太田正正コラム#0112(2003.3.31)
<対イラク戦の現況>

 対イラク戦終結までの期間については、コラム#77(2002.11.20)で、「ラムズフェルト米国防長官は、11月14日に、対イラク戦が「5日間なのか5週間なのか5ヶ月なのかは分からないが、それ以上かかることはありえない」と語ったと報じられています・・。また、イラク情勢にも詳しい友人の幹部自衛官は、バグダード以外の地区の制圧に1??2週間、バグダード封鎖に1週間、バグダード攻略に1??3週間で、合わせて3??6週間といったところだろうと言っています。この二つの所見は矛盾していません。おおむね幹部自衛官氏の言うとおりで、どんなに予測が狂っても、ラムズフェルト長官の言った範囲にはおさまると考えたいと思います。」と述べたところです。

 このところ、イラク側の予想外の「善戦」によって米英軍が苦戦に陥っており、対イラク戦終結までは長い時間がかかるという報道がもっぱらですが、私の上記予測を変更する必要があるとは思っていません。その理由を思いつくままにあげれば次の通りです。(BBC、CNNのTV放送から得られた認識もあり、基本的に典拠は記さない。)

 開戦後10日余を経過した現在、
1 イラク南部地域では、イラク軍兵力は既に事実上雲散霧消しており、フェダイーンやバース党のメンバーを中心とする(錬度の低い)少人数のテロ部隊やテロリスト達が都市を拠点にして散発的に米英軍に抵抗している状況。(彼らはゲリラ戦を行っているとは言えない。制服を着用しないようでは戦時国際法違反だという点はさておき、ゲリラ戦を行うためには、住民の積極的支援と兵站拠点となる聖域の存在が不可欠だが、どちらの条件もイラク南部では満たされていないからだ(3と4参照)。)
2 イラク南部で戦っている英国軍は、北アイルランド等でのIRAとの長年月にわたる戦闘を通じ、対テロ戦に習熟しており、米軍にその知識・経験を伝授しながら米軍とともにテロ部隊やテロリスト達の掃討にあたっている。
3 イラク南部の住民には、フセイン政権に反感を持つシーア派信徒が多いが、フェダイーンやバース党のメンバーの銃口下で蜂起も逃走もできず、中には対英米軍へのテロ攻撃に強制的に従事させられている者もいる。
そもそもイラク国民は、「ファシスト犯罪者集団」たるフセイン政権によっていわば長年ハイジャックされ、人質にされてきたところに、対イラク戦が始まったため、少なからぬ国民が重症の「ストックホルム症候群」にかかっている感がある。
しかしバグダード封鎖が完了し、更にフセイン政権の命運が尽きたことがはっきりすれば、フェダイーンやバース党の恐怖による南部「支配」は急速に瓦解し、イラク国民一般の「ストックホルム症候群」も狐付きが落ちたように急速に解消することは必定。
4 ウム・カスル港を含むイラクのペルシャ湾岸の占領と米国によるトルコ、ロシア、イラン、シリア等への強い牽制によって、イラク軍は外国からの補給手段をほぼ完全に絶たれるに至っている。
5 他方米軍は、イラク南西部の昔の滑走路を確保・整備し、ここに補給物資を空輸できるようにした。これによって、クウェートからバグダード近郊に至る補給路は大幅に短縮されることになり、補給上の隘路が基本的に解消した。
6 イラク軍はイラク北部においても、かねてよりの空爆によって大打撃を受けている上、この地域への米空挺部隊の展開もあり、キルクーク等の都市に逃げ込んで延命を図るほかない状況になりつつある。
7 米英豪特殊作戦部隊等による隠密作戦は成功裏に進行しており、既にイラク西部地域をほぼ全面的に制圧しているほか、バグダード市内に多数の隊員が潜入しており、西側諜報要員や反体制派との接触、イラク要人の暗殺、要人への投降工作、抵抗拠点の爆破等に成果をあげている。 

 そこで今後の見通しですが、3で述べたことのほか、
ア ブッシュ大統領は、3月29日、計画通りバグダードの攻略をめざすように指示したと報じられている(http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20030331AT2M3000H30032003.html。3月31日アクセス)。
イ バグダード周辺の共和国防衛隊等の部隊は、連日の空爆によって既に戦力は半分以下に減殺されており、あと数日もすれば、殆ど戦闘能力がなくなるはず。そうなれば、米軍によるバグダード封鎖が完了し、バグダード攻略の条件が整う。
ウ バグダードを封鎖した米軍部隊に対し、イラク軍が生物化学兵器を用いる可能性は否定できないが、仮に使ったとしても、対処に万全を期してきた米軍に大きな被害が出るとは考えにくい。
エ 対都市戦においては攻者と住民に多大の死傷者が出るとされているが、バグダード攻略戦に関しては、米軍とイラク側のハイテク度・錬度の差は決定的なものがある。
具体的には米軍は、戦車やヘリコプターに衛星通信等でリアルタイムで伝えらるところの、バグダード内の諜報要員・反体制派・特殊作戦部隊や偵察衛星・U-2(有人)偵察機・無人(の三種類の)偵察機等から得られたイラク側の情報、及び味方の米軍部隊の展開情報、を活用しつつ、この戦車等と歩兵が相互に助け合い、連携しながら、高性能防弾服・高性能煙幕・暗視装置・非殺傷爆弾等のハイテク装備を駆使して、建物内等に潜む敵を掃討していくこととなる。
オ (米軍の内部情報に接することができる)米国防省国防政策委員会委員長を退いたばかりのパール氏が、30日、「イラク戦争の期間について、「六週間続いた1991年の湾岸戦争よりも早く終わる」との見通しを示した」(http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20030331AT2N3000531032003.html。3月31日アクセス)と報じられた。
 こと等から、私は、バグダード攻略戦は早期に開始され、攻者と住民の死傷者数は比較的少ないまま、短時間で終結すると考えているのです。

<蛇足>

 コラム#110で言及した朝鮮国連軍地位協定(http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPUS/19540219.T1J.htmlに全文が掲げられている。正式名称は「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」)は、北朝鮮情勢との関連で今後日本国内でホットなテーマになる可能性があります。この協定に言及したコラム#110に関連してホームページの掲示板で一読者との間でかわされたやりとりも関心ある方はチェックしてみてください。