太田述正コラム#3765(2010.1.13)
<皆さんとディスカッション(続x712)>
<赤いハンカチ>
 いいですか近藤さん<(コラム#3763)>、衝突直前映像だけを見ないでちゃんと衝突するまでの経緯も見てください。
 ストーカーしていたのは「第2昭南丸」の方ですよ、「アディ・ギル号」ではないのですよ。
 なぜなら「第2昭南丸」はいわゆる捕鯨船ではなく捕鯨船団の護衛船だからです。
 映像を見れば判りますが一直線で「第2昭南丸」は「アディ・ギル号」に向かっております。
 そのとき「アディ・ギル号」は殆ど漂流状態・・。
 どっちが悪党か、自明です。
Ady Gil rammed by Shonan Maru No. 2, view from Ady Gil
http://www.youtube.com/watch?v=tBdp0zJiQdE
(母船・・鯨肉加工工場)
「日新丸」(共同船舶所有)
(キャッチャーボート・・直接クジラを捕る)
「勇新丸」(共同船舶所有)
「第2勇新丸」(共同船舶所有)
「第3勇新丸」(共同船舶所有)
(目視船)
「第2共新丸」
「海幸丸」
(仲積船・・行きは船団に重油を運び帰りは母船から受け取った鯨肉を日本に運ぶ)
「第2飛洋丸」
・・パナマから船籍剥奪された「オリエンタル・ブルーバード号」(Oriental Bluebird)が名前を変える
(護衛船)
「第2昭南丸」(共同船舶所有)
<太田>
 ここは、乗りかかった船で、近藤君に答えていただくとして、私から二言。
 一つは、御両名を含め、誰も触れてないんだけど、
 キミが前回掲げた映像の一つ
http://www.youtube.com/watch?v=aJljUVIKrTA
を撮ったシーシェパードの船がもう1隻いたわけで、その船とアディ・ギル号が、日新丸の航路を遮った後に、第2昭南丸がやってきて、今度はこの2隻が、第2沼南丸の航路を遮っているように見えますね。
 アディ・ギル号と第2昭南丸だけに着目してこの衝突を考察しちゃダメなんじゃないかな。
 もう一つは、関係国の変化です。
 アディ・ギル号の船長の国籍がある国で、日本の調査捕鯨に厳しいスタンスをとっているニュージーランドが、シーシェパードをこの衝突に関連し、非難しました。↓
 ・・・New Zealand’s Foreign Minister Murray McCully has taken a harder line, telling Australia’s ABC last week: “We’ve got New Zealand citizens that have clearly been behaving in a manner that has put life at risk,” he said. “If they are going to go down there looking for trouble and determined to find it then there’s nothing we can do to stop them, except urge them to improve their conduct.” The Sea Shepherd group charged this amounted to New Zealand giving a “green light to Japanese whalers to kill Kiwis.”
http://www.csmonitor.com/World/Global-News/2010/0111/Whale-Wars-Sea-Shepherd-Watson-threatens-citizen-arrests-says-donations-pouring-in
 同じく厳しいスタンスをとっているオーストラリアでも、日本の新聞記事によれば、姿勢の変化が見られるようです。↓
 「・・・主要紙オーストラリアンは「記者と政治家は活動家支援をやめるべきだ。支援に値しない。どんな訴えであろうと、行動は高慢で不合理だ」とこき下ろした。
 日本の監視船の乗員についてシー・シェパードが「豪政府が何もしなければ、(われわれ一般人が)逮捕する」とコメントしたことに対しては「ばかげている」との識者談話を掲載。「捕鯨反対も必要だが、長い友人にふさわしい敬意を示すことも必要」として日豪関係悪化に懸念を示した。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2010011302000076.html
