太田述正コラム#5296(2012.2.12)
<ロジャー・ウィリアムズ(その5)>(2012.5.28公開)
<脚注:17世紀北米英領植民地におけるインディアン>
 1636年、1月にマサチューセッツ湾植民地当局に逮捕されようとしたウィリアムズはナラガンセット族によって助けられ、彼は、同族の指導者達から土地利用権を取得する。
 しかし、排他的に土地を利用するイギリス人と、そうではないところの、インディアンとの間で、土地利用権の観念の食い違いが露呈したことから、同年中にウィリアムズはこの土地を買収する運びとなった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Narragansett_(tribe)
http://en.wikipedia.org/wiki/Roger_Williams_(theologian) 前掲
 翌1637年にペクアット族(Pequot)とコネチカット植民地とマサチューセッツ湾植民地のイギリス人達との間で戦争が勃発した(=ペクアット戦争)。
 この時、ウィリアムズが、ナラガンセット族に中立を保つよう要請したところ、同族はイギリス人側に加わってペクアット族と戦った。
 この戦争に敗れたペクアット族は、奴隷として、大部分はイギリス人達に味方して戦った、モヒカン族(Mohegan)等のインディアン達に与えられたが、一部はバミューダ諸島に送られ、残りはイギリス人宅で召使いにさせられた。
http://en.wikipedia.org/wiki/Pequot
http://en.wikipedia.org/wiki/Roger_Williams_(theologian) 前掲
 また、ワンパノーグ族(Wampanoag)は、1616~19年に恐らくイギリス人によって持ち込まれた疫病で大量に死亡者が出たこともあって、キリスト教への改宗者もかなり出、両両あいまって、その後のイギリス人によるマサチューセッツ湾植民地の創設のきっかけを与えたところ、やがてイギリス人との関係が悪化し、1675~76年に両者の間でフィリップ王の戦争(=King Philip’s War)が起き、同族の人口の40%が死に、生き残った男性の大部分は西インド諸島に奴隷として売られ、女性と子供はイギリス人植民地で奴隷にされた。
http://en.wikipedia.org/wiki/Wampanoag_(tribe)
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4 補論:米国の現在の宗教状況
 米国の建国の父達に碌な人物はいないと前に記したことがありますが、同じことは北米イギリス植民地の始祖達についても言えるのであって、一見そうでなさそうなロジャー・ウィリアムズもまた、その例外ではなかったわけです。
 こういうご先祖様達が米国の歴史の始まりを担った以上、米国が、とりわけ宗教面で極めて異常な社会であり続けて現在に至っていることは、少しも不思議なことではありません。
 
 「・・・<米下院議員中、>無神論者であることを公言しているのはピート・スターク(Pete Stark)一人だけであるところ、彼は、1973年以来、カリフォルニア州のオークランドという超リベラルな地域から当選し続けているというのに、彼が、至上の存在を信じていないと認めたのは、実に2007年になってからだった。
 そんな彼でさえ、無教義のユニタリアン(Unitarian)教会の会員であり、自分自身を無神論者というより、「非神論者(non-theist)」とするとともに、本件に関してインタビューを受けることを拒否している。
 これに対し、ホモ議員であることを公にしている者は、少なくとも6名もいる。・・・
 昨年のギャラップ調査によれば、ユダヤ教徒たる大統領候補者には投票しない米国人は9%だが、モルモン教徒の候補者を支持しない者は22%おり、ゲイやレスビアンの候補者に投票しない者は32%いる、のに対し、無神論者を大統領としては支援しない者は49%もいる。<(注11)>・・・
 (注11)以上は、コラム#1724で言及した話と大幅にだぶっているが、再度掲げた。
 「生活の極めて多くの部分が教会を巡って行われる」とジョンソンは、彼女のテキサスでの経験について語る。
 彼女の地元のレインズ(Rains)郡(人口9,139人)には教会が31あり、そのうち17がバプティスト(Baptist)の教会だ。
 もしあなたがそのうちの一つに所属していなければ、あなたはコミュニティーの一員ではないのであって、<教会に代わる>世俗的な代替手段はないのだ。…
