太田述正コラム#4824(2011.6.22)
<女性の社会参画をめぐって>(2011.9.12公開)
1 始めに
 本日のディスカッションでも、EUで銀行の役員の30%以上を女性にする動きがあることを紹介しましたが、日本では、女性に対するアファーマティブ・アクションに向けての取り組みがほとんどみられないのは残念なことです。
 私がかねてから指摘しているように、女性の中で恵まれている人々こそ女性差別撤廃運動の先頭に立たなければならないのに、彼女達の大部分は、逆差別の対象となった結果得られた自分達の地位を守ることに汲々として、むしろ自分達以外の、差別の対象になっている女性達の足を引っ張っています。
 今回のコラムは、以前既に取り上げたことと重複している部分があるけれど、どうして女性の社会参画が不可欠なのかについて、また、そのためにも、女性差別撤廃に向けての初期場面において、女性に対するアファーマティブ・アクション的なことがどうして必要なのかについて、その根拠をさぐるのが目的です。
2 投資仲介業(brokerage)では業績が男性達より高い女性達
 「・・・この分野についての最初の決定的な研究が現れたのは2001年であり、35,000の家計に関して投資仲介業者が行った投資に係る決定を分析した有名な論文がそうだ。
 この研究は、論理必然的に、「男子は男子だ(Boys will be Boys)」研究と呼ばれることになったが、男性達は自信満々で<女性に比べて>高い頻度で投資を繰り返したものの、年間収益は、平均して、複数の女性達が組んで家計金融に関して行った投資に比べて丸々1%も低かったし、単独の女性が行ったそれに比べてもその半分近く低かったのだ。
 もっと最近の、270万人の<株式>投資家達に関する研究では、2008年と2009年の金融危機の間に男性達は女性達に比べて自分達の保有株を、その種類を問わず、市場価格がより低い時に売っていることが分かった。
 男性の投資家達は、集団として見ると、自信過剰であるように見えた、とこの研究を行った人物は述べている。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jun/19/neuroeconomics-women-city-financial-crash
 (6月19日アクセス)
 つまり、投資をさせると、平均的に女性の方が男性よりも高い収益をあげる、ということです。
3 男性達に比べて控えめな女性達
 「研究で分かったのは、むつかしい案件について役員会のメンバー達に話を切り出す際、紛争を回避するために、女性達は男性達に比べて4倍も、自省的(self-deprecating)で、ユーモアを用い、間接的な言い回しをし、言い訳気味である、ということだ。
 そして、それがいつもうまくいくとは限らないことも<分かった。>・・・
 ・・女性達は、直接的に対決的であることを避けようとし、自分たちの狙いを実現するために、友情とまではいかなくとも、各種同盟を維持するための様々な戦略を用いる。
 「私は女性達が男性達よりももっと共同で物事にあたったり(sharing)、他人に配慮を加えたり(caring)する、と言っているのではない。
 私は、彼女達が男性達よりも利他的であると言っているのではないのだ。
 彼女達は自分達の狙いを実現するためにそうしているのだから・・。」・・・」
http://www.guardian.co.uk/uk/2011/jun/19/women-language-boardroom-study
 (6月19日アクセス)
 私は、端的に、女性の方が男性よりも平均的に、より人間主義的なのだと思うのです。
 ところが、米国のような個人主義社会では、自己主張をし、他人を押しのけるような人物でなければ、なかなか社会的地位を向上させることができない、ということではないのでしょうか。
 なお、私は、女性に対する構造的差別が余りない個人主義社会の米国であれ、構造的差別が厳然と存在する人間主義社会の日本であれ、女性に対するアファーマティブ・アクションは必要だ、という見解です。
4 このような男女の違いの人間科学的説明
 (1)テストステロンの量の違い
 「・・・アブナイことをやりすぎる人々の大部分はテストステロン値が高い人々・・・であり、大志は強い性衝動を伴う。
 テストステロンは<リスクの高いことをやりたがること(risk-taking)と強い性衝動の>両者に関わっている。・・・
 進化的観点からは、男性の権力志向の目的の全ては、自分が性的<に充足される>機会への遭遇可能性(access)を増大させることだ。・・・
 <リスクの高いことをやりたがる男どもに「とっつかまる可能性はどれくらいあるんだ」と尋ねると分かるのだが、・・・「その結果どんなひどい目に遭うかということを<連中は>過小評価している」のだという。
 他方、女性は、・・・「結果がもたらす潜在的被害(harm)に焦点をあてる傾向がある」のだという。<だから、女性は慎重なのだ。>
