太田述正コラム#5390(2012.3.30)
<黙示録の秘密(その4)>(2012.7.15公開)
 バラーム(Balaam)<(注10)>とジェジベル(Jezebel)<(注11)>は、啓示<、すなわち黙示録>の中で悪魔的予言者達としての名前が付けられているが、この見解によれば、「聖パウロの(Pauline)」のキリスト教徒達の戯画なのだ。
 (注10)易者で悪しき男とされる人物↓
http://en.wikipedia.org/wiki/Balaam
の名前をとっている。
 (注11)カルタゴの女王ディドー(Dido)(コラム#2789、3269、3878、3926)の大叔母のジェジベル↓
http://en.wikipedia.org/wiki/Jezebel
の名前をとっている。
 この大叔母のジェジベルは、ティール(Tyre)・・現在のレバノン南部の都市・・を首都としていたフェニキアの国王の娘でイスラエル・・当時は現在のパレスティナの北半分であり、南半分をユダヤと言った・・の国王の妃となった人物であり、国王と共にユダヤ教ならぬ、バアル(Baal)神信仰を庇護したため、後世、ジェジベルは堕落した女性、性的に放縦な女性、を意味するようになった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Jezebel
 「バアル・・・は、カナン地域を中心に各所で崇められた嵐と慈雨の神。その名はセム語<[=アラビア語、ヘブライ語、エチオピア語等]>で「主」を意味する。バール、ベールの表記も。・・・足を前後に開き右手を挙げている独特のポーズで表されることが多い。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A2%E3%83%AB
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%A0%E8%AA%9E%E6%B4%BE ([]内)
 なお、ジェジベルが、対潜水艦戦(ASW)で海上に米国の対潜機のP-2やP-3から投下されるパッシヴ・ソナー・・ジュリーと称されるアクティヴ・ソナーと対で用いられる・・の名称として使用されている
http://www.ww2aircraft.net/forum/modern/legend-julie-jezebel-1413.html
のは興味深い。
 このキリスト教徒達は、あっけらかんとユダヤの食と性の諸法を犯しつつ、なお善きラビのヨシュア(Yeshua)の追従者であると主張していた。
 (注12)Joshua。紀元前1550-1200~1550-1200。「<旧約聖書によると、エジプトを脱出した>モーセは[、ヨシュアを含む12人のスパイを<ユダヤ人の故郷である>カナン([Canaan])の地に送り込んだが、]120歳になると、自分の後継者としてヨシュアをたてて亡くなった・・・。ヨシュアは指導者として<この神から>約束<された>地に入るべくヨルダン川を渡ってエリコ([Jericho])を攻める。エリコの城壁は祭司たちが吹く角笛と民の叫びの前に崩壊した。ヨシュアはエリコの人民を全て虐殺する。ヨシュアは民を率いてカナンの各地を侵略、抵抗運動を粉砕して全カナンを制圧した後にレビ族を除くイスラエルの十二族にくじびきによって分配し・・・110歳で・・・この世を去った。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%82%A2
http://en.wikipedia.org/wiki/Joshua ([]内)
 ジェジベルは、ヨハネが評判の悪いカナンの女王<(上出)>の名前をとったものだが、彼女が<パトモス島の>近傍のテアテラ(Thyatira)<(注13)>の町で説教をしているのが見かけられたというのだから、この女性は、パウロ版の運動にとって中心的な、しかし、ヨハネのような敬虔なユダヤ人にとっては大嫌いなものであるところの、福音伝道者(evangelist)であることが示唆されている。
 (注13)小アジア西部の町でセレウコス朝の創始者のセレウコス(Seleucus)1世(紀元前312~280年)によって創建され、マケドニア人とユダヤ人が住んでいた。現在のトルコのアクヒサル(Akhisar)。
http://gabrielle1.com/aap/jean7.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%AC%E3%82%A6%E3%82%B3%E3%82%B91%E4%B8%96
http://en.wikipedia.org/wiki/Thyatira
 彼女は、非ユダヤ人たる(shiksa)女神の最初のものなのだ。
 (「ヨハネが「バラーム」と「ジェジベル」が、人々に対して「偶像たちへの犠牲に供された食物を食べたり姦通を行うよう」唆した、と非難したのは、異教徒達と性的関係を持ったり、更に悪いことには、異教徒達と結婚したりしたユダヤ人達との近親相姦関係を結ぶ人々だけは許せないという気持ちが彼にはあったのかもしれない」とパゲルスは注記する。)
 啓示<、すなわち黙示録>中の緋色(scarlet)<(注14)>の売春婦達と狂った獣達は、パウロの異教徒たる追従者達であり、それがゆえに、今日のプロテスタントたる福音伝道者(evangelical)達の精神的祖先にあたるのだ。・・・
 (注14)深紅色。 「罪悪を象徴する色であると同時に、地位・身分の高さをも象徴する色」
http://ejje.weblio.jp/content/scarlet+
 紀元1世紀のイエスの運動はパウロの異教徒・・彼らは割礼やコーシャ食抜きでイエスに追従することを許された・・に対する宣教団(mission)と、エルサレムでイエスの兄弟達によって世話されていたところの、より純粋にユダヤ人的な運動の二つに分裂していた。
 イエス一家は、エルサレムでイエスの宗派専一の表玄関的(storefront)シナゴーグを運営する自由を認められており、依然として、反正統の(dissenting)ユダヤ教という枠組み内においてイエスないしヨシュア(Yeshua)<(注15)>の運動を見ていた。・・・」(B)
 (注15)イエスは、もともとはヨシュア(ヘブライ語)だったが、そのヘレニズム・ギリシャ語訛りのησοu ς がそのままラテン語に引き継がれてイエスス(Iesus)となり、それが更に英語ではジーザス(Jesus)、
http://en.wikipedia.org/wiki/Yeshua_(name)
日本語ではイエスとなった。
 ちなみに、旧約聖書はヘブライ語で、新約聖書はギリシャ語で書かれている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E7%B4%84%E8%81%96%E6%9B%B8
(続く)