太田述正コラム#4733(2011.5.8)
<皆さんとディスカッション(続x1197)>
<太田>(ツイッターより)
 インドに行った時、英国時代の公共建築物を同じ目的で使い続けているケースが多いのに呆れたものだが、同国では、都市の名前の英国風の読みは止めるに至っている。
 だから、パの(英国人)「アボットの町(Abbottabad)」にはずっこけたぜ。
 (コラム#4558に関し)私が生まれた年に、日本で素人画伯の会であるチャーチル会が発足している
http://bit.ly/m9QG6S
ところ、無粋なこと言って恐縮だが、英国史上最低の宰相で日本にとって戦犯でもある人物の名前をとった会名、恥ずかしーな。
<KY>
≫昨日紹介した日本語の起源の話、朝鮮日報に出たね。どうも、発見者、韓国系じゃないみたいだな。この話、もっと詳しいこと知ってる人、教えてくれないかなあ。↓
http://www.chosunonline.com/news/20110506000003 ≪(コラム#4729。太田)
Sean Lee and Toshikazu Hasegawa
Bayesian phylogenetic analysis supports an agricultural origin of Japonic languages
Proc. R. Soc. B, published online 4 May 2011
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/early/2011/05/04/rspb.2011.0518.full.pdf+html
 ざっと読んでみましたが、要するに現存する日本語の諸方言を数理モデルに当て嵌めてみると、2000年程前に日本語の共通祖先が想定される、というだけの話みたいです。
 朝鮮語云々の話は、
“According to the farming/language dispersal theory, a significant number of farmers from the Korean peninsula expanded into the southwest Japanese island of Kyushu around 1700-2400 years before present (YBP) bearing their pottery styles, agricultural tools and weapons [12].”
とありますので、他人の文献 (Hudson, M. 1999 Ruins of identity: ethnogenesis in the Japanese Islands. Honolulu, HI: University of Hawaii’i Press.)
の引用みたいですから、逆にいえば、その移住してきた集団が江南系弥生人だったら、日本語の共通祖先はその辺りに当時住んでいた人々が当時話していた言葉という事にもなる訳です。
 ただし、狩猟採集民が長期間生き残っていた事に関して:
 ”The second reason behind their long survival could be that it probably took a few thousand years for the farmers to modify rice, one of their main food sources, to grow in cold climate.”
 ”The archaeological evidence suggest it was not until around 3500 YBP that rice farming of warm southern China spread to the much colder Korean Peninsular, which is thought to be the most recent homeland of proto-Japonic-speaking farmers.”
というのは不思議な話で、それなら日本列島より寒い朝鮮半島の方で先に稲作が行われて、その間何千年も中国南方からは日本に伝来しなかったというのは無理だと思います。
 稲の遺伝学的な解析は盛んですので、詳しい方がいらっしゃるでしょう。取り敢えず見付かったものですが:
R. Ishikawa ・ Y.-I. Sato ・ T. Tang ・ I. Nakamura
Different maternal origins of Japanese lowland and upland rice populations Theor Appl Genet (2002) 104:976-980
http://homepage3.nifty.com/tassobe/Tingting/Ishikawa.pdf
<globalyst>
 –日本語の起源–
≫<3>日<前に>紹介した日本語の起源の話、朝鮮日報に出たね。≪(コラム#4729。太田)
 長谷川寿一氏は、東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系 認知行動科学大講座 教授 で、リー・ショーン氏は、長谷川先生のところの博士課程の学生。
http://beep.c.u-tokyo.ac.jp/index_japanese/menba.html
 (英文からはニュージーランド出身説に反対)
 件の論文は以下参照。
http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/early/2011/05/04/rspb.2011.0518.full?sid=127631c2-c39f-46d3-abe7-ec1c615c719a
