太田述正コラム#3261(2009.5.8)
<皆さんとディスカッション(続x480)>
<KT>
 最近のアフガニスタン・イラク・パレスチナ情勢ってどうなってるのでしょうか?
この頃、太田コラムで読んでないような気がします。(自分で英語覚えて、アングロサクソンの新聞読め!って言われたら、そうなんですが・・・)
<太田>
 アフガニスタン情勢はパキスタン情勢とほとんど一体のものであり、後者について、最近「パキスタン解体へ(?)」シリーズ(コラム#3234、3236、3238、3240、3242(いずれも未公開))で取り上げたばかりですし、パレスティナ情勢はシリア情勢と密接な関係があるところ、シリア情勢についても現在、「シリアついに豹変へ?」シリーズ(コラム#3260~(未公開))で取り上げつつあるところです。
 ただし、イラク情勢については、大きな動きがないのでしばらく取り上げていないことは事実ですね。
 パレスティナ(シリア)情勢を除き、一言ずつ、本日の記事からフォローアップをしてみましょう。
一、アフガニスタン/パキスタン情勢
 米国の経済・軍事援助が命綱のパキスタンは、ようやくタリバンとの対決姿勢を鮮明にしました。
 Pakistan’s prime minister told the nation Thursday that the armed forces were being “called in to eliminate the militants and terrorists”・・・
 Prime Minister Yousuf Raza Gillani’s announcement, made in a late-night, televised address, signaled the final collapse of a fragile peace accord between the government and Taliban forces in the Swat region. It also represented the civilian government’s formal green light for a full-fledged offensive by the military, which until now has been fighting sporadically. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/05/07/AR2009050703130_pf.html
 米国はアフガニスタンに兵力を増強することによって、空爆による一般住民の被害を減少させるとともにタリバン殺傷数を増やそうとしています。
 ・・・the United States is seeking to reduce civilian deaths is by pushing American troops into Afghan cities and villages so that they live among the people that they are supposed to be protecting. The heavier U.S. presence should reduce the need for the controversial airstrikes. The higher troop levels also could lead to an increase in violence and U.S. deaths in the near term.
 Casualties among American, international and Afghan security forces are up about 75 percent this year, Gates said. But Afghan civilian casualties have fallen about 40 percent over the same period, he said. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/05/07/AR2009050702833_pf.html
 次年度の米国防予算の伸びが抑制される中で、支出の重点が初めてイラクからアフガニスタン/パキスタンに移る見込みとなりました。
 ・・・budgetary pressure has slowed the growth of defense spending overall, which increased 2 percent in inflation-adjusted terms for 2010, compared with an average of 4 percent from 2001 to 2009. ・・・
 Afghanistan war funding surpasses the outlay for Iraq for the first time in next year’s proposed Pentagon budge・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/05/07/AR2009050704239_pf.html
二、イラク情勢
 オバマ政権は、イラクから米軍の戦闘部隊が来年8月までに引き揚げることを決めています。
 また、最近の石油価格の下落は、石油収入に頼るイラク政府のふところを直撃しています。
 このような状況下で、様々な問題を抱えつつイラク治安部隊の整備が続けられています。
 ・・・Mr. Obama’s plan to withdraw combat forces from Iraq’s cities by the end of June and from the country by August 2010. ・・・
  ・・・they face an insurgency that remains potent and may be regrouping, even as government revenues have plummeted with the price of oil, scuttling plans to buy equipment and leaving gaps in personnel, especially with the police.・・・
  Iraq’s security forces, despite significant improvements, remain hobbled by shortages of men and equipment, by bureaucracy, corruption, political interference and security breaches that have resulted in the deaths of dozens of Iraqi and American troops already this year・・・
http://www.nytimes.com/2009/05/08/world/middleeast/08security.html?_r=1&hp=&pagewanted=print 
 今後米軍は、イラク治安部隊に顧問的に組み込まれる形でイラクに残留して行くことになりますが、イラク治安部隊に叛乱勢力が一部潜入してることもあり、苦労が絶えないようです。
 ・・・Military transition teams, which have been embedding with Iraqi forces since 2004, are just one type of the small advisory units that have become a major ingredient of counterinsurgency strategy in Iraq and Afghanistan. There are currently 182 such teams in Iraq, accounting for slightly more than 2,000 people mentoring and supporting Iraqi forces like the police and the border patrol. ・・・
http://www.nytimes.com/2009/05/07/world/middleeast/07mitts.html?ref=world&pagewanted=print
<KT>
 <コラム#2901>「オバマが尊敬するリンカーン」<を読み>ました。
http://blog.ohtan.net/archives/51365042.html#comments
 アメリカの黒人差別意識が、オバマの就任で克服されたのかまだ分かりませんが、アメリカ人にとって、黒人差別意識と黄色人差別意識は別々なのでしょうか?
