太田述正コラム#0067(2002.10.17)
<核保有をほのめかした北朝鮮>

「ラムズフェルド米国防長官は16日の記者会見で「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は核兵器を開発し、保有している」と述べた。米国は北朝鮮について従来「核爆弾を1―2個製造できるプルトニウムを抽出した」との公式見解を繰り返している。国防長官の発言は保有にまで踏みこんだが、根拠については触れなかった。(ワシントン共同)」という記事(http://www.mainichi.co.jp/news/selection/20020917k0000e030005000c.html。9月17日アクセス)が出て首をひねってからちょうど一ヶ月、「米国のアーミテージ国務副長官は16日、ワシントンで訪米中の橋本龍太郎元首相と会談し、「<ケリー米国務次官補が米朝協議を行った際、10月4日に>高度濃縮ウランを使った核兵器開発を進めていることを北朝鮮が認めた。枠組み合意に違反するものであり、米国は重大な懸念を持っている」と述べた」(http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt58/20021017d2mi01b717.html。10月17日アクセス)というニュースが飛び込んできました。

これらの記事を注意深く読むと、「プルトニウム」を使った核兵器開発・保有疑惑が「高度濃縮ウラン」を使った核兵器開発・保有疑惑にすりかわっている点が気になりますが、この点の追求は他日を期したいと思います。

福田官房長官が「9月に開いた日朝首脳会談の前に米国から核開発情報の概要を提供されていたことを明らかにし、その上でも「米国は会談開催を支持していた」と言明しており(http://www.nikkei.co.jp/sp1/nt58/20021017d3ki02g717.html。10月17日アクセス)、かつ、米国が、内々日本政府等に伝達しつつ(NHKTVの報道)も、12日間にわたって、(善後策をつめるためか、)公にしなかったところから見て、対テロ戦争と対イラク「戦争」で手一杯の米国としては、北朝鮮の問題には当面、とにかくさわりたくないというということなのでしょう。

肝心の、北朝鮮が既に核兵器を保有しているのかどうかという点については、米国政府は、北朝鮮がどう述べたのかを明らかにしようとせず、また、北朝鮮が核実験を行ってはいないこともあって、米国政府自身、北朝鮮の核保有の有無について判断がつきかねていると報じられています(http://www.nytimes.com/2002/10/17/international/asia/17KORE.html。10月17日アクセス)。一ヶ月前のラムズフェルトの「突出」発言をも念頭に置いて憶測をめぐらせれば、その後、北朝鮮と米国がぐるになって北朝鮮の核保有の有無を明らかにしないことにした、とも勘ぐれます。

とにかく、日本は北朝鮮の核に関する自前の情報が皆無であるところへもってきて、米国の核抑止力に依存しつつも、米国の核戦略に全く関与しないという非論理的な姿勢を貫いてきているため、米国自身の核情報を含め、周辺諸国の核情報についても、確かなことは日本政府と言えども教えてもらえない、という情けない立場にあることをお忘れなく。

これで、世界には、国連安保理事会の常任理事国たる核保有国が米、英、仏、露、中の五カ国、それ以外の核保有国がインド、パキスタンの二カ国、そして核保有の疑いがある国がイスラエル、北朝鮮の二カ国あるということになりました。

日本人が忘れがちであるイスラエルの核の話を最後にしておきます。(以下、ミリタリーバランスによった箇所以外は、http://www.guardian.co.uk/israel/comment/0,10551,804336,00.html(10月4日アクセス)による。)

最初にイスラエルの核計画が暴露されたのは18年前の1986年です。暴露したイスラエル核技術者のモルデカイ・ヴァヌヌは、モサドによって滞在中のローマで拉致され、スパイと国家反逆の罪で爾来ずっと獄中にあります。
1986年に至って、ついにあの権威あるジェーンの情報レビュー誌が、イスラエルは核兵器を保有していると認めました。最新の「ミリタリー・バランス2001-2002」(IISS)は、「イスラエルは、最大100発の核弾頭を保有していると見られている。その運搬手段は、航空機、(最大射程500kmの)ジェリコ1地対地ミサイル、(推定射程1,500-2,000kmの)ジェリコ2地対地ミサイル等である。」と記述しています。
米国が、国際的枠組みの埒外で核兵器を開発する国への援助の供与を禁止する米サイミントン法の存在にもかかわらず、このイスラエルに対し、毎年30億ドルにのぼる援助を行っていることは、覚えておいていいでしょう。