太田述正コラム#4065(2010.6.12)
<皆さんとディスカッション(続x861)>
<ψΒψΒ>(「たった一人の反乱」より)
 そもそも大陸文化<(コラム#4063)>なんて括りが雑ではあるが。
 ドイツを引き合いに出す元記事がチャイニーズだったとはね。
 あの広大無辺な地理が、法の支配を根付かせないできたんでしょうなあ。
 イスラムの腐食効果もものすごいが、チャイニーズもそれに匹敵すると思うね。
 今は顕在化していないが、いずれG7では深刻化するだろうな。
 その中では日本は一番脆弱だ。
<太田>
 私は、地政学的な物の見方そのものに疑義の念を抱いています(コラム#239、240)し、支那がランドパワー(「大陸文化」的パワー)だから云々、という議論の仕方にも異議申し立てを行ってきました(コラム#567、570、657)。
 支那人がルールを守る意識が低い、という点についても、そんな意識が高い社会は例外的存在だという見方をすべきだと思います。
 おっしゃるように、ルールを守る意識が高いか低いかは、法の支配(アングロサクソン)か法治主義(西欧や日本)の確立度いかんにかかっているわけですが、どうしてこのような違いが生じたかについては、より精緻な歴史的説明が求められます。
<ψΒΒψ>(同上)
 <Fat Tailサンがコラム#4063で言っていることについてだが、>・・・アングロサクソンが世界史において突出した功績を残した背景には、お互いの”個”を維持してお互いが異分子同士であったからかもしれませんな・・・と、ふと思った。
<太田>
 個人主義の良い面として、かねてより私が力説してきたことだわさ。
 イギリス人に名俳優が多い理由もこれに求めたことがある。(コラム#省略)
<ΒψΒψ>(同上)
 原作の攻殻機動隊は対テロ活動のプロのすさまじさをドライに淡々と描写していく感覚が好きだったけど、映画は押井カントクのジメジメした哲学を聞かされる道具として利用されてるようでいやだった。
<ΒΒψψ>(同上)
 押井監督は常にそうだよ。原作レイプというやつか。
 そこが押井信者にはたまんないみたいだけどな。
 でも原作は原作で哲学的なものの見方が面白かったけどな。
<ΒψψΒ>(同上)
 現代テクノロジーが社会理念や倫理に先んじて進んでしまった結果生まれたテクノロジーによる弊害、それがあの作品の主題だと思ったけど、押井が提示した答えはどれも観念論的で意味があるとは思えなかったな。
 検索したら上記の主題をもとに、ドイツ観念論の本を出してる学者さんが本を出してるから、自分が感じた感覚は間違ってなかったんだろう。
http://www.arsvi.com/b2000/0810tt.htm
 こういった事に対して太田さん(アングロサクソン)はどういった批判をするのか見てみたかったなぁ。
<太田>
 押井作品の『イノセンス』についての感想をコラム#3857に記しました。
 残念ながら、彼の他の作品を鑑賞するつもりはありません。
 ドイツ観念論については、というより欧州の思想・哲学のほぼ全てを私は評価していません。
 面白いのは、欧州の文学(戯曲を除く)、美術、及び(フランス以西はこれもダメだが)ドイツから(欧州文明の外延たる)ロシアに至る音楽、とりわけクラシック音楽、はまことに素晴らしい。
 これは、その持ち前の観念性が、思想・哲学の分野ではマイナス、芸術の分野ではプラスに働くからだ、というのが私の仮説です。
<ψψββ>(同上)
 太田ブログは、太田さんを囲む会みたいになってきたね。
 彼がそう望むなら仕方ないか。
 新参者にはとっつきにくいだろう。
 質問も大して面白くもない瑣末なものに対して生真面目に返答w。
 もうこのへんでこのブログも終わりだろう。
 知的好奇心満々らしいが、コラムは毎度おなじみの堅苦しい政治史・政治思想史。
 ビートたけしは、お笑いからシリアスな映画までふり幅が極端であるほど、面白いものができるという「振り子理論」を持っているんだと。
 太田さんは微かにしか動かない振り子だね。
<太田>
 至らなくてスンマヘンねえ。
 一人題名のない音楽会を毎週末「開催」しているほか、映画評論も増やしてきているところですが、更なる努力が求められているようで・・。
<bonkers_blunder>(ツイッターより)
Women Don’t Help Each Other?という記事がありました。
http://boss.blogs.nytimes.com/2010/06/11/women-dont-help-each-other/?pagemode=print
 米国では実情は違うようですが、政治家など日本で成功した女性たちは構造的女性差別(男性差別も?)との戦いにもっと従事すべきでは?
