太田述正コラム#3228(2009.4.21)
<友人の効用>(2009.6.2公開)
1 始めに
 男女関係に比べてこれまであまり研究されてこなかった友人関係についても、最近、科学のメスが入れられつつあります。
 ニューヨークタイムスの全般的な記事と、クリスチャンサイエンスモニターの事例紹介的な記事をそれぞれかいつまんでご紹介しましょう。
 
2 ニューヨークタイムスの記事
 「病気や鬱、速やかな快復、アンチエイジング、長寿のための強力な武器を<我々は>見過ごしがちだ。友人達のことだ。・・・
 10年がかりのオーストラリアでの研究で、大勢の友人を持っている老人は、友人が少ない老人に比べて、同じ期間に死亡した人が22%も少ないことが分かった。
 また、2007年に行われた大規模な研究では、友人達の体重が増えた人々が肥満になる可能性が60%近く高まることが示された。
 更に昨年、ハーバード大学の研究者達は、加齢とともに、強固な社会的紐帯は脳の健康を増進する、と報告した。・・・
 「友情は、家族関係よりも我々の心理的安寧(psychological well-being)に大きなインパクトを及ぼす。」・・・
 2006年に行われた、乳癌を患う3,000人近い看護婦達を対象にした研究で、親しい友人のいない女性は、10人以上の友人を持つ女性に比べて、この病で亡くなる可能性が4倍近く高いことが分かった。
 ここで銘記すべきことは、友人がどれくらい離れた所にいるかとか友人とどれくらいの頻度で接触しているかは、生存率に関係してこないことだ。単に友人達を持っていることが自分を守ってくれるのだ。
 カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校の心理学客員教授・・・は、独身者と友情について研究してきているところ、多くの研究において、友情は、配偶者や家族の一員よりも健康に大きな影響を及ぼすことが判明していると言う。
 <実際、>上述の乳癌の看護婦を対象とした研究において、配偶者の有無は、生存率に全く関係しなかった。
 友情研究の多くが女性同士の密な関係を対象としているが、いくつかのリサーチで、男性も<友情によって>裨益しうることが示されている。
 6年間にわたった、736人の中年のスウェーデン人の男性に関する研究によれば、1人の人間への愛着は、心臓発作や致命的な心臓の冠状動脈疾患<を引きおこす>リスクに影響しないように見えるが、複数の友情を持っていることは<リスクに>影響する。社会的支援の欠如は、喫煙と同じくらいに深刻なリスク要素なのだ。 
 強固な複数の友情を持っている人々はそうでない人々に比べて風邪を引きにくい。これは、恐らく、彼らのストレス度が低いからだろう。
 昨年、バージニア大学で研究者達が、34人の学生を研究対象にすることとし、彼らを険しい丘の麓に連れて行って重い荷物を背負わせた。その上で、彼らに丘の勾配の程度を尋ねた。実験の間、参加者の幾ばくかは友人達とともに立たせ、その他の参加者達は一人で立たせた。
 友人達とともに立たされた学生達は、丘の勾配が大したことがないように見えた。そして、ともに立たされた友人と長い知り合いであればあるほど、丘の勾配はより大したことがないように見えたのだ。
 「より強固な友情のネットワークを持つ人々は、いざというとき、頼ることができる人がいると思うのだ。」・・・」
http://www.nytimes.com/2009/04/21/health/21well.html?8dpc=&pagewanted=print
3 クリスチャンサイエンスモニターの事例紹介
 「ジェフリー・ザスロウ(Jeffrey Zaslow)の<著書、>’The Girls From Ames: A Story of Women and a Forty-Year Friendship’<は、>・・・女性の相互関係の力と重要性についての感動的な証拠を提示している。
 今、彼女達は40台の半ばだが、これらの女性達は、・・・友情に関する普遍的真実の例証だ。・・・
 彼らの接点は早期に生じた。<ダンス教室で互いに4歳の時に出会った2人、幼稚園が一緒だった3人、残りは中学の時にこの集団に加わり、総計11人となった。
 彼女達は、中西部の大学町のエームス(Ames)で、夏のアルバイトを一緒にやったり、野天パーティーに参加したり、初恋を経験したりした。
