太田述正コラム#3030(2009.1.12)
<イスラエルのガザ攻撃(続x9)>(2009.2.25公開)
1 始めに
 今、ガザでのミニ戦争は、踊り場です。
 もちろん戦闘は続いているのですが、ハマス、イスラエル双方の首脳部の意見が割れていることから、新たな展開がなされずにいるのです。
 そのあたりのことを、イスラエルのハーレツ紙に主として拠ってご説明しましょう。
2 ハマスの首脳部の分裂
 「・・・11日現在、900人近いパレスティナ人が今次紛争によって死んだ。この中には275人の子供達と93人の女性が含まれる。この数字には、病院に担ぎ込まれなかったハマスの戦闘員達の数は全部は含まれていない。。。。」
http://www.nytimes.com/2009/01/12/world/middleeast/12mideast.html?_r=1&ref=world&pagewanted=print
(1月12日アクセス。以下同じ)
 「・・・<イスラエルの国内諜報機関である>シンベトの長のユヴァル・ディスキン(Yuval Diskin)は、11日に開かれた<イスラエル>全体閣議に、ハマスの能力は縮小しつつあり、その指導者達は、病院や地下壕に身を潜め、人道的援助物資を盗んで生きていると報告した。彼はまた、12月27日にイスラエルの攻勢が始まる前には、ハマスは毎日100から200のロケットをイスラエル南部に向けて発射していたが、この数日は、約20しか発射できていないと語った。
 これまでのところ、攻勢が始まってから、イスラエル人の死者は<わずかに>13人、うち兵士は10人で、そのうち4人は友軍誤射によるもの、そして残りは一般住民だ。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-hamas12-2009jan12,0,242828,print.story
 「・・・エルサレムで<開かれた上記全体閣議の場を借りて、>首相のエフード・オルメルトは、イスラエル国民に対し、イスラエルは「自分自身で設定した目標を達成寸前」だが、「更なる忍耐、決意と努力がなお求められている」と語りかけた。・・・
 この閣議の際、軍諜報機関の長・・・とシンベトの長・・・は、「甚だしい打撃を被ったことと、地上でほとんど何も戦果を挙げられなかったことで、ハマスの内部では停戦に応じようとする動きがある」と語った・・・。
 イスラエル政府関係者達は、このガザ内での<ハマスの>見解は、「全く妥協しようとしない」ダマスカスの亡命ハマス指導部、とりわけ政治指導者であるハレド・メシャル(Khaled Meshal)の見解とは対照的だと言っている。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/01/12/world/middleeast/12mideast.html?_r=1&ref=world&pagewanted=print上掲
 「・・・エジプトとの境界のパレスティナ側にアラブ諸国のだろうがどこのだろうが、国際軍事部隊を配備<してガザ地区への武器の搬入を監視・阻止>することに、<シリアの>ダマスカス駐在の<ハマス>指導部は強く反対している。
 (ダマスカス駐在の最高政治指導者のハレド・メシャルは、こんな部隊は占領軍だとまで言っている。)
 他方、<ハマスの>ガザにおける指導者達(注)は、彼らのダマスカスにおける同僚達に対し、国際部隊の駐留には反対しない、<だから、国際部隊の駐留を含むところの停戦案に同意する用意がある、>との意向を伝えている。・・・」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1054555.html
 (注)「・・・<上記イスラエルの全体>閣議で、シン・ベトの長・・・は、ハマスの上級幹部達が<ガザのある>病院の<イスラエルが造った>地下室に身を隠しているが、これは、上の方の階に患者達がいることから、イスラエルがそこを標的にはしないことを知っているからだと語った。<他方、>パレスティナの複数の筋は、本紙に対し、ハマスの上級幹部全員が1カ所に隠れているわけではないと語った。彼らは分散しており、何人かは常に居場所を変えているというのだ。彼らが使っている地下壕のいくつかは、近年つくられたトンネルで相互につながれているともいう。・・・」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1054569.html
3 イスラエル首脳部の分裂
 「・・・「第三段階」作戦(<ガザ市中心部とガザのエジプトとの境界一帯(ニューヨークタイムス上掲)を含む>領域の広範な占領)が決行されるかどうかの閣議はまだ開かれていない。・・・
 今までの<「第一段階」作戦の空爆、「第二段階」作戦の地上侵攻>は、ハマスとエジプトに対して、ガザの人々を恐怖に陥れる(terrorizing)ことによって圧力をかける目的のものだったが、イスラエルは、今のところ、これを続けているわけだ。
 1993年のアカウンタビリティ(Accountability)作戦において、イスラエル軍は24,000発の砲弾をレバノン南部に撃ち込み、30万人の一般住民を<首都>ベイルートへと追い立てた。当時の<イスラエル軍の>参謀総長がエフード・バラク<現国防相>だった。<バラクは、今回も相手を恐怖に陥れるだけでおしまいにすべきだ、と主張しているわけだ。>・・・
 <しかし、>パレスティナ当局の首相のサラム・ファイヤド(Salam Fayyad)は6日に停戦の実現を求めたものの、彼以外のパレスティナ当局の高官達は、イスラエルに最後まで戦い抜いてハマスの<ガザ>支配を終わらせて欲しいとイスラエルに伝えてきているときている。・・・」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1054555.html上掲
 「・・・<オルメルト、バラク、リヴニからなる>いわゆるトロイカは、11日夜に会って話し合いを行ったが、バラクとリヴニは、この鉛投げ作戦を可及的速やかに終えるべきだと主張したという。そこでオルメルトは、本件を安全保障閣議にかけることを望んだと思われる。そこでなら、大多数の閣僚がオルメルトの見解に賛同するからだ。
 リヴニは、攻勢を続けることは、既に達成したところの抑止力をだいなしにするとともに、イスラエルを外交的に損なう懼れがあると考えている。バラクがオルメルトに反対している主なものは、ガザの人口密集地域へと奥深く地上部隊を侵入させることだ。
 オルメルトは既に、11日に開かれた全体閣議において、閣僚達に、鉛投げ作戦を今終えることは、千載一遇の機会を失うことだと伝えている。
 オルメルトに近い複数の筋は、この3名の会談後、安全保障閣議の閣僚達の大部分はオルメルトの立場を支持しており、それどころかこれらの閣僚達は、この作戦は一層拡大されなければならないと信じている、と語った。
 オルメルトは、本(12)日、安全保障閣議を開き、作戦の拡大について承認を取り付けるのではないかと見られている。
 オルメルトに近い人々は、安全保障閣議の閣僚でリヴニの主張を支持している者は皆無であり、また、ハマスとの合意がなされなければならないとするバラクの主張を支持している閣僚もごくわずかだ、とも語った。・・・」
http://www.haaretz.com/hasen/spages/1054554.html
3 感想
 民主主義国家の困ったところはこういうところです。
 外相(外務省)が、これ以上戦争を続けたら国際世論の袋だたきにあいかねないと思い、国防相(国防省)が、これ以上戦争を続けても兵士の死傷者が増える割には得るところが少ないと思っているのに、今のところ戦いが余りにもうまく行っているために、膺懲ハマスで熱くなっている世論に煽られ、外界や現場の風にあたっていない首相や閣僚達の大部分が結託して、それいけどんどんで突進するという図式です。
 ほんの少しずつ状況を変えれば、戦前の日本における図式と似てますね。
 さあ、これからリヴニやバラク、とりわけバラクがどう身を処するか、きたるべき数日間は見物ですね。