太田述正コラム#0033(2002.5.15)
<台湾秘密資金問題のその後>

 台湾秘密資金問題をフォローしない日本のメディアや政治家と何度か申し上げてきましたが、その後、少しずつ議論が行われるようになりました。そのいくつかをご紹介しましょう。

 4月30日付の赤旗は、6頁目の記事で、台湾の週刊誌「壱週刊」、中国時報紙、香港の星島日報紙の記事を引用し、「・・九五年<から>九六年<にかけて>台湾海峡の緊張が高まってい・・た。・・李登輝総統は・・橋本首相に対して、ワシントンに密使を送り、台湾を防衛するための出兵を求めるよう促し・・首相は密使を確かに派遣した・・クリントン大統領は二つの空母戦闘群の派遣を決定し、台湾海峡付近に急行させた・・台湾<は>日本や米国の政府関係者らの参加をえて、・・三者の秘密協調グループを組織。毎年定期的に二、三回、緊急時には臨時会議を開<い>た。場所は台湾、日本、米国を順番に回っていた・・日本のメンバーは・・自民党の極右派が中心。橋本氏は首相を辞任した後に加わった。日本の元『(自衛隊)北部方面』指揮官で現在、帝京大学教授の志方俊之氏も一員である。・・クリントン政権の・・キャンベル・・国防副次官補・・や現ブッシュ政権のウルフォウィッツ国防副長官も「重要なメンバー」。・・三月に台湾の湯曜明氏が「国防部長」の肩書で初めて訪米できたのは、この・・グループとの協力が密接に関係している・・日本の政界要人<は>橋本氏・・を含めて、台湾から・・『好意』・・台湾特産の食品<等と>商品券・・を受け取った・・」と報道されているとした上で、秋山氏のことに触れ、「秋山氏は防衛局長のとき、台湾の「駐日代表」と会見し、「日本と台湾の断交以来、初めてわが政府役人と会見した日本の軍事関係高官<である>・・台湾は日米安保条約の保護圏に入ることを強く希望し、あらゆる手段を使って日本の軍事情報部門に食い込もうとした。日本政府の政策決定に影響を与え、台湾の戦略的利益にとって有利な方向へ導くためである。秋山氏はそのような役割を果たせる人物であった・・彼と・・<上記>グループ<の>米側・・メンバーの共同作業のもと、日米双方は日米安保条約の『周辺事態』のカバー範囲を台湾海峡と朝鮮半島を含む『極東』および『極東周辺』地域と確定した。つまり、台湾海峡で戦争が起これば、日本は米国とともに軍隊を派遣し、同地域の安全と安定を守るということである」と報じるとともに、既に私がコラム#26や28で毎日新聞やワシントンポストを引用して述べた、秋山氏のハーバード「留学」のいきさつを報道しました。

 「世界週報」の5.7-14号は、台湾の第二野党である親民党(第一野党は国民党。親民党は、国民党の分派であり、台湾「独立」運動に国民党以上に強く反発している)が台湾「独立」運動に加担している李前台湾総統を標的として、秘密資金にかかる文書を入手し、メディアに流したのではないかと報じました。私がコラム#28指摘した「中国による台湾政府の権威失墜をねらった国際陰謀、又は台湾内の反台湾独立派による李登輝氏や民進党等の台湾独立派の権威失墜をねらった国際陰謀」やその両者の複合説等のいずれが正しいのかも興味のあるところです。

 画期的であったのは、この問題が国会で取り上げられたことです。(以下、議事録による)
 民主党の山田敏雅衆議院議員は、まず衆議院外務委員会(開催日不明)において秋山氏の件を取り上げ、防衛庁の柳澤官房長(参考人。以下同じ)からの、秋山氏はご自身のハーバード「留学」の際、研究室、アパート、研究費の提供を受けたがその財源までは知らないと言っている旨の回答と、同じく防衛庁の萩山副長官からの、質問内容が事実であれば副長官としてその責任をとるという答弁を引き出しました。
そして、更に5月8日の事態対処特別委員会において、議員自ら台湾に赴いて調査した結果をふまえ、「台湾に参りまして、・・<日本>大使館に当たる・・交流協会の所長さん<に>お話をお伺いしました。・・<その>方のお話ですと、・・日本側としても、これはどういう情報が正しいのか正しくないのか、あるいはこれはどういう日本として影響があるのか、こういうことは余り前向きにやらない、こういうふうなお話でございました。したがって、・・本当にどうなのかという調査をなされていない・・書いた記者に接触したこともない、会おうともしない。・・現実にどんな感触で、どういうルートで、どういうふうに流れてきたのか。私は二日間聞いたわけですが、そんな人間でもできることを<やらないということでは>、在外公館の情報収集能力では、非常に・・心もとない。」と述べた上で、法務省に事後収賄の構成要件を質問しました。そして、秋山氏のハーバード「留学」について、ワシントンポストの記事を書いた記者が書いた報告書を入手したとし、防衛庁を追及しました。
萩山副長官は、ご自分の前回の答弁に変わりはないと改めて答弁したのですが、中谷防衛庁長官は、「秋山氏<が防衛庁を退職した後の>その後の人生とかその歩み方等については直接本庁の政策決定とか運営等には全く無関係でありまして、本人を監視をしたりまた関与するものでもございませ<ので、>それ以上の調査をする必要があるかどうか・・」と答弁。山田議員は、事後収賄にあたるのではと納得せず、秋山氏の参考人招致を瓦事態対処特別委員長に要求して質問を終えました。
(なお、質疑の過程で、柳澤官房長から、秋山氏がハーバード「留学」中の2000年4月に「ハーバードの旅費負担で台湾を訪問」したこと、秋山氏が同じ年の2月に台湾に電話を入れているが、秋山氏に問い合わせたところ、同氏は、電話は、その台湾旅行のアレンジであり、そのアレンジをしてくれることに対するお礼は述べたことはあるかもしれないが、ハーバードに留学すること自体について台湾側と連絡をとったり、あるいはそのお礼を述べたりということは一切なかったと言っていたとの発言がありました。)

このほか、「選択」の5月号にも本件の記事が出たそうです。これら以外でお気づきの記事等があれば、ご教示ください。

最後に一言。
本コラムの読者諸賢はよくお分かりのことと思いますが、私は決して秋山氏の台湾に関する考え方や行動それ自体を批判しているわけではありません。(どちらか言えばシンパシーを感じていると申し上げておきましょう。)
しかし、いかなる日本国民であれ、日本の法律は遵守しなければなりません。それが法律を執行することが仕事である公務員であればなおさらです。
むろん、「超法規的措置」をとらなければ著しく国益が損なわれたり、人命にかかわるようなケースがありうることまで否定するつもりはありません。
しかし、私は、調達実施本部事案におけるM本部長の違法行為(背任)や今世間の注目を浴びている外務省の佐藤氏等の違法行為(同じく背任)、そして、仮に事実だった場合の秋山氏の違法行為(事後収賄)などは、到底そのようなケースには該当しないと思っているのです。
それにしても、外務省や防衛庁のやる気のなさと隠蔽体質は、本件への対応一つ見ても度しがたいものがあります。

(注)コラム#27がだぶっていることに気がついたので、二つ目のコラム#27を28とし、前回のコラムまで、数字を繰り下げました。