 こういったことも考慮に入れて考察する必要がありそうです。
<ΒΙΙΒ>(「たった一人の反乱」より)
≫米国は人種主義帝国だったから中国を支援して日本を潰そうとしたのは理解できるけど、人種主義帝国ならなぜ中国も日本と一緒に潰そうとしなかったの? つーか欧米って中国に甘い気がするんだけどなんでだろう。≪(コラム#3763。ΒΙΒΙ)
 太田コラムでお馴染みのアメリカの外交官マクマリーが“1935年”にまとめたメモランダムからどぞー。
 たぶん、前回のコラムで<太田さんによって>述べられた事の典拠の一つだと思ふ。
 親中国的な運動は、アメリカ人にとってごく自然な物だったのである、このような運動の高まりの背景には、中国に対する米国民の広範な親近感があった。
 この親近感は、米国民が、利己的な国々から中国を守ってきてやったのだと信ずる若干恩着せがましい自負の念と、我が国の教会組織が、中国での布教活動に支えられて数世代にわたり中国との好ましい関係を育ててきた実績に負うところが大きかった。
 この時点で布教活動の指導者達は、自分達の仕事は、中国の政治的要求を支持する政策によってもっと発展すると確信していた。
 だから米国政府が、条約上の特別の権利、特に治外法権・関税制限および教会組織に関する特権のすべてを放棄するよう、独自に主導権をとってほしいと期待していた・・・
・・・アメリカにおける宗教組織の強力な党派制は、新聞論調にも反映された。
 中国国民党は1776年(アメリカ独立)の愛国精神と二重写しにされ蒋介石は中国のジョージ・ワシントンと目されることが少なくなかった。
 このような動きはアメリカの議会と行政府の双方に対し、かなりの圧力となって作用した。・・・
 ・・・こうした運動をすすめてきた誠実なアメリカ市民や中国の忠実な友人達は『自分達の努力が両国の利害や極東における究極の情勢にどんなひどい害を及ぼすかについて、全く予測出来なかった。』
ジョン・アントワープ・マクマリー原著、アーサー・ウォルドロン編著 平和はいかに失われたか pp122~125
 「・・・(三井の)経営幹部は、立ち去る前に「壁に掛けられた大東亜共栄圏を描いた地図を指差し、笑みを浮かべながらこう述べるのでだった。
『あれなんですよ、われわれがしようてしたことは。これであなたがたが何をすべきかおわかりになりましょう』」
 エマーソンは前年、中国における日本人捕虜の尋問に携わっていたものの彼にとってその言葉はかなりの衝撃であった。
 その瞬間、『アジアにおけるアメリカ外交全般にわたる責任の重みのために、私は腹に一撃を食らったような思いにとらわれた。
 われわれは一体、これにどう対処していったらよいのだろうか』・・・
 ・・・1950年の春になると、アメリカはアジア各地を襲う共産主義革命の動きを阻止するために苦心していたのであり先の予言的言葉は真実みを帯びていた。
 ジョージ・F・ケナン(下記アメリカ外交50年の筆者)のような外交官たちは日本が「南方に」新たな帝国を創る必要があるといっていたことを公然と口にしていたのである。」
マイケル・シャラー著 アジアにおける冷戦の起源~アメリカの対日占領 序言より抜粋
 「今日われわれが当面している朝鮮の情勢をみるならば、これらの言葉に付け加えて論評する必要はない。
 アジアにおけるわれわれの過去の目標は、今日表面的にはほとんど達成されたという事は皮肉な事実である。
 遂に日本は中国本土からも、満州および朝鮮からもまた駆逐された。
 これらの地域から日本を駆逐した結果は、まさに賢明にして現実的な人々が終始われわれに警告したとおりのこととなった。
 今日われわれは殆ど半世紀にわたって朝鮮および満州方面で日本が直面しかつ担ってきた問題と責任を引き継いだのである。
 もしそれが他国によって引き継がれたのであれば、われわれとして軽蔑したような重荷を負って、現にわれわれが苦痛を感じているのは確かに意地の悪い天の配剤である。」
G.ケナン アメリカ外交50年 pp74~75
 「・・・それら両国(日本・中国)との関係が、中国に対するわれわれの奇妙ではあるが深く根ざした感傷を反映してきたことを指摘した。この感傷が、自分達ほど恵まれずより後進的と思われる他の国民にに対する慈悲深い後援者、慈善家または教師をもって自任することによって得られる喜びから生じているのは明らかであった。
 またこの自己満足のなかに私はアメリカ人が陥りやすいものであるように思われた国民的なナルシズム―集団的自己賛美―を見ない訳にはいかなかった。」