 黒人差別意識が克服されれば、黄色人差別意識も克服されるのか疑問に思っています。
<太田>
 オバマの大統領当選は、黒人(の血が混じってる者を含む)でも優秀な人物が少なからずいることを、米国人の過半が認めるに至ったということであって、マスとしての黒人に対する差別意識が払拭されたわけではありません。
 この差別意識には一定の統計的根拠があるだけに、克服されることは、見通しうる将来にかけて、ありえないでしょう。
 同じことは、マスとしてのヒスパニックに対する差別意識についても言えます。
 このことは、少女売春に関する米国人の意識からも明らかです。
 ・・・Americans tend to think of forced prostitution as the plight of Mexican or Asian women trafficked into the United States and locked up in brothels. Such trafficking is indeed a problem, but the far greater scandal and the worst violence involves American teenage girls.
 If a middle-class white girl goes missing, radio stations broadcast amber alerts, and cable TV fills the air with “missing beauty” updates. But 13-year-old black or Latina girls from poor neighborhoods vanish all the time, and the pimps are among the few people who show any interest.・・・
http://www.nytimes.com/2009/05/07/opinion/07kristof.html?ref=opinion&pagewanted=print
 他方、黄色人種に対する差別意識は、かなり前に解消しており、それには属国日本の広義のソフトパワー・・経済力・技術力・文化力・・の洗礼を宗主国米国が受けたことが大きいと私は考えています。
 これに、このところの中共の経済力の台頭が加わったわけです。
 今後は、むしろ、黄色人種に対するコンプレックスや妬みが生じても不思議はない気がしているくらいです。
 (典拠をどなたかお示しいただけるとありがたい。)
 問題は、過去における黄色人種差別の直視と反省が米国において依然見られないことです。
 これをオバマが、世界で唯一核兵器を行使した米国、という形で間接的に直視と反省を米国民に促そうとしている、と私は考えているわけです。
<ΑΑΔΔ>(「たった一人の反乱」より)
 「民主党の小沢一郎代表は28日の記者会見で、月内に実施するとしていた党独自の衆院選情勢調査を延期したことを明らかにした。小沢氏は「(マスコミが調査は)何日だ、何日だと騒いでいたら、全然公正な数字が得られなくなる。いろんなしまおくそくのない時に秘めやかにちゃんとやって、公平な数字を得られるようにする」と語った。」
http://www.jiji.com/jc/zc?k=200904/2009042801221
 「違法献金事件を受けて民主党が設けた有識者会議は、7日に予定していた小沢代表と鳩山由紀夫幹事長からの意見聴取を中止した。「『小沢代表の進退に論議が集中』などと委員会の議論に誤った印象を与える報道があり、開催をめぐって混乱が予想されるため」(事務局)としている。 」
http://www.asahi.com/politics/update/0507/TKY200905070009.html
 民主党も思考停止状態に入っちゃったな。
 仲良しの身内で集まって愚痴を吐くだけみたいだな、こうやって↓
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090508/stt0905080003000-n1.htm
 今みたいに西松建設の問題を小沢本人がメディアの前で説明しないし、かといって辞めるわけでもないという状況は打開しないと、与党やメディアの攻撃の材料を与えるだけだ。捜査の進展や自民ルートへの波及を見ているつもりかも知れんけど通用しないよ。
<δδΑΑ>(同上)
 西松建設問題を民主党独自で調査している第3者委員会のメンバーにジェラルドカーティス教授が含まれてて、カーティス教授は先月の会議で「小沢氏について「代議士会で続投に合意を得ただけでは、国民は全く納得しない。
 国民とのコミュニケーション能力がない人に総理大臣になる資格はない」と述べ、有権者への説明が不十分だと厳しく批判した。
<中略>
 同時に、「小沢氏は辞めるべきだと言う議員が1人もいない政党に有権者が政権を委
ねるはずがない」と、同党の対応にも苦言を呈した。」
http://www.jiji.com/jc/zc?key=%c2%e83%bc%d4%b0%d1%b0%f7%b2%f1&k=200904/2009042400336
と言ってるけど、これが世間の声じゃないの?