 (性以外のもの・・例えばカネ・・に関してもテストステロンと自信過剰とが関係していることが分かっている。)
 
 (2)神経結合の違い
 「女性達は、男性達に比べて、平均的に、長期にわたる(long-range)神経結合(neural connections)をより多く持っている。
 その結果、・・・男性達は、潜在的な長期的結果(long-term consequences)ではなくて、「ここ」、「今」に狭く焦点をあてる傾向がある。」
 男性は刹那主義的である、というわけですが、この話については、もう少し詳しく知りたいところです。
 (以上、下掲による。)
http://www.nytimes.com/2011/06/19/fashion/scholars-discuss-weiners-behavior.html?hpw=&pagewanted=print
 (6月19日アクセス)
5 終わりに
 以上から、企業というものには投資がつきものですから、女性が相当の割合で企業の役員陣を占めている方がいいに決まっているということになりますし、投資仲介業者はもちろん、一般の銀行においても、融資(すなわち投資)が最重要かつ最も困難な業務であることに鑑みれば、金融業において、女性が相当の割合で役員陣を占めていることは、不可欠である、ということになりそうです。
 このような判断から、EUにおいて、冒頭のような方向性が打ち出されようとしている、と考えたらよいでしょう。
6 蛇足
 上掲のニューヨークタイムスの記事は、米国の政治家の不倫等の性的逸脱行動の人間科学的説明を試みた記事なので、このコラムのテーマの射程をはみ出る話も出てきます。
 こちらも興味深いので、大略をご披露しておきましょう。
 「<以上の話は、単に女性達の方が慎重であり、かつ長期的視点に立って行動するので、女性達がアブナイことをやるとしても、男性達とは違って、すぐにバレるような愚は犯さないということなのであって、(太田)>男女を問わず、性的欲望に苛まれた場合に無力であることに違いはないという研究結果が出ている。・・・
 欲望に関わる脳の領域が活性化するまでにはほんの瞬きの時間・・200ミリ秒未満・・しかかからない。・・・
 あなたが、自分の眼に入ったある人物の詳細の幾ばくかを自覚する前に、それがネット上の人の写真であれ、歩道を歩いている人であれ、あなたの無意識な脳はこの人があなたの報償システムを活性化するであろうことを知り、あなたの脳はこの報償を得ることを期待し始める。 
 「人々はこの衝動(urge)にとらわれると制御できなくなってしまいます」、と大学の学生達の頭に電極をとりつけた上で彼らに男性達や女性達が水着を着ている写真を見せて欲望について研究した・・・<女性>教授は言った。
 この衝動は、無意識と意識の間を一瞬で・・この・・・教授はこの一瞬を性的帯域(sexual zone)ないしSゾーンと呼ぶ。
 「この一瞬、すなわちSゾーンにおいて、彼らの関心はその報酬に焦点があてられ、彼らの周りのその他の全てのことは、突然もはや存在しなくなる」と彼女は言う。
 Sゾーンにおいて、患者達は時間の観念を失うのだという。
 だから、未来(すなわち、<性的逸脱行為に走る政治家の場合、>米下院議員を辞任しなければならなくなる)は考慮されない。・・・
 ・・・欲望の赴くままに行動するという決定がなされるのは、過去において、特定の刺激とふるまいの間にその人物がプラスの連関(positive associations)を経験しているかどうかにかかっている。
 例えば、インターネット上での女性達とのやりとりを何度も繰り返すうちに、<下院議員の>ワイナー(Weiner)氏<(コラム#4803)>は、この種の出会いが確実に愉楽をもたらすことを発見した可能性が高い。
 そして、このような感覚は、脳内化学物質であるドーパミンによって強化される。
 また、このような感覚は、ワイナー氏の場合は新しい神経結合(electronic liaisons)いう形をとったであろうところの、新しい経験(novelty)によっても生み出される(triggered)。
 (学者達の中には、新しい経験は、もう一つの進化戦略・・さまざまな遺伝子的結合(genetic combinations)を持つことは生存にとって最適だ・・であると言う者もいる。)
 大部分の人々は誰かを愛しつつそれ以外の人と浮気をするものなのだ。・・・
 覚えておくとよい。女性達だって、男性達同様、天使ではありそうもないということを。
 40歳未満においては、女性は男性と同じくらい浮気をしているのだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2011/06/19/fashion/scholars-discuss-weiners-behavior.html?hpw=&pagewanted=print 上掲