 彼女達の中には、親に対する反抗期があった者もいるが、全員、田舎の家族的価値観と勤労精神を身につけた。
 大学を卒業してからは、8つの州に分かれて就職した。彼女達は、定期的に、重要な出来事であるところの、結婚、子供の誕生、離婚、死亡を契機に集まった。1人が22歳の時にシカゴで亡くなった。何人もが自分の親や子供を弔うことになった。1人の娘が重病になった時には、残りの全員が一生懸命支援した。
 現時点では、1人を除いて全員が結婚しており、合計で21人の子供がいる。
 専業主婦が3人、教師が3人。1人は大学の学長補佐、1人は広告会社のオーナー、1人はかつて公認会計士だったが現在スターバックに勤務している。1人はロスのメーキャップ・アーティストだ。>
 彼女達の基本的なルールは、亭主や仕事や収入の自慢をしない、親ばかなことは言わない、重要な出来事の都度集まること、だ。
 それに加えて、<この本の著者は、>「エームズの少女達は、早い段階から、女性の友情を維持するためには聞き、話すという順番をわきまえることであることを学んでいた」と記す。
 これらの女性達には、それ以外にももちろん友人はいる。
 しかし、<この本の著者は、>「これらの、より最近の友情は、子供、仕事、ないしは現在の隣近所をめぐって結ばれたものだ。従って、絆は「そこ」、「今」に限定されており、思い出はほとんど存在していない」と書き記す。
 それに対して、エームズの少女達は、生涯にわたる思い出を共有している。
 ・・・「お互いに、ことさら説明しなくてもよい了解事項が沢山存在している」のだ。
 <彼女達のうちの1人が語るように、>「私が、自分の人生のいかなる瞬間においても彼女達に頼ることができ、彼女達が私のセーフティ・ネットになるであろうこと」が安心感を与えているのだ。
 このセーフティ・ネットには家族も裨益している。
 諸研究が示すところによれば、強固な友情を持っている女性達は、しばしば緊密な結婚生活を送っている。「彼女達は、亭主達に自分達の感情的な面の全てを背負わせていないからだ」と<この本の著者は>説明する。
 中年にさしかかる頃までには、多くの女性達は、彼女達の女性達との友情が、自分達の人生における最も長期にわたる関係となることについての明確な感覚を持つに至る、と彼は付け加える。
 米国には、1,200万人の離婚した女性達と、同じく1,200万人の未亡人がいるのだから・・。・・・
 「男性は、大体は30歳頃までに友情を形成するけれど、それ以降は、しばしば友情は目減りしていく」と<この本の著者は>述べる。「男性の友情は、感情よりも活動に立脚している。彼らは接点をスポーツ、仕事、ポーカー、政治等々を通じてつくる。女性は話すことを通じて・・。男性は物事を一緒にやる。女性達の友情は顔を見合わせながらのものであるのに対し、男性達の友情は横に並びながらのものなのだ」と。
 <この本の著者は、>Eメールが多くの女性達の友情にとって大いなる贈り物であると形容しつつ、エームズの少女達の絆は、集団に対する「全員に返答」メッセージによって強化されると指摘する。・・・
 「男性は来たりて去りゆく。されど女性の友は永遠なり」と。・・・」
http://features.csmonitor.com/books/2009/04/18/the-girls-from-ames/
(4月21日アクセス)
4 終わりに
 まず、男性同士の友情は、女性同士の友情に比べると儚いものであるようです。
 強い友情は、ストレスを減らし、健康を増進させるようなので、このことも、男性より女性が一般に長命である理由の一つなのかもしれません。
 また、ステディな男女関係も親子関係も、友情に比べれば「値打ちが低い」もののようです。
 ところで、この二つの記事には、女性同士の友情も、男性同士の友情も出てきましたが、男女間の友情の話は出てきませんでしたね。
 私は、もう随分長く英米の記事等をフォローしてきていますが、そもそも、今まで一度も男女間の友情なるものに言及した記事等を目にしたことがありません。
 今回、念のため、英語ウィキで friendship between male and female で検索してみましたが、碌なサイトが出てきません。
 他方、以前に日本人を対象にしたアンケート調査の結果を見たことがありますが、結構男女間の友情がありうると答えていた人の割合が高かった、という記憶があります。
 これは、日本人の間だけ見られる幻想なのでしょうか?