太田述正コラム#2782(2008.9.10)
<金正日重病?>(2008.10.31公開)
1 始めに
 さんざん日本のTVでも報じていますが、金正日重病説の報道の整理をしておきましょう。
2 金正日重病説の報道の整理
 「金<正日>が最後に公の場に姿を見せたのは、8月14日に国営放送が、金が軍隊の部隊を視察したと報じた時だ。金が一カ月単位で姿を消すことはこれまでもしばしばあったことなので、このことはさほど問題視はされていなかった。・・・<ところが、北朝鮮>駐在外交団に対し、<当局より、9月9日の建国60周年記念行事の>数日前に、<同行事出席の際、>カメラを持参してもよいとの連絡があった。これは金がこの行事に出席しないと受け取られても仕方のないことだった。」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-kim10-2008sep10,0,3029826,print.story
(9月10日アクセス。以下同じ)
 「<そこへ、>韓国で最大の発行部数の朝鮮日報が9日、金が8月22日に倒れたと、氏名不詳の北京駐在韓国外交官の言をひいて報道した。」
http://www.nytimes.com/2008/09/10/world/asia/10korea.html?ref=world&pagewanted=print
 「・・・北朝鮮の金正日総書記は、北朝鮮の重要な記念日の一つである9日の建国60周年記念行事に結局姿を見せなかった。金総書記は1991年12月に朝鮮人民軍最高司令官に就任後、これまで実施された10回の全軍閲兵式にすべて出席していた。ここには建国50周年、55周年という節目の年の閲兵式ももちろん含まれる。
 しかし、金総書記は朝鮮労働党による政権が「還暦」を迎える<という極めて重要な>記念日であるにもかかわらず、正規軍による閲兵式を行わず、公開行事にも姿を見せなかった。・・・」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000010
 「・・・過去に建国50周年では正規軍2万人が、 55周年では正規軍1万人が動員された閲兵式が行われた。・・・北朝鮮は韓国戦争(朝鮮戦争)期間中を除き、建国記念日をいずれも盛大に祝ってきた・・・」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000011
 「・・・<また、>建国50周年と55周年のときは午前中に閲兵式と市民パレード、午後には舞踏会やたいまつ行進などを行っていた。・・・
 <ところが、>北朝鮮はこの日午前中、人民軍閲兵式などあらかじめ準備されていた行事を行わず、午後になって正規軍ではなく労農赤衛隊、赤の青年近衛隊、 さらに平壌市民のパレードだけを行った。
 ・・・昨年4月に行われた軍創設75周年記念行事では午前中に人民軍閲兵式を行い、正午に平壌放送で式典の模様を報じた。05年10月の労働党創設60周年記念式典では、午後3時に中央放送、平壌放送、中央テレビを通じて閲兵式の模様を録画中継していた。
 <ところが、>北朝鮮の朝鮮中央テレビは夜8時のニュースでも各国首脳からの祝電などを紹介しただけで、パレードや金総書記の動向には言及しなかった。中央テレビは夜9時になって労農赤衛隊などによるパレードが行われたことを初めて報じた。」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000018
 「<この結果、金正日重病説が全世界で報じられるに至った。これに対し、>9日に米国のある情報担当官は、・・・金が死間近であるようには見えないと語った。北朝鮮が権力の所在を移す準備をしていることを示す明確な気配が見いだせないからというのだ。・・・
 <また、>10日になって、北朝鮮外務省高官の宋・イルホ(Song Il-ho)が金重病と示唆する諸報道を否定し、「われわれはこのような報道は無価値であるのみならず、陰謀であると見ている」と語ったと共同通信が伝えた。その後、同国のナンバーツーである金永南(Kim Yong-nam)が金正日については「何の問題もない」と語ったと<同じく>共同通信が報じた。
http://www.nytimes.com/2008/09/10/world/asia/10korea.html?ref=world&pagewanted=print上掲
 「<更に、>北朝鮮の金正日総書記は最近健康に異常があったものの、回復しつつある」と米情報当局が判断していることが10日分かった。」
http://www.chosunonline.com/article/20080910000034
3 報道をどう受け止めるべきか
 一体、以上のような報道を、我々はどう受け止めるべきなのでしょうか。
 金正日はすでに相当前に死亡していて、8月14日に姿を見せたのだって金の替え玉ではないかという説もごく一部にはあります。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/09/09/AR2008090900506_pf.html
 こんな説はともかくとして、米スレート誌が’、Kim Jong, Ill? ‘という、(金正il(日)と金正ill(病)をひっかけた傑作な)タイトルの記事の中で、「<北朝鮮に拉致されていて、夫の韓国人映画監督と共に>逃亡に成功した<韓国人>俳優たる妻が、1994年にロサンゼルスタイムスのインタビューに答えて、金は全体主義的独裁者となる運命でなかったならば、超一流の映画プロデューサーになれていた・・・」と語っている」と報じた
http://www.slate.com/id/2199688/
ことを我々は肝に銘じる必要があります。
 金がそんな人物であるからこそ、「何人かの米国の官僚たちは、金は確かに病気のように見えるけれど、前例もこれあり、つかまえどころのないこの指導者が、彼の健康状態についての憶測を呼び起こすとともに、彼の不在がこの地域にいかなる波紋を産むかを見極めようとしている可能性があると指摘している」
http://www.csmonitor.com/2008/0910/p25s13-woap.html
わけです。
 「<すなわち、>金は、現在まさに核計画がらみでそうであるように、国際社会の中で困難な立場に立たされるとなおさら、自ら公の舞台から消え去ることで知られている。」
http://www.csmonitor.com/2008/0910/p25s13-woap.html 上掲
というのです。
3 終りに代えて
 「6月に金は原子炉の冷却塔の破壊をテレビ中継するために外国人スタッフ達を招じ入れた。しかし、8月に入ると、米国が<北朝鮮の>テロ支援国家リストからの削除という約束を果たさないとして、彼は逆方向に舵を切った。・・・金が公の場から姿を消してからというもの、米国の官僚達いわく、彼らは北朝鮮の核計画に関する最近の紛争を解決するための手がかりを北朝鮮サイドから得るため悪戦苦闘してきた。例えば、北朝鮮は米国が提案した検証計画を拒否したけれど、何の反対提案も行おうとしないのだ。それどころか、北朝鮮の作業員たちは冷却塔の残骸を片付け始め、あたかも今後再組み立てをするための機器を準備しているかのように見える。・・・
 <おまけに、>8月26日には、<北朝鮮の>国営朝鮮中央放送は、北朝鮮外務省発の得体のしれない声明を報じた。「我々の関連部局の強い要請に基づき、我々はヨンビョンの施設を元の姿に復旧させることを考慮するだろう」と」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/09/09/AR2008090900506_pf.html上掲
という、このところの北朝鮮の核問題への対処ぶりを見ていると、金が、米国がグズグズしていると、北朝鮮軍部が、核に係る米国等との合意を反故にして、核計画を復活させるかもしれないぞ、と米国を脅迫している、と見ることもあながち不可能ではないのかもしれません。