<太田>
 しかし、その記事、米国じゃ決してそんなことないって内容ですよね。
 その記事のタイトルがぴったりあてはまるのは日本です。
 あなたのご指摘、私がかねてより訴えてきていることです。
 それでは、記事の紹介です。
 BPをめぐる米英間の軋轢の続きです。↓
 BP has been a completely private company since Thatcher sold off the government’s shares during the 1980s. ・・・
 <しかし、>Last year, around 14 percent of all dividends in the country’s leading share index, the FTSE 100, were paid by BP, and it is estimated that one pound in every six in pension funds comes from BP. ・・・
  ・・・Labour MP Tom Watson said Thursday, “This is now a serious crisis facing millions of pensioners in the UK, and we need to say to our U.S. allies that yes, it was a British company that made this mistake, but if they were subject to a regulatory regime in the UK they wouldn’t have been able to do that and the world’s insatiable appetite for oil was the cause of this, not British pensioners.” ・・・
http://www.foreignpolicy.com/articles/2010/06/10/has_the_bp_bashing_gone_too_far?print=yes&hidecomments=yes&page=full
 対イラン制裁で、ロシアが良い子ブリッ子を発揮している。
 いずれにせよ、これまでの制裁がいかに効果をあげていないか、振り返っておくべきだろう。↓
 ・・・Russia has frozen the sale of S-300 air defense missiles to Iran, Russian news agencies reported Friday, in a victory for the Obama administration in the wake of new U.N. sanctions imposed on Iran. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/11/AR2010061105248_pf.html
 ・・・Ahmadinejad hosted an ostentatious love fest in Tehran with the leaders of Turkey and Brazil. The three raised hands together and announced a uranium transfer deal that was designed to torpedo U.S. attempts to impose U.N. sanctions.
 Six weeks ago, Iran was elected to the U.N. Commission on the Status of Women・・・
 Increasing isolation? In the past year alone, Ahmadinejad has been welcomed in Kabul, Istanbul, Copenhagen, Caracas, Brasilia, La Paz, Senegal, Gambia and Uganda. Today, he is in China. ・・・
 This comes after 16 months of assiduously courting these powers with one conciliatory gesture after another: “resetting” relations with Russia, kowtowing to China, lavishing a two-day visit on Turkey highlighted by a speech to the Turkish parliament in Ankara, and elevating Brazil by supplanting the G-8 with the G-20. All this has been read as American weakness, evidence that Obama can be rolled. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/10/AR2010061004110_pf.html
 「人間はうっかりミスを犯すようにプログラミングされる」と(コラム#4053で)申し上げたばかりだが、それを若干なりとも補強する話を掲げておく。↓
 ・・・Kathryn Schulz・・・<says>“Far from being a sign of intellectual inferiority, the capacity to err is crucial to human cognition.” ・・・
 Albert Einstein・・・said, “If we knew what we were doing, it wouldn’t be called research, would it?”・・・
http://www.nytimes.com/2010/06/11/books/11book.html?hpw=&pagewanted=print
 Chaseさん、人種戦争としての先の大戦(の東アジア・バージョン)を裏付ける史実がここにもありますよ。↓
 ・・・”You know that we have to exterminate these vermin if we and our families are to live. We must go on to the end if civilisation is to survive.” This could be Goebbels talking about the Jews, but in fact it is General Thomas Blamey urging Australian troops to take revenge on the Japanese for atrocities such as rape, torture, murder and cannibalism.・・・
 ・・・killing more than 100,000 Asian slave labourers each month. ・・・
 ・・・most Germans nominally subscribed to Christian values – unlike the Japanese, who had a “genuine excuse” for savagery since they possessed no moral code overriding their duty to the divine emperor. ・・・
http://www.guardian.co.uk/books/2010/jun/12/moral-combat-michael-burleigh-review
