太田述正コラム#14958(2025.5.22)
<渡辺信一郎『中華の成立–唐代まで』を読む(その22)>(2025.8.17公開)

 「郡は、春秋末期の晋国ではじめて出現した行政区であり。
 晋国の郡は、新たに獲得した辺境地帯に設けられた軍管区であり、国君がこれを直接支配した。<(注34)>

 (注34)「前493年の《春秋左氏伝》」(上掲)
 ちなみに、「紀元前403年に晋が韓・魏・趙の三国に分裂する前を春秋時代、それ以降を戦国時代と分ける」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%A5%E7%A7%8B%E6%88%A6%E5%9B%BD%E6%99%82%E4%BB%A3 

⇒郡の始まりは、軍管区、当時に即して言えば、直轄軍事占領未開地域、ということであり、行政区ではなかった、というのが私の理解です。
 他方、「起源的には県は秦の武公の10年(前688)に,〈冀の戎(じゆう)を伐(う)って初めてこれを県にする〉と《史記》に見えるのが最も古<く、>・・・秦,楚,斉などの大国は,領内の新開地を直轄地として中央に懸(か)ける意味で県と呼んだ。これがしだいに封邑の再編成にも使われ,秦の孝公時代には封建領地に<多数>の県が作られている(前350)。」(上掲)※
という具合に、県の方は最初から行政区的であった、と。(太田)

 当初郡と県との間に統属関係はなかったが、戦国時代にはいって、辺境への軍事的拡張が進展すると、郡の下にいくつかの県を分置するようになり、郡県二級制の地方組織が形成された。
 その結果、既存の県にもその統括官府として郡が広く設置されるようになった。
 秦国でも、前4世紀半ばの商鞅の変法によって、全支配領域に県制を展開し、さらに領土を拡大すると、北方の遊牧種族匈奴や西南方面のチベット系諸種族と接する辺境地帯に郡を設置していったのである。
 前288年には東帝を称する斉国に対し、秦は西帝を称したが、ほどなく両国とも王号にもどした。<(注35)>

 (注35)斉秦互帝。「紀元前288年10月、秦の昭襄王が西帝を自称した。そして斉の湣王へ魏冄を派遣し、東帝を称し、共同で趙を攻めるように要請した。斉王は蘇秦に問うと、蘇秦は斉王に受諾するように頼んだ。しかし、後に蘇秦は「秦王が帝号を称し、天下の各国が反対を唱えなければ、斉王は帝号を称することにした。秦王は帝号を称することで天下の各国から非難を浴び、斉王は帝号を称しなかった。また、共同で趙へ侵攻するより、暴虐ぶりで『宋の桀』と知られる康王の宋へ侵攻することが有利です」と説いた。斉王は同意し、帝号から王号に戻した。12月、呂礼<が>斉から秦へ派遣され、昭襄王は帝号を廃し、秦王を称した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%89%E7%A7%A6%E4%BA%92%E5%B8%9D
 「魏冄(ぎぜん・・・生没年不詳)は、・・・戦国時代に秦に仕えた楚の公族出身の政治家。姓は羋、・・・。・・・秦の恵文君(恵文王)・武王・昭襄王の三王に仕え、丞相・相国となり権勢を誇った。・・・宣太后(恵文君夫人)の弟で、恵文君の義弟に当たる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%8F%E5%86%84
 「蘇秦・・・<(>?~前317<)。>・・・河南省洛陽の出身。斉の鬼谷子(きこくし)に師事。初め秦の恵王に説いたが用いられず、のち燕の文侯、趙の粛侯、韓の宣恵王、魏の襄(じょう)王、斉の宣王、楚の威王にそれぞれ説いて、この六国の連合を成功させた(合従)。六国が縦に並んで結束し、西方の秦に対抗しようとするもので、蘇秦自らが縦約の長となり、六国の相(しょう)を兼ね、縦約の書を秦に送ったため、秦は十数年間東方進出ができなかったといわれる。まもなく張儀のために合従は破られ、のち斉に逃れたが、そこで刺客に殺された。張儀とともに、諸氏百家の一つ縦横家に入れられている。」
https://kotobank.jp/word/%E8%98%87%E7%A7%A6-90098
 「張儀・・・<(>?~前310/前309<)。>魏の人。・・・[蘇秦と共に鬼谷子に学び、]連衡策を唱えて秦の恵王の宰相となり,六国を説いて秦に協力させ,蘇秦の合従策を破った。・・・<例えば、>張儀は強国である斉と楚の同盟を崩した上で楚を叩き、和睦にも成功することで合従を崩した。・・・のち反対派に憎まれ,魏に逃れて死んだ。」
https://kotobank.jp/word/%E5%BC%B5%E5%84%80-97716
 「上記は『史記』によるものだが、・・・1973年、・・・『戦国縦横家書』・・・という司馬遷の時代より古い書物が発見された・・・<ところ>、それによると蘇秦は張儀よりも後の時代に活躍した人であった。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E5%84%80 ([]内も)

(続く)