太田述正コラム#3036(2009.1.15)
<イスラエルのガザ攻撃(続x12)>(2009.2.28公開)
1 始めに
 表記に関するイスラエルの諜報戦略について、もう少しご説明しておきましょう。
2 報道規制
 「・・・<2006年の>第二次レバノン戦争の時の開放的政策とは対照的に、イスラエル国防省は、報道機関に対してガザ地峡を完全に閉ざすことを決定した。<1月初め、>・・・本件はイスラエル最高裁で係争中だ。
 妥協として、両者間で合意が成立した。・・・例えば、人道的援助を運び込むために関門が開かれた際に、8名の記者がガザに入ることを認めるというのだ。
 しかし、<4日時点では、まだそもそも>関門が開かれていない。・・・
 外国の記者達をガザに入れないのは、・・・報道機関がイスラエル側からしかこの戦争を経験できないことが、イスラエルのイメージに資する<と思っている>からだ<ろう。>・・・
 同時にイスラエルは、<報道内容の>軍事的検閲を極めて厳しくやっている。・・・」http://www.haaretz.com/hasen/spages/1052604.html
(1月5日アクセス)
 「・・・イスラエルは、6ヶ月間のハマスとの停戦が瓦解し始めた11月4日から、報道機関のガザ入りを規制し始めた。・・・
 5日に合意は破棄されたが、イスラエル外国人記者クラブは、6人の記者を抽選で選んでイスラエル政府に提出することが認められ、イスラエルは更に自分で2人の記者を選ぶことになった。
 こうしてできた最初のリストにイスラエルが入れた2人は米NBCとフォックス・ニュースの記者だった。どちらも親イスラエルの報道機関だ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jan/06/gaza-israel-international-media-excluded
(1月6日アクセス)
 「・・・<イスラエルは、記者のガザ入り規制の理由として、記者の安全とイスラエルの安全保障を挙げているが、>後者の理由は疑わしい限りだ。最近の米国の経験が、それがどうしてかを示している。
 何10年も報道機関による紛争の取材を煙たがってきた米国防省が、方針を変更してイラクとアフガニスタンで記者達が米軍の部隊に従軍し、あるいは戦場を自分で歩き回ることを認めた。
 その結果は、大部分の報道評論家によれば、従来より好ましい報道がなされるようになっただけでなく、ベトナム戦争の時以来の報道ぶりに比べてより生き生きした戦争報道がなされるようになったのだ。・・・」
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-finer14-2009jan14,0,2119251,print.story
(1月15日アクセス。以下同じ)
 「・・・イスラエルの欧米の報道機関をガザから閉め出すというイスラエルの決定は逆効果だったのでないか。というのは、ガザに支局を有するところの、アルジャジーラとかアルアラビーヤといったアラブの衛星TVの扇情的報道の独占を許すことになったからだ。
 確かに、何人もの優秀なパレスティナ人の記者達が欧米の報道機関のためにガザで仕事をしているが、一般住民の苦しみを示すところの改ざんされた写真や疑わしいビデオ映像の事例がいくつかあった。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1871487,00.html
3 「敵」一般住民向け諜報戦略
 「・・・イスラエルは、ガザのニュース・チャンネルやラジオ放送に侵入している。
 ニュースを見ていると、画面が真っ暗になってメッセージがしばらく流される。それは「君たちは我々の怒りを目撃することになるだろう」だったりする。そこでTVを消してラジオをつけると、やはり受信が妨害されてイスラエル軍からの別のメッセージが聞こえてくる。「君たち自身の安全のために家を出たまえ。そして君たちの町の中心に集まれ。こちらはイスラエル軍だ」と。いよいよTVもラジオも消すこととする。今度は、こういったメッセージが電話で伝えられてくる。ガザ地峡の大部分の住人達が、パレスティナの戦闘員達の行為に対して高い代償を払うことになるだろうと伝える録音メッセージを電話で受け取っている。・・・
 あたかも恐怖の雨が確実にガザの人々の上に降り注ぐことを期するかのように、イスラエルは何千ものビラを空から落としている。ビラには様々なメッセージが書かれている。
 メッセージの中には、その地域への攻撃が激化することを宣伝するものもある。武器や弾薬の貯蔵庫は標的にされるとか、新しい戦闘方法が見られるよとか。
 しかし、何と言っても最も不安と恐怖をかき立てるのは、その地域の住民達に自分達の家を離れ、イスラエル軍にEメールや電話で「テロ活動」を報告する形で協力せよと呼びかけるメッセージだろう。
 これには戸惑ってしまう。というのは、基地のある組織化された軍隊、武器貯蔵施設、そして組織化された関係組織をハマス等が持っていると見なしているからだ。
 大部分の人々は、一体イスラエルは何を言っているのだと混乱してしまう。
 ハマスは、彼らの知る限り、政治的、宗教的、かつ社会的組織だ。
 一般住民の大部分は、ハマスの軍事活動には関わっていないのだ。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1871129,00.html
(1月13日アクセス)
4 感想
 一見おろかな諜報戦略をイスラエルがとっているように思われるかもしれませんが、私には計算され尽くした戦略のように思われます。
 イスラエルの政治的軍事的大勝利で終わろうとしている、今次ガザ・ミニ戦争の帰趨を見るにつけ、そう思わざるをえないのです。
 残された唯一の懸案事項は、オルメルト首相が暴走しないで自制できるかどうかです。
 彼は、第二次レバノン戦争でミソをつけただけに、今次ミニ戦争で徹底的にハマスを叩きのめすことで汚名を一挙に挽回しようとしているのでしょう。
 失敗したところで、彼の政治からの引退は決まっているのですから、失うものは何もないのですからね。