 要するに、言語の変化をDNAの変化に準えて、その起源を探ろうとするもので、「体の部位、基本動詞、数字、代名詞などの主な210単語について、59方言でリストを作成。数千世代にわたり改変されていない、いわゆる「高度保存遺伝子」を見つけ出すのと同じ要領で、他の方言に影響されていない「変化耐性」を持つと思われる単語を選び出し、コンピューターでモデル化」
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2798334/7175562
することによって、これらの日本語が2182年前の共通の言葉に遡れるというものらしい。
 発想はおもしろいけど、モデルの立て方で結論は幾らでも変わってしまいそう。
 それと朝鮮日報の件の記事の元となったと思われる「この結果は日本語の起源が今から2400年前に最初に渡来した農民と緊密に結合していることを示している(The results presented here indicate that the origin of Japonic languages is closely bound with the arrival of the first farmers around 2400 YBP.)」や、「考古学上の証拠からは、温暖な支那南部の稲作農業の朝鮮半島への伝搬は、今から約3500年前以降であったことが示唆され、そして朝鮮半島は日本語の原型を話していた農民たちの直近の故郷であると考えられている。(The archaeological evidence suggest it was not until around 3500 YBP that rice farming of warm southern China spread to the much colder Korean Peninsular [49], which is thought to be the most recent homeland of proto-Japonic-speaking farmers.)」という部分など、論旨(農民それも朝鮮半島の農民と日本語の関係)に飛躍があるように思える。
 Wikipediaの「日本語の起源」を参照すると、この分野では諸説乱立状態で、結局、日本語は調べていくと、色々な言語に少しずつ似ているけど祖語が見つからない、というのが現状らしい。
 それは日本人の起源にも似ている。
 つまり、日本列島には「4~3万年前の後期旧石器時代には人間が住み始めていたことは確実」だけど、「その時代の日本列島全体にどんな人々が住んでいたのかは、まだ良くわかってい」ないし、「わたしたちの祖先の姿をはっきりと見ることができるのは、縄文時代から」
http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/5/5-01.html
で、その後の縄文人、弥生人については、「最近著しく発達したDNA(遺伝子を構成する細胞内の物質)解析による研究」によって「日本列島には、人々の移住によって、いろいろな遺伝子が外から入ってきた」、
http://www.kahaku.go.jp/special/past/japanese/ipix/5/5-26.html
ことが明らかになっている。
 結局、日本列島には縄文以前の旧石器時代にも誰かがいた。
 彼らは、日本列島外の何処からか来た人たちだったし、その後も時代時代で色々な所から色々な人々が各々の文化と共に渡来してきて、先住者はそれを受け入れ、渡来人も先住者を駆逐しなかった。
 言葉も、色々な言語に少しずつ似ているけど祖語が見つからないということは、最初(縄文時代かそれ以前)に何らかの言葉(文法+単語)が有って、それをベースに色々な所の言葉(単語)が積み重なって日本語になったことを示唆しているように思える。
 祖語が見つからないのは、日本列島に最初にあった言葉が古すぎるから。
<太田>
 お二人に感謝申し上げます。
 今度は、稲作の起源に関する新有力説が出ましたねえ。↓
 ・・・<New research found that> japonica and indica had a single origin because they had a closer genetic relationship to one other than to any wild rice species found in China or India.・・・
  ・・・the data point to an origin of domesticated rice around 8,200 years ago<and> that the japonica and indica sub-species split apart from each other about 3,900 years ago.・・・
 ・・・this is consistent with archaeological evidence for rice domestication in China’s Yangtze Valley about 8,000 to 9,000 years ago and the domestication of rice in India’s Ganges region about 4,000 years ago.
 ・・・As rice was brought in from China to India by traders and migrant farmers, it likely hybridised extensively with local wild rice・・・
http://www.bbc.co.uk/news/science-environment-13266431
<ΠΠΕΕ>(「たった一人の反乱」より)
≫菅政権のクリーンヒット二つ。≪(コラム#4731。太田)
 原発推進派の太田さんでも、現在最も危険視されている浜岡原発のとりあえずの停止のために管首相がリーダーシップを発揮している動きについては、高く評価しているということでしょうか?