 欧州とは異なり、福祉国家ではない米国ではボランティア活動が生活においてより中心的役割を担っているところ、教会は、ボランティア活動の主要ハブでもある。・・・
 「人々は仏教徒やモルモン教徒が好きではないかもしれないが、少なくとも、彼らにとっては、これら教徒がより上位の力を信じているということが自分達の諸信仰を裏付けてくれる(confirm)。しかし、無神論者のような人物は、自分達の諸信仰の顔にまさに泥を塗るのだ」とジョンソンは語る。・・・
 データはこの挿話を裏付ける。
 今や有名になったところの、ミネソタ大学が行った研究の結論は、米国人は無神論者をイスラム教徒、最近の移民、ゲイとレスビアンその他の少数派集団よりも、「米国社会についての自分達の見解の共有度」が低いと序列づけた。
 そして、48%近くが、「自分の子供がこの集団の一員と結婚することを望んだら反対する」と述べた。
 (これは、次に不人気であったイスラム教徒が33.5%であったのと比較して、はるかに多い。)・・・
 また、米国人の53%は、道徳的であるためには神を信じる必要があると語っているのだ。・・・
 <更に、>2008年の米国宗教意識調査(American Religious Identification Survey 2008)では、米国人の約12%は無神論者ないしは神不可知論者(agnostic)であると推測されているというのに、わずか0.7%しか自らを無神論者であると申告しなかったし、わずか2.3%しか神など存在しないと述べた者はいなかった。
 しかし、調査した人々は、非常に低い水準から出発しているとはいえ、無神論は増大しつつある、という点で合意している。・・・
 <更にまた、>皮肉にも「4人の騎手(Four Horsemen)」<(注12)(コラム#5284)>と名付けられたところの、サム・ハリス、ダニエル・ドネット、リチャード・ドーキンス、そして故クリストファー・ヒッチェンスの著書は、全てニューヨ-クタイムス調べのベストセラーとなり、何十万冊も売れている。・・・」(G)
 (注12)聖書の黙示録で、神が悪の支配を破壊する宇宙の大改革(Apocalypse)の幕開けに、征服(Conquest)、戦争(War)、飢饉(Famine)、と死(Death)をそれぞれ象徴する4人の騎手が現れる、との記述がある。
http://en.wikipedia.org/wiki/Four_Horsemen_of_the_Apocalypse
 つまり、現在、米国人のうち、非宗教的な人は一定程度いるし、その割合は増大しているけれど、彼らは容易にカミングアウトできない状況にある、ということであり、まさに、米国は、依然として、ロジャー・ウィリアムズの呪縛の下に置かれている、ということが分かります。
 「・・・<米国の>軍事文化は宗教的イデオロギーと象徴主義に満ちている、とグリフィス(Griffith)は語る。
 例えば、彼は、伝統的な旗を折りたたむ儀式に言及し、何度も神への信仰に言及がなされる、とする。・・・
 彼はまた、軍に属する者が誰でもその公式軍事記録類に「無神論者」として記載してもらえるようにするための活動をしている。
 「私の記録類を無神論者に代えてもらうのに一年半かかった。
 私が彼らに自分が無神論者だと伝えた時、彼らは「無宗教(no religious preference)」と記載したと彼は語る。
 「私は、彼らにそれは受け容れ難いと伝えた。私は無宗教ではなく「無神論」なのだ、と。」
 これらの記録類は重要なのだと彼は語る。
 というのは、戦争で負傷した兵士達に臨終の宗教サービスが提供されるからだ。
 「私は、彼らに私が無神論者であり、私のために、祈祷をすること、臨終の儀典をやること、いかなるものであれ愚かな儀式を行うこと、は無用であることを知っておいてもらいたいのだ」と。・・・」(F)
 前にも記したことがありますが、「4人の騎手」のような著名な人々であれ、グリフィスのようなそれほど名前の知られていない人であれ、戦闘的無神論者というのは、一種の原理主義的宗教なのであり、「4人の騎手」・・この中にはドーキンスのようなイギリス人
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B9
もおれば、故ヒッチェンスのようなイギリス生まれで米国で活躍した人
http://en.wikipedia.org/wiki/Christopher_Hitchens
もいる・・の本が爆発的に売れる米国という国は異常なのであり、グリフィスの活動を、英国のBBCがわざわざとりあげたのも、英軍の中で起こることなどまず考えられない異常な活動だからだと私は思うのです。
(続く)