太田述正コラム#3481(2009.8.24)
<ローマ帝国の滅亡(続)(その1)>(2010.1.17公開)
1 始めに
 随分以前になりますが、「ローマ帝国の滅亡」シリーズ(コラム#858と859)で(西)ローマ帝国の滅亡の理由について、どちらもオックスフォード大の学者であるヒーザーの蛮族侵入による滅亡説とパーキンスの衰退(主)プラス蛮族侵入(従)説をご紹介したことがあります。
 先般、英国の古代軍事史家のエイドリアン・ゴールズワージー(Adrian Goldsworthy。1969年~)が ‘HOW ROME FELL Death of a Superpower’ を上梓し、大変な話題になっているので、さっそく、いつものように書評に拠って、彼がどんなことを言っているか、ご紹介したいと思います。
 つい最近、「欧州の中世初期」シリーズ(コラム#3438、3440、3442、3444、3447)で、ローマ帝国滅亡直後の時代を取り扱ったばかりなので、その前史、という位置づけにもなろうかと思います。
A:http://features.csmonitor.com/books/2009/08/19/how-rome-fell/ 
(8月20日アクセス)
B:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/08/21/AR2009082101112_pf.html
(8月22日アクセス)
C:http://www.curledup.com/romefell.htm
(8月24日アクセス。以下同じ)
D:http://stephenlaughlin.posterous.com/book-review-how-rome-fell-death-of-a-superpow
E:http://www.barnesandnoble.com/bn-review/note.asp?note=22529215
F:http://calitreview.com/3325/print/
G:http://www.unrv.com/book-review/how-rome-fell.php
2 ゴールズワージーのローマ帝国滅亡論
 「・・・ゴールズワージーがこの本の最初の頁で記しているように、「ローマ帝国の滅亡は、歴史の最大の謎であり続けている。」
 この帝国は、ユリウス・カエサルの死以降500年間持ちこたえた。
 その間、<同帝国は、>高架式水道、官僚機構、ガラス窓、セントラル・ヒーティングを備える、驚くほど現代的な存在となった。
 教育されたローマ人達の多くは、世界が丸いとさえ信じていた。・・・
 そんなローマを殺したものは何か?
 ゴールズワージーは、犯人を一人に絞ることなく、上から始まった緩慢な下降をそこに見いだす。
 基本的なことで言えば、競争相手<への対処>や<自分達が>生き残る必要性に大わらわで、皇帝達や頂点に座する役人達が、「帝国は何のためのものかを忘れ去ってしまったのだ」と彼は記す。・・・」(A)
 「・・・235年から西の帝国の滅亡まで、内部紛争がなかった10年間など、ほとんどなかった。
 235年から285年の間、60人を超える男が皇帝の座を目指して名乗りをあげた。
 これは、毎年一人以上の勘定だ。
 歴代の皇帝達にとって、優先順位の第一は、生き残ることそのものだった。
 だから、自分達の本来の責任が何であるかを考える時間などなかったのだ。
 それに続く世紀は、より安定した期間だったが、中央集権化のコストは大きく、ある演説者は、帝国官僚達が増え、「春の時に羊にとまっているハエよりも多くなった」と嘆いた。
 この相対的平穏期は、内部的競争が内戦へと導き、それが更に帝国の諸構造の弱体化をもたらす、というサイクルにおける一時休みに過ぎなかったことが判明する。
 帝国によるキリスト教の採用が、このサイクルを緩和することはなかった。
 この<サイクルの>累積的効果によって、政府の諸制度の致命的な腐敗と風化がもたらされた、とゴールズワージーは信じている。
 権利侵害、殺害、処刑、裏切り、そして全般的無能が常となり、ローマ帝国は、その力と資源を内部抗争によって余りにも多く散逸させたため、さもなくば抵抗することができたところの、外からの様々な圧力を持ちこたえることができなくなったのだ。
 ゴールズワージーに言わせれば、476年に西の帝国が存在することを停止した時、それは蛮族の侵攻によって「殺された」と言ってもあながち間違いではないけれど、連中は、「長期にわたる朽廃によって脆弱となっていた身体を撃った」のだ。・・・
 ・・・彼は、非効率と腐敗に関する何とも気になるメッセージを見いだす。
 すなわち、個人的栄達を求めるという利己的な欲望が共通の善についての考慮に優先した時、官僚機構が余りに巨大化しその全般的目的を忘れ去った(lose touch with)時、そして諸制度が余りに大きく力が強くなってその大きなサイズが誤りや非効率を隠すようになった時に何が起こるかについてのメッセージを。・・・」(B)
→属国の日本など、傾き賭けたローマ帝国と比較するのはおこがましいけれど、政治家や官僚の無能と腐敗に関しては、生き写しですね。(太田)
(続く)