 実際、世論調査の結果は依然、小沢代表には厳しそうだ。
 「共同通信社が28、29両日に実施した全国電話世論調査で、麻生内閣の支持率は29.6%と3月下旬の前回調査から5.9ポイント上昇した。不支持率は7.3ポイント減の56.2%だった。民主党の小沢一郎代表が西松建設巨額献金事件で公設秘書が起訴された後も続投を表明したことに関し「代表を辞めるべきだ」とした回答は、前回から1.1ポイント減でほぼ横ばいの65.5%だった。」
http://www.47news.jp/CN/200904/CN2009042901000451.html
<太田>
 外交・安全保障の基本を擲っているような中央政治なんて面白くも何ともないので、民主党議員は権力を奪取することに大した意欲を持っていないってことなんでしょうね。
 議員としての名誉と収入を確保し維持することだけが生き甲斐だとすると、波風を立てず、党内ポストと政治資金の配分権を握る党中央の覚えを目出度くしておいて、当選を重ねていくことだけが、彼らにとって至上命題となっているってわけです。
<KM>
 購読料を振り込みました。
 毎日有意なコラム2本大変興味深く拝読しております。
 これだけの内容のコラム2本を毎日執筆されている太田様には敬意を表したいと思います。
 3冊の著作も拝読させて頂きました。
 コラム、著作を読ませて頂くだけでなかなかそれ以上の支援はできませんが、これからも太田様を陰ながら応援させて頂きたいと思っております。
 お体に留意され更なるご活躍を期待しております。
<太田>
 激励、ありがとうございます。
 昨日昼にNHK-Hで鑑た「宮城谷昌光が語る中国・戦国時代 後編」大変面白かったです。「鶏鳴狗盗」の語源を久しぶりに思い出しました。
 また同じく昨日、1886年にNHK・TVで鑑賞し、ビデオにとったことがある、ホロヴィッツの、モーツアルトのピアノ協奏曲第23番の第二楽章の神が舞い降りたような、すばらしい演奏にユーチューブ上で再会し、感激ひとしおです。
 当時、楽譜を買って、オケのパート込みでピアノで何度も弾いたものです。
 この曲は、テンポも遅く、強い力で弾く必要もありません。
 だから誰でもうまく弾けそうなものですが、ところがどっこい、逆立ちしてもホロヴィッツのこの演奏にはかないません。
 ちょっぴりあるミスタッチなんて全く気になりません。
 では、聴いてみてください。
http://www.youtube.com/watch?v=zUoMFk3VonI&feature=related
 これをアップした日本人は、第一楽章と第三楽章はアップしていません。
 その気持ちは分かります。
 第二楽章の演奏がとりわけ傑出しているからです。
 おもしろいことに、全く同じ番組の原盤を、日本人ではない別の人がアップしていました。
http://www.youtube.com/watch?v=9LqdfjZYEVE&feature=related
 いかにこの演奏が多くの人々の心を打ったか、分かろうというものです。
 この人は、第一楽章と第三楽章もアップしているので、よろしければどうぞ。
 いずれも名演奏です。
http://jp.youtube.com/watch?v=9vttZzUPg3A&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=oeTyZPxlwMA&feature=related
 ホロヴィッツのこの時の演奏がいかにすごいか、同じ第二楽章の彼による別の時の演奏・・解釈もイマイチだし、第一テンポが速すぎる・・と聞き比べてみてください。
http://www.youtube.com/watch?v=Y85rKEEkmHw&fmt=18
 また、ほかの人の演奏とも比べてみてください。
 この演奏は大変よいのだけれど、テンポがちょっと遅すぎるのが惜しい。
http://www.youtube.com/watch?v=OB9R-wy62_w&feature=related
 この演奏はテンポが遅すぎて全然だめ。
http://www.youtube.com/watch?v=6l0bsTNsnX0&feature=related
 次の2人は、テンポはよいのだけれど、解釈がイマイチ。
 後のはアシュケナージの演奏ですがね・・。
http://www.youtube.com/watch?v=DRobAAY5VGw&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=R17dYh8cD2M&feature=related
<深雪>
 1886年?、1986ですよね? 太田さん、連休づかれてますか?(笑
 ホロヴィッツ、今から聞かせていただきます。
 池上線<(コラム#3259)>は、新型車両が入りましたよね。新型に限って言えば、あのうらぶれたようなマイナー調のもの悲しさはちょっと似合いませんよね。あのメロディーラインは、緑の旧式車両そのものですね(笑
<太田>
