太田述正コラム#14792(2025.2.28)
<橋爪大三郎・峯村健司『あぶない中国共産党』を読む(その16)>(2025.5.26公開)

 株式市場はもう一つの後発性の劣位の例である。中国株式市場のハードウェア面での条件はすでに国際水準に達している。しかし民営企業の上場が厳しく制限され、民営の証券会社の開業も許可されない結果、株式市場は株主たちから利潤を吸い上げ、それを低効率の国有企業に回す道具にすぎなくなってしまった。庶民の言葉を引用すれば、「財政を食い尽くしたら、銀行を食い尽くす、銀行を食い尽くしたら、株主を食い尽くす」ということになる。

⇒2021年の「中国の主要証券会社10選」
https://bizlab.sg/magazine/blog/2021/07/10/china-main-securities/
を見ると、10社すべてが「民営企業」のように見える。
 筆頭の中信証券の項には「筆頭株主は中国中信有限公司で16.68%の持分を持っている。」とある(上掲)が、確かにこの中国中信集団公司は国有投資会社ではある
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E4%B8%AD%E4%BF%A1%E9%9B%86%E5%9B%A3%E5%85%AC%E5%8F%B8
ものの、株式の過半が国有会社群によって保有されておれば、その旨記されるはずだと考えられ、残りの9社に関しては、そもそも株主への言及がないが、事情は同じではなかろうか。
 このことは、中共の本土の証券取引所に係る営業ができる外国の証券会社が存在する
https://www.assetmanagement.hsbc.co.jp/ja/individual-investor/capabilities/active-equities/chinese-equity
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71556
ことからも言えそうだ。
 よって、この点でも、楊小凱の存命当時とは様相が異なってきているようだ。(太田)

 中国のあらゆる所で「科教興国」というスローガンを見かけるが、これは後発性の劣位の表れに他ならない。本当に後発性の優位を利用したいなら、「制度興国」あるいは「民主憲政興国」を主張すべきである。残念ながら、中国における市場経済化改革は、憲政と法治の建設を伴っておらず、そのため国家の機会主義的行為を許してしまった。特権階級による腐敗の横行は、その現れである。
 楊小凱は、中国が後発性の劣位を克服するためには、技術模倣を超えて、憲政建設と急進的改革を行う必要があると次のように訴えている。・・・」(関志雄「憲政とビッグバン・アプローチを提唱した楊小凱」より)
https://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/061227gakusya-1.html

⇒よって、「制度興国」は実践されていると言ってよく、また、「憲政」については、形式的憲法の存否などどうでもよいと私はかねてから指摘してきている(コラム#省略)ところ、仮に楊小凱の念頭にあったのは民主主義だったとしても、民主主義など英米においてもタテマエに過ぎないとこれまた私はかねてから指摘してきている(コラム#省略)のであって、中共においていまだ不十分なものは、法治、に限定してよいのではなかろうか。

https://www.law.osaka-u.ac.jp/~c-forum/box5/takada.pdf (太田)

(続く)