太田述正コラム#4046(2010.6.2)
<中共の現体制(その2)>(2010.7.3公開)
 問題は、一見したところより、更に深いとハルパーは主張する。
 というのも、中共は、資源目的で不可触賤民的(Pariah)諸国の存在が必要なだけではなく、これら諸国が不可触賤民的国家であり続けることを必要としているからだと。
 「ひとたび「洗浄されてしまうと」非自由主義的な諸国と不平分子的諸国は、欧米の会社や政府とパートナーシップを取り結ぶといった選択肢が増えるであろうからだ」と彼は記す。
 「<国家の>この種の変容は、中共の発展途上世界における競争上の有利さを脅かしかねない」と。・・・
 「中共は、故意に欧米ブロックの力ないしは欧米的なブランドの魅力を減じようとしているわけではない」と彼は記す。
 中共の行動の主たる動機ははるかに基本的なもの、すなわち存続である、と。
 中共の指導者達は、彼等の国の農民叛乱と政治的激動の歴史が彼等の頭の中に刻み込まれているため、ソ連崩壊後の時代において目覚ましいまでに機敏に対処することによって、共産主義が正統的統治イデオロギーとしては破滅したにもかかわらず、彼等の権力を維持し続けることができた。
 彼等は、器用にも、カール・マルクスをアダム・スミスの突然変異版・・ハルパー言うところの「国家資本主義」・・でもって置き換えた、というわけだ。・・・
 しかし、それは、いくつかの有毒な副産物を生み出した。
 広汎な腐敗、環境破壊、<農村からの>移民労働の搾取、富者と貧者の間の大きく開いた裂け目がそうだ。
 「つまり、中共の指導者達は、ファウスト的な<悪魔との>取引をやってしまったことになる」とハルパーは記す。
 「中共が成長すればするほど、それは奇跡的成長の副作用を多く生み出す」と。・・・
 「中国共産党の正統性は、それが経済成長を凄まじい速度で提供する能力いかんにかかっている」とハルパーは記す。
 「よって、成長マシンを激しく動かし続けられるだけの天然物資の流入を確保するために、<中共は、>最も非難すべき諸体制と良い関係を維持し続ける必要があるわけだ・・・」と。・・・ 
 ・・・彼は、彼が言うところの<米国による、米国と中共の>「G2抱擁」<政策>を<不毛であるとして>退ける・・・。<中共自身がそんなことを望んでいないからだ。>・・・
 ・・・<むしろ>彼は、気候変動やエネルギー安全保障といった案件について、<米国は、>国際的パートナーシップを構築した上で、北京に参加するよう招待し、「中共の主要大国の再考レベルの対話に含まれることを強く欲する中共につけいるべきである」と示唆する。・・・
 <また、彼は、遅かれ早かれ、>中共の<影響力の>上昇に対する国際的しっぺ返しがくるのではなかろうか<と指摘する>。
 既に、アフリカ諸国の中には、彼等の市場における中共の弱肉強食的形態の資本主義に対して憤っているものがある<とする>。
 「中共の大企業群と国有企業家達の後にしばしば続いて、中共の商店や小規模小売業者達が、大商店(emprium)やレストランから売春宿(bordello)に至る、ありとあらゆる種類のサービスをとろそろえてやってくる」と。
 ハルパーは、「これらの支援的ネットワークは、低価格、低品質の財でもって、かなりの割合で<当該国の>地方経済を堀崩し、伝統的な供給業者達を駆逐してしまう」と記す。・・・
 <彼は、そもそも、>北京が、西部中共の新疆ウイグル自治地区におけるイスラム教徒に対する容赦ない弾圧に関し、もっと大きなツケを払う羽目に陥っていないことは不思議だ、とも<指摘する>。・・・」(A)
 引き続き、以上を、その他の書評でもって補足しておきましょう。
 「・・・敬意の追求から、中共がそのならず者諸国との関係を縮小していくだろう考える者に対して異議を唱え、ハルパーは、北京はその天然資源に対する依存からかかる関係に封じ込められていると主張する。
 同じように、彼は、中共が豊かになるにつれて民主主義化して行くということにも疑問を呈する。
 何となれば、富こそ<中共の>体制の正統性を担保するものだからだ。・・・」(C)
 「・・・ハルパーは、自分は、少なくとも次の半世紀の間には、中共が米国の支配に対する深刻な挑戦者たりえないと信じていると断言する。
 <そして>彼は、最終章で、米国は、世界の残りの諸国が関与(engage)すべき「必要な大国」なのであると締めくくるのだ。・・・」(B)
(続く)