太田述正コラム#3170(2009.3.23)
<売春事情の最先端(その1)>(2009.5.5公開)
1 始めに
 BBCのヘンリ・アスティア(Henri Astier)記者の2回に分けた、売春事情の最先端に関する記事がBBC電子版に掲載されました。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7927461.stm
(3月18日アクセス)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7933973.stm
(3月19日アクセス)
 その内容をかいつまんでご紹介しますが、この際、彼、ひいてはBBCの売春に対する姿勢の是非について、ご自分でもお考えいただければと思います。
2 ニュージーランドの売春合法化
 「・・・ニュージーランド<では、>・・・2003年の売春改革法<施行>以来、売春宿はおおむね自由に運営できることになっている。・・・
 <この法律の要旨は次のとおりだ。>
・売春宿を運営することは認められる。
・4人以下の売春婦が平等なパートナーとして共同経営体(collective)を設立することができる。
・売春の広告は合法である。
・売春宿<の開業に>は許可と裁判所における登録が求められる。
・売春労働は、通常の雇用扱いとされ、そのようなものとして健康と安全性の基準を満たさなければならない。
 ・・・一方、欧州では正反対の傾向が見られる。スウェーデンは、1999年に性サービスの購入を犯罪化したが、その他のいくつかの国でも、人身密輸と戦うとの意図の下、似たような法律が導入されつつある。
 しかし、ニュージーランドの売春労働者達にスウェーデン流の規制(strictures)についてどう思うか聞くと、ほぼ異口同音に否定的な返答が戻ってくる。・・・
 <ニュージーランドの高級売春宿では、>一時間コースの料金は・・・200米ドル相当だ。・・・
 「私は小売業で働いていた時に得ていたカネの2倍稼げるの。私はお客達と私のボスに感謝されている。私は自分が働きたい時だけ働けばいいの。これは私がこれまでやった仕事の中で最もやりがいのある仕事だわ」と<そこで働く売春婦は>言う。
 <ちなみに、特定の客の相手がしたくない場合には、売春婦に拒否権が通常認められている。>
 彼女の支配人・・・もまた、<スウェーデンのように、>お客達を犯罪者にするのはこの産業にとって災難であり、売春婦達を危険に晒すことになると信じている。
 「そんなことをすれば上質のお客達を遠ざけてしまうことになる。我々は危険な連中とだけ残されることになる。悪い男どもは遠ざかりはしないからね」と彼女は言う。・・・
 ニュージーランド売春婦組合(New Zealand Prostitutes Collective =NZPC)・・・によれば、より良く、より安全な売春業務が今や当たり前のことになったという。
 もう一つの非犯罪化による主要な便益は、・・・警察との関係における巨大な変化だという。
 「もしあなたが犯罪を犯しているとなれば、警察に助けを求めようとはしないでしょ」。今では売春婦達は法執行機関の職員達が自分達の味方だと思っている、と<彼女は>言う。・・・
 ただし、ニュージーランドにおける性商売が革命的に変わったとは言い難い。なぜなら、社会はいまだにそれに顔を顰めているからだ。
 昨年、完全に合法なことなのだというのに、ある教師が売春婦としてアルバイトしていたことが露見した時、彼女は首になった。
 多くの性労働者達は通常のパート労働もやっている。履歴書に不審な空白を設けないためだ。
 彼女達は、本当に信頼の置ける友人達にしか、本業を明かさない。
 そもそも、この記事のために取材した売春婦やおかみ達は自分達の本当の名前を明かそうとはしなかった。
 売春宿は合法だけれど、ニュージーランド人の大部分はその隣に住みたいとは思わないのだ。・・・
 <ある売春婦は、>売春婦として働くことは大好きだと言う。「セックスができて、その上カネが入って男にも不自由しないんだから」と。・・・
 <しかし、上述したように、>売春に対する態度は、ニュージーランドと欧州とでは、地理的にそうであるように、ほとんど180度反対だ。
 ニュージーランド人達は性商売の無制限の自由化を選んだのに対し、欧州人達は次第に性商売に対する規制を強めつつあるのだ。・・・」
→ここまででどういうご感想ですか。
 基本的に結構ずくめのような売春の非犯罪化(自由化)が、どうして欧州ではむしろ後退しつつあるのか、不思議にさえ思えてきた方が男性読者には少なくないのではないでしょうか。
 いずれにせよ、戦前まで郭文化が咲き誇っていたこの日本で、全くと言ってよいほど売春の非犯罪化の是非についての議論が起こっていないのは理解に苦しむところです。(太田)
(続く)