 ホロヴィッツが、件の第二楽章を弾き終えた後のインタビュー(確かこの部分も「1986」年のNHKの番組で放送されたと思う)で、この演奏はパーフェクトだったと自画自賛していますよ。
http://www.youtube.com/watch?v=S04Ev2hh7nM&feature=related
 これは、老いた巨匠ホロヴィッツが消え行く前に放った最後の光芒であったのではないでしょうか。
 さて、既に一部、本日の記事の紹介をしましたが、その続きです。
 ナポレオンが恋愛小説を書き綴っていたんですね。
 Napoleon is already credited with writing some of the most romantic ? or revolting, depending on your sensibilities ? words in his urgent message to Josephine: “Will return to Paris tomorrow evening. Don’t wash.”
 Now the man the world knows as emperor, war hero and bogeyman, the ruthlessly ambitious Little Corporal who rose from provincial obscurity in Corsica to become the terror or ruler of half the world, will be revealed in a surprising new guise: Napoleon the failed romantic novelist.・・・
 There’s more where that came from, 40 pages more・・・ the pieced-together fragments of his long lost novella, Clisson and Eugenie, ・・・was ¬published last year in French, and in ¬October ・・・English version・・・will be published・・・.
 Jane Aitken, director of Gallic, insists the book will reveal Napoleon as “an accomplished writer of fiction”.・・・
http://www.guardian.co.uk/books/2009/may/08/napoleon-novella-manuscript-translation
 オバマ政権によるタックスヘイヴン狩りは、ついに歴とした国であるアイルランドとオランダにまで及びつつあります。
 これに対しては、さすがに賛否両論が出ています。
 ・・・Currently, an American company which invests in Ireland pays corporation tax on its profits there of 12.5% to the Irish government.
 In the Netherlands, the rate of corporation tax is 25.5%. ・・・
 Until now, that’s been a big disincentive to ever bringing the profits home, where the corporation tax rate is more than three times that of Ireland’s – at 39.25%. ・・・
 ”These countries are tax havens – not in the traditional sense, of offering secretive banking like Switzerland or the Cayman Islands – but in terms of offering facilities for profit shifting to international corporations. ・・・”・・・
 ”If Obama’s plans go through, US corporations will find a way to move out of the US altogether, so as to avoid the problems,” he says.
“In so doing, probably Ireland and the Netherlands will be net beneficiaries”.
http://news.bbc.co.uk/2/hi/business/8036914.stm
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太田述正コラム#3262(2009.5.8)
<シリアついに豹変へ?(その2)>
→非公開