太田述正コラム#3383(2009.7.8)
<新疆ウイグル自治区での騒乱>(2009.8.8公開)
1 始めに
 新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur autonomous region)の騒乱が始まったのは5日の日曜日ですが、欧米主要メディアから、いまだにその背景についての本格的な分析が登場していないように思います。
 日本でも大きく報道されていることから、皆さんが初めて耳にする話は少ないかもしれませんが、ここで、とにもかくにも、本件に関する最初のコラムを上梓しておきましょう。
2 新疆ウイグル自治区での騒乱
 「・・・<この地に、>1930年代と1940年代に、それぞれ短期間続いた「東トルキスタン(East Turkestan)」共和国があった。後者は、ソ連の強い影響下にあった。・・・
 <この地では、>漢人が今では人口の40%を占めており、47%を占めるウィグル人と数において大差がなくなっている。・・・
 ウィグル人の子供達にとって自分達の母国語を学校で学ぶのはどんどん困難になってきている。2005年以来、北京官話ないし「標準」支那語が学校教育における公式言語になったからだ。・・・
 2週間前、習近平(Xi Jinping<。1953年~>)<中共副主席>・・売り出し中の共産党の星であり、胡錦涛主席の後継者と目されている・・が、ほとんど報じられなかったが、重要な新疆訪問を行っている。
 彼は、地方の党は、民族関係を取り扱うにあたって、もっと良い仕事をする役人を任命しなければならないと主張した。
 彼は、住宅、食糧、健康、教育、そして雇用において苦しんでいるウィグル人が抱える「様々な真の困難さ」を解決しなければならないと警告した。
 これは重要なことを認めたものだ。しかし、それはずっと前になされなければならなかったのだ。」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/jul/07/uighur-china-xinjiang-urumqi(7月8日アクセス。以下同じ)
 「・・・欧米における<この種騒乱の>説明は、こけ脅かしのお化けの役割が完璧なまでに割り当てられている中共当局への反対勢力と目されれば、それがいかなる集団であるかを問わず、彼等に対して反射的に同情を寄せる形で、覚束ない口調でなされる。
 一方、中共における説明は、ウィグル人の不平を認めるような余地など全くないという、無理矢理でっちあげられた国家的神話に沿った形で、同じく覚束ない口調でなされる。・・・」
http://www.guardian.co.uk/news/blog/2009/jul/07/online-coverage-of-urumqi-violence
 「・・・中共当局がお膳立てした外国人と支那人の記者のための<現地>ツアーは、7日、不首尾な成り行きになってしまった。というのは、数百人のウィグル人の抗議者達が不意に出現したからだ。
 泣きわめく女性の集団に、しばらく経つと何十人かのウィグル人男性達も加わり、7日、拳を突き上げ、日曜の暴動の後、自宅から連れ去られたと彼等が言うところのウィグル人の男性達を警察が釈放するよう求めて、彼等は広い通りを行進した。
 何人かの女性達は、拘留されている男性達の身分証明書を振りかざした。
 記者達が見守っている中で、デモ参加者達は警察の車の窓ガラスをたたき割った。・・・
 <一番強烈だったのは、>たった一人で女性が中共の治安警察の前に立ちはだかった<姿を写して世界に配信された>映像だった(注1)。
 (注1)ビデオクリップ:
http://www.guardian.co.uk/world/video/2009/jul/07/uighur-confront-china-troops
     スライドショー:
http://www.guardian.co.uk/world/gallery/2009/jul/06/china?picture=349902168
 これは、天安門事件の時の戦車の車列に向き合った男性による抗議活動、という偶像的映像の記憶を呼び覚ました。・・・
 本日の出来事は、約1年前・・・に仏教僧達が、政府がお膳立てしたメディアの西部支那ツアーを遮り、チベットの旗を振りつつ、当局が彼等の人権を蹂躙していると抗議したことを思い起こさせた・・・。・・・」
http://thelede.blogs.nytimes.com/2009/07/07/media-tour-goes-very-very-badly-for-chinese-authorities/?pagemode=print
 「・・・連中は私達の生活様式を尊重しないのよ」と・・・26歳の<ウィグル人>女性は言った。「私達は尊厳が欲しいのよ。私達は公正さと平等が欲しいのよ」と。・・・