 だけど、後半部分を読むと、(これ書いてるのMichael Burleigh(コラム#1161、3266)だけど、帝国陸軍の兵站の不十分さと当時の日本の貧しさ、あるいは日本人の宗教性についての無知丸出しであり、)イギリス人の対日トラウマ、まだまだ根強いって感じるねえ。
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 一人題名のない音楽会です。
 ニコライ・メトネル(Nikolai Medtner。1879~1951年)の音楽を紹介するかどうか、ちょっと迷っていたのですが、ようやく、紹介することに意を決しました。
 メトネルは、彼自身がピアニストでしたが、ピアノがらみの曲ばかりを残したロシア出身で英国で亡くなった作曲家です。
 ユーチューブ上だけでも夥しい曲がアップされており、今回ご紹介するのは、その中で私の印象に特に残ったものです。
 もとより、他にも名作があると思われるので、いつかもう一度、それらをご紹介する機会もあろうかと思います。
 さて、メトネルの作品については、以下のコラムが的確な評価を下しています。↓
 
 ・・・It’s true, his music takes a little time to work on you. It’s subtle and complex, and the melodies are not blatant and obvious. They don’t come to you emoting intemperately; they remain reserved, modest, apparently unassuming, until you approach them on their own terms, and then their beauty opens like a lover’s eyes. It’s the most astonishing, the most moving thing.・・・
 Most music since Brahms, he thought, was a bad mistake.・・・
http://www.guardian.co.uk/books/2010/may/29/philip-pullman-hero-nikolai-medtner
(5月30日アクセス)
 英語は読まないという方は、下掲↓
 ハメリン演奏 Sonata Romantica Op. 53/1
http://www.youtube.com/watch?v=qnzh7jzlyQw&feature=related
の(音楽をついでに聴かれてももちろん結構ですが、)画面のテロップをお読み下さい。上記とほぼ同じことをピアニストのハメリン(Hamelin)が言ってますよ。
 それにしても、ハメリンって語る言葉も語り方もすばらしいですねえ。
 ただし、皆さんが初めて聴く曲としては、フィロノヴァが演奏する下掲↓の曲がよろしいでしょう。
 フィロノヴァ(Filonova)演奏 Forgotten Melodies 中の Op.39/5 Canzona serenata
http://www.youtube.com/watch?v=H8z-9ZawVG8&feature=related
 (Mixiにアップした本稿の早版では、下掲のハメリン演奏の長い曲
 ハメリン演奏 Sonata Reminiscenza Op 38
http://www.youtube.com/watch?v=Iw2yOXBmXQ8&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=ZGvAgK-H8Dw&feature=related
を、(上記ガーディアン・コラムご推奨通り)最初に皆さんに聴いて欲しいと記したのですが、フィロノヴァが演奏する曲は短いし、’Sonata Reminiscenza’ と同じメロディーがその中で出てくることもあって、変更しました。)
 フィロノヴァが演奏する曲を聴いたけれど、どうしてもなじめないという方は、それでも、繰り返して後2回は聴いてみてください。
 それでも好きになれなかったら、メトネルにご縁がなかったものとして、後の曲を聴くのは止めときましょうね。
 ギレルス(Gilels)演奏 同じ曲ですが、高音質なので収録しました。
http://www.youtube.com/watch?v=Beg6xsoCkfY
http://www.youtube.com/watch?v=84O8O5ywibg&feature=related
 メトネル自身の演奏による Piano Concerto No. 1 より
http://www.youtube.com/watch?v=DViuq6yViyM&feature=related
 同じく、Piano Concerto No. 3 より
http://www.youtube.com/watch?v=g7i9EpOgfD4&feature=related
 同じく、 Forgotten Melodies 中の Op. 39/5 Sonata Tragica
http://www.youtube.com/watch?v=cbagb2VVogw&feature=related
 トーザー(Tozer)演奏 Forgotten Melodies 中の Op. 38 Danza Festiva
http://www.youtube.com/watch?v=Jbmf0SgpOUE&feature=related
 ファラゴ(Farago)演奏 Skaska(Fairy Tale) 中の Op.48/2 Fairy Tale of the Elves
http://www.youtube.com/watch?v=W5GCO_62tE8&feature=related
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<Fuku:翻訳>
コラム#4061より。
 ニュートンとアインシュタインはアスペルガー症候群だったのか否か、それが問題だ。↓
 [説の1]
 ・・・ケンブリッジ、オクスフォード両大学の研究者は・・・アルバート・アインシュタインとアイザック・ニュートンがアスペルガー症候群の兆候を示していたと信じている。・・・
 熱情的であること、恋に陥り易いこと、そして正義を擁護しようとすること、はことごとく、完全にアスペルガー症候群と両立しうる。・・・
 アスペルガー症候群の人々の大半にとって難しいのがちょっとしたおしゃべりである――彼らは世間話ができないのだ。・・・
 ・・・この症候群の人々は、その人生において自分達に最適な分野を見つければ、他の人々より秀でることができる。・・・
 [説の2]
 社会的に不適合でありながらもまったく自閉症ではない天才というものが存在しうる・・・
 他者の愚鈍さに対する忍耐のなさ、ナルシシズムや人生における使命への情熱といった特徴は、相合わさってそのような人を孤立させ、気難しくするだろう。・・・
 アインシュタインはユーモアのセンスがあると見なされていたが、これは、重度のアスペルガー症候群の人には見られない特徴である。
 インターネットの普及で米国人は一層非人間主義的になりつつあるってさ?
 ホントかよ。↓
 ・・・今日の大学生は、標準の性格検査に照らして、20年、30年前の大学生よりも共感能力が約40%低い。最大の低下は2000年以降、オンラインコミュニケーションとソーシャル・ネットワーキングの勃興と共に現れた。・・・
<太田>
 これと言って大きな誤訳はないのですが、ニュートン/アインシュタインの話の翻訳は、全体としてやや不満が残りました。
 難きことを強いていると思われるかもしれませんが、翻訳にあたっては、私がコピペした部分の前後にもできれば目を通して下さい。
 今回は、14-10+4=8で、8ポイントですね。
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太田述正コラム#4066(2010.6.12)
<ジェームス・ワットをめぐって(その3)/米国の倨傲(補遺)>
→非公開