<太田>
 イエース。
 前途多難だけどね。↓
 「・・・静岡県御前崎市・・・の石原茂雄市長は・・・浜岡原発で同市の住民約1200人が働き、原発関連歳入が予算の4割以上を占める現状を説明。全面停止となれば「大変厳しい状況に陥る」と強調した。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2011050701000355.html
<私有自楽>
 最近(従来も)のコラムでチャーチルをボロクソに指弾していられる様だが、出来そこないのアングロサクソンなのは当然でしょう、母親がアメリカ人だもん。
 出自によって人を批判したり評価することは慎むべきことですが、チャーチルに限ってはこの程度の揶揄は大目に見られたし。
<太田>
 大目に見るもなにも・・。↓
≫チャーチルは・・・根っからの反日主義者であったのかもしれません。彼の母親は米国人であり、・・・チャーチルは、この母親を通してできそこないのアングロサクソンたる米国の当時の人種主義的帝国主義の影響を受けていたのか、と言いたくなります。≪(コラム#4532.太田)
 それでは、その他の記事の紹介です。
 シリアで、軍の通常部隊と諜報部隊との間で交戦が起こったらしい。↓
 ・・・Following the Homs shooting, in the city’s Bab Amro suburb, military soldiers and members of the military intelligence clashed in a two-hour exchange of gunfire, two residents and one activist said. Eight members of the military intelligence forces died in the clash・・・
 It seems the military intelligence had agreed with the army not to fire, but then fired,・・・
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703992704576306800650653220.html?mod=WSJ_World_LEFTSecondNews
 ズムワルト公使も梅本君・・私が首席連絡調整官、彼が安全保障課長時代に、田中均北米局審議官(コラム#45、63、85、86、1413)を交えて仕事をしたことあり・・も、そんなことを民主党新政権がやろうとしたわけじゃないのであって、トンチンカンなこと言ってるなあって感じだね。
 相変わらず、米外交官の無能さは治ってないね。メイとかズムワルト見てるとつくづくそう思う。
 いずれにせよ、梅本君、やっぱ国賊の従犯としての資格十分だね、反逆罪・・とはいっても宗主国様に忠誠を尽くしただけなわけだから、罪一等を減じるべきかもしれんが・・まで犯している。↓
 「・・・核持ち込みの「密約」を巡る在日米国大使館のズムワルト首席公使と外務省の梅本和義北米局長の会談・・・
 その中で、民主党政権が進める核密約調査に米側が強い懸念を示していたことが明らかになった。
 ズムワルト氏は「米艦艇の核兵器の搭載の有無についてあいまいさを保つことは(米国の)核抑止戦略の重要な要素である」とし、「日本だけにとどまらず、韓国など周辺国の国益にも関わる」と指摘した。
 これに対し、梅本北米局長は「普天間問題より悩ましい問題。現政権(鳩山政権)は、調査がもたらす影響を理解していない」と述べた・・・」
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20110508-OYT1T00101.htm?from=main4
 米国もそうだが、真正アングロサクソンのイギリスでも、インテリ不信がある。
 ただ、その本質は、欧州文明への侮蔑だってことがよく分かるコラムが載ってた。↓
 ・・・As far as the Brits are concerned, intellectuals begin at Calais and gravitate to Paris, where the fact that they are lionised in its cafes and salons is seen as proof that the French, despite their cheese- and wine-making skills, are fundamentally unsound.・・・
 As a historian, Collini smells an ideological rat here, and traces the odour to an ideological belief in British exceptionalism. What it amounts to is the belief that the course of British history has been so exceptionally smooth – with its adaptable aristocracy, (relatively) tolerant church, apolitical military and reformist bourgeoisie – that there was no call for the evolution of an oppositional intelligentsia. So the fact that there are no intellectuals in Britain is something to be proud of. It’s a byproduct of the Whig interpretation of history.・・・
http://www.guardian.co.uk/books/2011/may/08/britain-public-intellectuals