G.ケナン アメリカ外交50年 p210
 「次に私は、アメリカ人の日本人に対する否定的で批判的な態度をとりあげた。
 それはもちろんわれわれが中国に対してとった後援者的、保護者的態度の裏返しであった。
 われわれの日本に対する不満は日本が当時東北アジアで占めていた地位―朝鮮と満州での支配的な地位・・・に主として集中していたように思われる。
 それらの地域は正式には日本の領土ではなかったから日本による支配は法的にも道徳的にも不当であるとわれわれは考えたのである。
 私はこのような態度に異議を唱え、それはわれわれ自身の法律家的=道徳家的思考基準をそれらとは実際にはほとんど全く関係のない状況に当てはめようとするものであったと批判した。
 そして私はこの地域における活動的な力であるロシア、中国および日本という三つの国は道徳的資質という点ではそう違わなかったのだから、われわれは他国の道義性を審判する代わりにそれら三者の間に安定した力の均衡が成り立つよう試みるべきであった・・・・・・私が今言及している講演が、朝鮮戦争中に行われたものであることを指摘したい。
 私は当時、朝鮮半島においてわれわれが陥っていた不幸な状態の中にわれわれが以前に“日本の国益”について理解を欠いていたことへのまた日本に代わる望ましい勢力があるかを考えもせずに日本をその地位から排除することにのみ固執したことへの皮肉な罰ともいうべきものを認めないわけにはいかなかった。」
G.ケナン アメリカ外交50年 pp210~211
<太田>
 マイケル・シャラーの本は読んだことないな。
 それにしても、よくこんなに短時間で引用できたね。
 後生畏るべし。
 Chaseさん、手がけていただいている私の次著で使えそうですね。
<ιιΒΒ>(同上)
 なんか太田コラムを読んでると、世界史上の諸悪の根源はキリスト教って気がしてくるな。
 イギリスもキリスト教だけど。
<ιΒιΒ>(同上)
 キリスト教というより、一神教全般でしょうね。
 リチャード・ドーキンスが「神は妄想である-宗教との決別」で激烈な調子で一神教攻撃をやってます。9.11は原理主義が悪いのではなく、宗教(人格神を崇める一神教)そのものが悪いと吼えています。
 面白いから読んではいかがでしょう?
 宗教=コンピュータウイルス説は爆笑ものでした。
 ちなみに、この本では仏教は人生哲学の類として紹介されています。
<ιιΒΒ>(同上)
 その本買ったけど、第1章まで読んで積んであります。
 同じ作者の「盲目の時計職人」と比べるとどうもいまいちな感じだったので。
 でも今度続きを読んでみよう。
<太田>
 その他の記事の紹介です。
 プチブル急進派ほどやっかいな存在はないってことが、イスラム過激派についてもあてはまるようです。↓
 ・・・suggests the need for another kind of anti-terrorism strategy. Too often, we still consider public diplomacy to be a sort of public relations activity, the “promotion” of American values. Instead, we should think about it as an argument. The Bayrak<(アフガニスタンでの対CIA自爆テロ犯の妻)>s and Balawi<(左の夫)>s of this world are engaged in constant debates — in Internet chat rooms, in the halls of publishing houses, in mosques. Are they hearing enough counterarguments? Are we helping the people who make the counterarguments? I suspect that they don’t and I’m certain that we aren’t — nearly a decade after Sept. 11 — and that has to change. Intellectuals may wear glasses and read books, but neither prevents them from throwing bombs — or from strapping them inside their underwear.
