太田述正コラム#4198(2010.8.17)
<イスラエルのイラン攻撃論争(その2)>(2010.9.17公開)
 (2)イスラエルの核
 「・・・デーヴィッド・ベングリオンは、イスラエルの初代の首相だが、彼は将来の<ユダヤ人>殺戮を防ぐ唯一の保証として、核兵器を開発することに取り憑かれていた。
 「アインシュタイン、オッペンハイマー、そしてテラー・・この3人ともユダヤ人だ・・が米国のためにやったことは、イスラエルの科学者達によっても、彼等自身の人々のためにやることができるはずだ」とベングリオンは宣言した。
 ・・・イスラエルによる<中東地域における>核独占によって生み出された<核の>傘は、ユダヤ人国家がホロコーストの傷から快復することを可能にした。・・・」(A)
 
 (3)ネタニヤフ・イスラエル首相
 「・・・(ベンヤミン・ネタニヤフ<現イスラエル首相>は、<米国の>フィラディルフィア郊外のチェルテナム(Cheltenham)高校とMITを卒業しており、イスラエル史上、最もアメリカナイズされた首相だ。
 ミルウォーキーで育ったゴルダ・メイア(Golda Meir)<元イスラエル首相>よりもそうだ。)
 その彼が、イラン<の核計画>を止めるハイリスクの企てを行うために米国の<イスラエルに対する>愛情を永久に袖にするような危ないことを本当にやらかすものだろうか。・・・
 <ネタニヤフの父親で90歳になったばかりの>ベンジオン・ネタニヤフ(Ben-Zion Netanyahu)の最も重要な著作であるところの、『15世紀スペインにおける異端審問の起源』は、このユダヤ史における哀しい一章のルーツに係る学問的コンセンサスをひっくり返した。
 彼は、スペインにおけるユダヤ人に対する憎しみは、血の純粋性(limpieza de sangre)によって拍車がかけられたと主張した。
 それはナチの前駆的思想であり、換言すれば、単なる神学ではなかった。
 それが異端審問の動機だったのだ。
 ベンジオンは、ユダヤ人の効率的な最終的根絶を確保することを眼目としたところの、注意深く台本が書かれた長期にわたる<ユダヤ人の>非人間化キャンペーンが、反ユダヤ的迫害にいつの場合でも先行したという公理がこの異端審問にあてはまるとも主張した。
 彼にとっては、ユダヤ人の歴史はわかりやすく執拗なもの(plain and insistent)であるというのが教訓なのだ。・・・
 ベンヤミンは、ベンジオンが、ホロコースト(Shoah)を予想し<ただけでなく>、1990年代初期には「イスラム過激派がニューヨークのツイン・タワーを倒壊させようと試みるだろう」と予言したと証言している。・・・
 <この父親の薫陶を受け、父親を深く尊敬している>ベンヤミン・ネタニヤフは、イランについて、歴史の枢要なる教訓は、「悪い様々なことは、それらが早期に対処されなければより悪化する傾向がある」と主張したことがある。
 「イランの指導者達はイスラエルの破壊ないし消滅を語ると同時にその消滅を確保するための兵器群を作り出している」と彼はそれに続けたものだ。・・・」(A)
 (4)米オバマ政権
 「・・・イスラエルの人々は、アフガニスタンとイラクへの侵攻の仕掛け人であったジョージ・W・ブッシュのアンチテーゼとして自分自身を位置づけたところの、<オバマという>男が、一つのイスラムの国に先制攻撃をしかけるかどうかについては懐疑的だ。・・・
 ・・・そのブッシュでさえ、イランの核施設群攻撃を実施することは躊躇し、イスラエルが自分でこの攻撃を実施しないように働きかけたものだ。・・・
 オバマ政権の役人達、とりわけ国防省の役人達は、<イランに対する>軍事的先制攻撃の可能性に対して不快感をしばしば表明してきた。
 4月には、政策担当国防次官のミシェル・フロアノイ(Michele Flournoy)が、記者達に対し、イランに対する軍事力行使は「近い将来にかけてはありえない」と伝えた。
 彼女は後でこの発言を撤回したが、統合参謀本部議長のマイケル・マレン(Michael Mullen)海軍大将は、同じくイランを攻撃するという考えを批判した。
 「イランが核兵器を獲得することは信じがたいほど安定を損なう。しかし、イランを攻撃すると同じ種類の結果がもたらされる」と彼は4月に述べた。
 「今現在あれほども不安定的な地域において、我々はそれが一層ひどくなることを欲しない」と。・・・
 <また、>オバマ政権の核拡散防止政策を統括するゲアリー・サモア(Gary Samore)国家安全保障会議事務局員は、・・・「核兵器能力を評価するにあたって最も枢要なことは、彼等が兵器品質の核物資をどれだけ早く製造することができるかだが、このような見地からは、IAEAの諸報告書に拠れば、イランはうまく行っていないと我々は評価することができる」と言った。
 「彼等が運用している遠心分離機群は、劣等な技術に立脚している。
 彼等が若干の技術的困難に遭遇しているのは、彼等が外国製部品を入手するのを我々が妨げてきたからだ。
 そこで彼等はその部品を自分達でつくったけれど、品質管理がなっていない部品をつくっている」と。・・・
 <また、>米国人達は、イランの核計画を一時的に遅延させることにどれほどの価値があるのかと考えている。
 それに対し、イスラエル人達はそうは考えていない。
 メナヒェム・ベギン(Menachem Begin)<イスラエル首相(当時)>が[イラクの]オシラク<原子炉>を爆撃した時、彼はその行為はイラクを1年遅らせるだけだと言われていた」と<現在のイスラエルの>閣僚の1人は私に伝えた。
 「それでも、彼はそれを実施したのだ」と。・・・」(A)
(続く)