太田述正コラム#3696(2009.12.9)
<米国とは何か(続x6)>(2010.1.10公開)
1 始めに
 お祈りをすることは病気に良くない、というブラックユーモア的なコラム
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/belief/2009/feb/06/petrie-nurse-prayer-suspended
等、時々反宗教的言辞をガーディアンで吐いている、英国のコラムニストのスー・ブラックモア(Sue Blackmore)が、この上もなく過激な、宗教に関わる、見方によっては米国論とも言える学術論文
http://www.epjournal.net/filestore/EP07398441_c.pdf
を紹介していた
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/belief/2009/dec/08/religion-society-gregory-paul
ので、彼女による紹介の要点を訳すことにしました。
 オフ会の時にも申し上げたのですが、私が、イギリスが大体分かったと思ったのが1988年、しかし米国が大体分かったと思ったのは、ようやく今年になってから・・ついでながら、日本についてはまだそこまでも理解が進んでいません・・であるところ、最近、この私の米国理解の確からしさを裏付ける本や論文が毎日のように出現しており、うれしい悲鳴をあげています。
 言うまでもないことですが、日本が米国からの「独立」を果たすためにも、宗主国たる米国についての理解は欠かせません。
 では、さっそく始めましょうか。
2 宗教的な社会は病理的な社会
 
 「・・・グレゴリー・ポール(Gregory Paul)は、信者数の多い(popular)宗教は、高度のストレスと不安に対処するためのメカニズムである・・・ことを示唆する。・・・
 その最新の研究の中で、ポールは、先進国における「信者数の多い宗教の普及度(popular religiosity)」を計測した上で、それを殺人率、入獄者比率、乳児死亡率、性病罹患率、十代妊娠率/中絶率、腐敗度、所得不平等度、等々からなる「成功的社会指標(successful societies scale=SSS)」と比較する。
 換言すれば、<SSSは、>その社会の健康度を示すものなのだ。・・・
 ほとんどあらゆる数値において、米国は他のどの第一世界の先進国よりも悪いが、その米国は、最も宗教的な国でもあるのだ。・・・
 <このように、宗教と社会指標とを比較して得られる>相関関係には驚くべきものがある。
 それは、「ほぼ有意味な<相関>」とかかろうじて<の相関>などというレベルでは全くないのだ。
 「信者数の多い宗教の普及度」と「十代中絶率」及び「性病罹患率」との相関係数は、どちらも0.9を超えているし、「成功的社会指標」との全般的相関係数は、米国を入れると0.7で米国を除くと0.5にもなるからだ。・・・
 ・・・ポールは、宗教は<人間の>深いところに鎮座しているわけでも<祖先から>継承された性向でもないと主張する。
 それは、人々がひどいストレスの下に置かれた時に頼る松葉杖なのであり、「欠陥のある生息地に対処するために人間の心が自然に発明するもの」だというのだ。
 米国人達は、皆医療保険の欠如、競争的な経済環境、巨大な所得不平等に由来する凄まじいストレスと不安に苦しんでおり、かかる諸条件の下、超自然的な創造主への信条と宗教的儀式への依存に安らぎ求める。
 これとは対照的に、西欧、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、そして日本の、多数派たる中産階級は、超自然的な創造主に助けを求めない、十分に安全な生活を送っている。・・・
 ・・・我々は、ポールが「社会的に健康な国が高度に宗教的であることは恐らく不可能だ」と言うのに、同意する必要は必ずしもない。
 しかし、ポールが、最も健康な諸国は同時に最も非宗教的な諸国であることを示したことは確かだ。」
3 終わりに
 強い正の相関があることは、因果関係がある、ということを必ずしも意味しません。
 しかし、米国の例に照らすと、ストレスの多い社会は宗教的となる、という因果関係が存在するように私には思われます。
 では、どうして米国はストレスの多い社会であるのか?
 それは、米国人が孤独だからだ(コラム#3694)、というわけです。
 ところで、ブラックモアは、英国を西欧の中に入れ込み、しかも、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、と各国を列挙していますが、これが、私の言う避雷針ってやつです。
 そもそも、西欧はキリスト教こそ捨てたけれど、その変形としての政治的宗教は捨て切っておらず、その人種主義的かつファシズム的体質は相変わらずであるにもかかわらず、米国と対蹠的な存在として、あえて西欧を最初にもってきていること自体が避雷針ですし、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドを括ってアングロサクソン諸国としないのももう一つの避雷針です。
 私に言わせれば、先進国でまともなのは、アングロサクソン諸国と日本だけであり、だからこそこの両者で、bastardアングロサクソンたる米国をおだてながら善導(harness)しつつ、西欧を中心とする欧州の政治統合を妨げながらもこれを活用して、世界の安定と繁栄を確保する体制を構築する必要があるのです。
 そのためにも、まずもって、もともと病んだ国であって、現在、急速に国力の相対的低下に悩む米国から、日本が「独立」することが、喫緊の課題なのです。