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/01/11/AR2010011103063_pf.html
 マジ、米中間に暗雲が立ちこめてきました。↓
 ・・・China said late Monday that it had successfully tested the nation’s first land-based missile defense system・・・
 ・・・there is no mistaking that the timing of the test, coming amid Beijing’s fury over American sale of Patriot air defense equipment to Taiwana・・・, was largely aimed at the White House. ・・・
 The White House said it was simply fulfilling a deal that was negotiated during the Bush administration. It also pointed out that the sale, approved by the Pentagon last week, omits F-16 fighter jets and Black Hawk helicopters, a concession to Beijing. ・・・
 Relations may get bumpier in the coming weeks when President Obama meets with the Dalai Lama, the Tibetan spiritual leader whom China accuses of being a separatist, and President Ma Ying-jeou of Taiwan makes a brief visit to the United States. Overseas visits by Taiwanese officials invariably irk Beijing.・・・
http://www.nytimes.com/2010/01/13/world/asia/13china.html?ref=world&pagewanted=print
 ・・・Relations between China and the United States have been further complicated by Beijing’s reluctance to impose sanctions against Iran over its nuclear program and by differences over climate policy, which were accentuated at the tumultuous Copenhagen climate meeting last month.・・・
http://www.nytimes.com/2010/01/13/world/asia/13diplo.html?hp=&pagewanted=print
 この文脈の中に、グーグルによる、これまた衝撃的な、対中共宣戦布告宣言を置くと、いよいよ風雲急を告げてきたという感があります。↓
 ・・・Google threatened late Tuesday to pull out of its operations in China after it said it had uncovered a massive cyber attack on its computers that originated there.
 As a result, the company said, it would no longer agree to censor its search engine in China and may exit the country altogether.
 Google said that a primary goal of the attackers was accessing the Gmail accounts of Chinese human right activists, but that the attack also targeted 20 other large companies in the finance, technology, media and chemical sectors. ・・・
 Google did not publicly link the Chinese government to the cyber attack, but people with knowledge of Google’s investigation said they had enough evidence to justify its actions. ・・・
http://www.nytimes.com/2010/01/13/world/asia/13beijing.html?ref=world&pagewanted=print
 ・・・It also comes amid a clampdown on the internet in China over the last year, which has seen the blocking of numerous sites and social networking services hosted overseas, including Twitter, Facebook and YouTube.・・・
 It said that it believed the attack did not achieve its objective, as although two Gmail accounts were accessed, only account data and subject lines ? rather than the content of emails ? were obtained.
 It found that at least 20 other large companies had been similarly targeted. It said: “These accounts have not been accessed through any security breach at Google, but most likely via phishing scams or malware placed on the users’ computers.”・・・
http://www.guardian.co.uk/technology/2010/jan/12/google-china-ends-censorship 
 こうした中、クルーグマンの論調と足並みを揃えた過激な社説をニューヨークタイムスが載せました。↓
 ・・・If it sticks to its cheap-renminbi guns, however, it is bound to draw a protectionist response.・・・
 A trade war with China would be disastrous and bound to escalate around the world. Restraint is needed. But we fear no one is going to feel restrained if China doesn’t change its strategy.
http://www.nytimes.com/2010/01/12/opinion/12tue1.html?ref=opinion&pagewanted=print
 鳩山首相は、まことについています。
 以上のような背景の下で、米国は、間違っても日本を邪険にするわけには行きません。
 属国日本のマヌーバーの余地は大きい、と言えるでしょう。
 話、全く変わりますが、男性が女性のくびれに痺れるのは、合理的理由があることが判明しました。↓
 ・・・Hip fat mops up harmful fatty acids and contains an anti-inflammatory agent that stops arteries clogging・・・
 Fat around the hips and thighs is good for you but around the tummy is bad・・・
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8451674.stm
 『アバター』のラブ・ストーリーとしての側面に光をあてた映画評が出ました。
 映画愛好家は必読。↓
 ・・・Using all the classic romantic tropes, Cameron lays out their story・・・
http://latimesblogs.latimes.com/movies/2010/01/avatars-romantic-side.html
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オフ会幹事団からのお知らせ。
太田述正 第1回 講演会「日本の『独立』について」
日時 2月27日(土) 13:00~17:15
場所 新宿区・角筈地域センター 会議室B
http://www2.odn.ne.jp/~hak35040/
会費 500円
※飛び込み、途中参加大歓迎。
プログラム
1 オフ会アンケートの景品授与者決定あみだくじを実施。
2 早稲田での講義の際に用いたパワーポイント資料を用いて、太田が「日本の「独立」」について、1時間程度話を行う。
3 質疑応答
二次会(懇親会)17:30~
場所 講演会場近くの居酒屋を予定。 
予算 2,500円程度
※こちらに参加をご希望の方は、23日までに申込み下さい。
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太田述正コラム#3766(2010.1.13)
<米国・欧州・コーポラティズム(その2)>
→非公開