts_humanities/
http://www.topuniversities.com/worlduniversityrankings/results/2008/subject_rankings/social_sciences/
http://www.topuniversities.com/worlduniversityrankings/results/2008/subject_rankings/life_sciences_biomedicine/
http://www.topuniversities.com/worlduniversityrankings/results/2008/subject_rankings/natural_sciences/
http://www.topuniversities.com/worlduniversityrankings/results/2008/subject_rankings/technology/
 分野別のランキングは2007年版から始まったようですが、人文科学と社会科学での早稲田の健闘ぶりは意外ですね。しかし、早稲田が人文科学と社会科学で慶應より格段に上とか、社会科学で一橋より上とかいうのはちょっと腑に落ちないですね。
 理科系と違って文化系の国際的評価は(経済学等を除けば)むつかしい、ということなのかもしれません。
 いずれにせよ、慶應はすべての面で全然ダメ、そして理科系に関しては、慶應も早稲田も全然ダメ、ということだけははっきりしているのではないでしょうか。
 (なお、タイムズのランキングは、毎年計算方法を「改善」してきているので、時系列的比較をする時は注意が必要です。)
<太田>
 最後に、急ぎ足で、昨(27日)読んだ面白い記事をご紹介しておきます。
 「研究者のうちに女性が占める割合は日本では12.4%。先進国の中で際だって低い。たとえば米国は34%、英国は26%である。・・・実は、女性比率で全国平均を下回るのが国立の主要大学だ。」
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
10月27日アクセス
 日本ではこの1年で本を読む人が増えた。
http://www.chosunonline.com/article/20081027000015
 米国の赤地域と青地域への分裂の起源はジェファーソンとハミルトンの対立に遡る。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/us_elections_2008/7689734.stm
 グローバリゼーション下でもどこの国で生まれたかが、ほぼ人の一生を決めてしまう。http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-deblij26-2008oct26,0,784395,print.story
 宗教改革で知られるマルチン・ルターは極めつきに俗っぽい人物だった。
http://www.guardian.co.uk/world/2008/oct/27/martin-luther-protestantism
10月27日アクセス
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太田述正コラム#2878(2008.10.28)
<人間は戦争が大好きだ(その2)>
→非公開