太田述正コラム#3076(2009.2.4)
<新駐日米大使ジョセフ・ナイの対日政策観>(2009.3.21公開)
1 始めに
 明日、片岡秀太郎
http://chizai-tank.com/aboutus.htm
という人物のインタビュー(無償)を受けることになり、本日送られて来た質問項目の中に「新米国大使(諜報のプロ)の赴任の意味についてご教授下さい。」というのがありました。
 この質問の意味はイマイチよく分からないな、特に「諜報のプロ」ってのは初耳だな、と思いつつも、少し、ジョセフ・ナイ(Joseph S. Nye。1937年~。ハーバード大学教授)の対日政策観について調べてみました。
 手がかりになるのは、民主党のナイと共和党のリチャード・アーミテージ(Richard L. Armitage)が超党派で主宰して、米国のその他の15人の有識者とともに2007年2月に対日政策提言をとりまとめた ‘The U.S.-Japan Alliance—Getting Asia Right through 2020’ です。
http://www.csis.org/media/csis/pubs/070216_asia2020.pdf
 ちなみに、ナイは、現プリンストン大学教授のロバート・キーヘーン(Robert Keohane)と共同で、新自由主義(neoliberalism)国際関係理論を構築するとともに、国際関係における非対称/複雑相互依存(asymmetrical and complex interdependence)の概念を提示し、その後、単独でいわゆるソフト・パワー(soft power)理論を提示したことで知られている人物です。
 ビル・クリントン大統領の下で、国際安全保障担当国防次官補を務めたことがあります(注)が、オバマ新政権のヒラリー・クリントン国務長官が、このソフト・パワー理論そを踏まえたスマート・パワー(smart power)重視外交を打ち出したことは記憶に新しいところです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Joseph_Nye
 (注)次官補を辞めてハーバードに戻ったばかりのナイと、防衛庁主催のパーティで私は結構長く立ち話をしたことがある。ただし、恐らく彼は覚えていないだろう。
2 ジョセフ・ナイの対日政策観
 (1)お断り
 共同でつくった政策提言がどうしてナイ個人の対日政策観ということになるのか、というご指摘がありそうですが、そんなこと言ったら、そもそも大使というのは、本国の訓令に基づいて仕事をするのであって、それほど裁量権限があるわけではありません。大使の政策観について議論したって本来意味がないのです。
 しかし、ナイに関しては、必ずしもそうとは言えません。
 というのは、オバマは、できるだけ共和党の協力もとりつけて超党派で内外政策を遂行しようと心がけているところ、このような超党派の政策提言を行ったナイを駐日大使に起用し、しかもナイのソフト・パワー理論の信奉者であるヒラリー・クリントンを国務長官に起用したのですから、この政策提言は、オバマの、従ってクリントンの、そしてひいては大使としてのナイ自身の対日政策観であると解することができるからです。
 (2)政策提言の中身
 ・・・日本を核攻撃から守るコミットメントを含む、我々の安全保障上のコミットメントの最も基本的な諸側面については、我々の最も上級の政府首脳達によって繰り返し語られ、強調されなければならない。・・・
 米国と日本は、包括的な自由貿易協定に関する交渉を開始するつもりがあると宣言しなければならない。・・・
 中共の利害は米国と日本の利害と重なり合う部分はあるかもしれないが、同一ではない。・・・
 米国と日本は、それぞれがインドとの戦略的パートナーシップを強化しなければならない。また、両国は、インドとの間で三国間協力の適当な機会を追求しなければならない。・・・
 米国と日本は、北東アジアの主要諸国(米国、日本、中共、韓国、ロシア)が問題解決に共同であたるのが適切な機能的諸懸案を見いだすことに積極的でなければならない。・・・
 米国と日本は、インドネシアがアセアン諸国に繁栄、民主主義、安全保障をもたらすべく行っている努力を支援しなければならない。・・・
 オーストラリアと日本の関係と・・・長年来の民主主義国であるところの・・・米・豪・日三カ国協力とは、まだ初期段階だが発展しつつある。・・・
 米国と日本は、地域的海上安全保障政策の策定と実施において指導的役割を維持しなければならない。・・・
 <少なくとも>2020年までは、我々は米国と日本が、最も強力な(significant)民主主義諸国として、その経済力及び軍事力でもって、文字通り全世界のすみずみまでの生活に影響を及ぼす地位にとどまると予想する。・・・
 「全世界的な対テロ戦争」というのは、問題を正確に把握するのに失敗したという意味で名前の付け間違いだった。実際のところは、それは、そのほんの少しの部分しか軍事的手段では対処できないところの、過激主義(extremism)に対する戦いなのだ。
 アラブ世界において過激主義に対抗し進歩を奨励するにあたっては、国連アラブ開発報告に記されているように、日本の持つソフト・パワーの豊富さを、過激主義の長期的な原因の是正に活用できる。・・・
 これら地域に適切に対処できるように日本の防衛能力を強化する必要がある。・・・
 日本は最近、いわゆる武器輸出三原則を修正して米日ミサイル防衛計画へのより大きな参加を可能にした。次の一歩として、日本は残りの禁忌を撤廃しなければならない。・・・
 米国と日本は、タイコンデロガ級イージス誘導ミサイル搭載巡洋艦の後継艦たるCG(X)のための主要システム、サブシステム、及び関連技術の共同開発の機会をつくることを考慮しなければならない。・・・
 ・・・秘密情報を<両国>が共有できる<ようにしなければならない。>・・・
 より緊密な調整ができるように、米国は日本の防衛省の代表が米太平洋軍司令部に、そして米軍の代表が日本の統合幕僚監部にそれぞれ常駐することを奨励しなければなららない。これは、日本国内における集団的自衛権についての決定いかんにかかわらず、行われなければならないところの、この地域における<米軍と自衛隊の>より高められた作戦的統合に向けての第一歩とみなされなければならない。
 日本は、諜報生産物をより大量に受領し加工する能力を増大させなければならない。・・・
 米国はF-22の航空隊をできるだけ早期に日本に配備しなければならない。また、米国は航空自衛隊が、その現在保有しているF-15ないしその改良型に加えて、米国が保有する最新型の戦闘機であるF-18E/F、F-22、F35も購入できるように保証することを模索しなければならない。
3 終わりに
 端的に言えば、ナイ、クリントン、オバマは、属国日本のソフト・パワー(経済力と技術力)と軍事力を宗主国米国のために徹底的に用いるという対日政策を追求するだろうということです。
 米国のいかなる目的のために?
 米日豪印インドネシアの「同盟」構築、アセアン及びアラブの籠絡、中共との対峙のためです。
 ちょっと気になるのは、北朝鮮への言及がなく、韓国とロシアにもちょっとしか言及がないことです。
 いずれにせよ、以上のようなねらいを持った対日政策の実現を図るためでしょう、クリントンは、初外遊先に、日本、そして韓国、中共を選びました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090204-00000006-rcdc-cn
(2月4日アクセス)
 さあどうします。属国日本の皆さん。