 <当局の>政策は、宗教的実践を規制することであり、学校におけるウィグル語教育の逐次的廃止であり、ビジネスマンや移民労働者たる漢人へのより良い経済的機会の提供だ。・・・
 2000年には漢人は<新疆の>人口の40%を占めたが、これは1949年の6%からすれば、飛躍的な増え方だ。
 中国共産党の下、漢人は新疆で常に権力を掌握してきた。
 この地域の党書記である王楽泉(Wang Lequan<。1944年~>)は漢人であって、彼の強硬な諸政策は、チベット等、中共における他の少数民族地域の統制システムの鑑となった。・・・
 中共の胡錦涛主席は、新疆での騒乱のため、G8サミット出席目的のイタリア訪問を切り上げて8日早く北京に飛行機で戻った。・・・
 <当局は、少数民族は優遇されていると主張する。>
 例えば、ウィグル人の女性は、漢人の場合のように罰金を払うことなく1人を超える子供を産むことができる。
 また、ウィグル人の学生達は大学入学の際に用いられる標準試験の点数に特別加算される。・・・
 <しかし、>公務員は宗教行為を行うことが認められていない。
 イマーム達はコーランを私的に教えることができないし、アラビア語の勉強は指定された政府の学校でしか許されていない。
 イスラム教の二つの柱であるところの、ラマダンの聖なる月における断食とメッカへの巡礼であるハジは厳しく管理されている。
 学生と公務員はラマダン月にも食べることが強制されるし、ウィグル人の旅券は公的なハジ旅行に参加させるために取り上げられてきた。・・・
 ・・・<それなのに、>他の地域では、イスラム教徒はより大きな宗教的自由を享受してきた。・・・
 <更に言えば、>1990年代の、ウィグル語を大学レベルの教育言語から除く政策から始まり、・・・今日では、ウルムチ(Urumqi)の新疆大学でのウィグル語の詩の授業においてのみウィグル語が教えられている・・・。・・・
 中央政府が「西部を開発する」というキャンペーンを過去10年にわたって採用してきたことから、新疆の経済は高度成長を遂げ、全般的な生活水準は上昇した(注)。
 (注)現在の新疆における経済活動の様子は
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20090707/199422/
に詳しい。(太田)
 しかし、ウィグル人の多くは、高い失業率と、新疆の最大の産業である石油、農業、そして建設を支配しているところの、漢人との所得格差に不平を抱いている。
 当局は、漢人により多くの契約と仕事を与えるのだ。
 「ウィグル人はこのプロセスの蚊帳の外に置かれていると感じている・・・」<というわけだ。>・・・
 <これに対し、>中共の役人達は、政府の諸政策が<今回の>民族的騒擾の原因であることを否定する。
 彼等は、チベット人の精神的指導者であるダライ・ラマや、現在進行形の新疆での暴動の場合は、今<米国の>ワシントンに住んでいるウィグル人のビジネス・ウーマンで<中共の>元政治的囚人であったレビヤ・カディーア(Rebiya Kadeer)といった外部の人物に<国内の>緊張についての責めを負わせるのを常とする。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/07/08/world/asia/08china.html?ref=world&pagewanted=print
 「カディーア<は、ウィグル人の>デモは平和裏に始まり、何人かのウィグル人達は中共国旗まで持っていた<と語った。それを当局が弾圧したので反発が起こったというのだ。>・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1909109,00.html
 「・・・数千の漢人が街路に繰り出して、救済を求めるとともに日曜の<ウィグル人による>暴力に対する血の復讐をしばしば行ったことを受けて、8日の未明、・・・新疆地区の首都であるウルムチに、当局<は>外出禁止令を施行した。・・・
 ・・・漢人の移民が押し寄せたため、ウルムチを含む<新疆の>大部分の主要都市では、漢人の方がウィグル人よりも多くなっている。・・・」
http://www.nytimes.com/reuters/2009/07/07/world/international-uk-china-xinjiang.html?pagewanted=print
3 終わりに
 英米でも、すっかり評判を落としたイスラム教を信奉していることもあって、ウィグル人について語れる人は、最近とみに人気が高まりつつある仏教を信奉していることもあって、チベット人について語れる人よりも少ないように見受けられますが、このところの日本での報道ぶりを見ていると、日本にはウィグル人についての専門家はほとんどいないような感じですね。
 今後の英米での報道ぶりに期待せざるをえません。