太田述正コラム#5710(2012.9.8)
<インドの経済(続)(その2)>(2012.12.24公開)
 (3)改革への動き
 「・・・2011年8月、ラムリラ・グラウンド(Ramlila Ground)<(注4)>はある種、1989年に天安門広場で起こったことを思い起こさせるものがあった。
 (注4)ラムリラ・マイダン(Ramlila Maidan)とも呼ばれる。ニューデリーのニューデリー駅とデリー門付近の広場。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ramlila_Maidan
http://en.wikipedia.org/wiki/Delhi_Gate_(Delhi) (←デリー門の写真)
 しかし、中共の指導者達が当時行使することを選んだところの暴力がインド政府の選択肢にあがったことは一度もなかった。
 <この広場での>12日間のハンストの後、インド議会は、活動家<たるハザレ(Hazare)(注5)>の諸要求を受け入れ、厳しい反腐敗法を採択することを約束したのだ。
 (注5)Anna Hazare。1937年~。社会運動家。7年間の初等教育しか受けていない。12年間の軍隊勤務の後、農村におけるアルコール、タバコ禁止に取り組み、穀物の種の銀行を設立し、治水・利水工事を行う、といった活動を積み重ねてきて、昨年からは腐敗撲滅運動に取り組んでいる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Anna_Hazare
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Anna_Hazare_on_2nd_day.jpg (←彼のハンスト写真)
 ハザレは、ココナッツミルクと蜂蜜を少々飲んで、勝利者として彼のファン達の祝福を受けながら、首都における彼の舞台から去った。
 しかし、本日現在、この法案は、まだ上院で立ち往生したままだ。・・・」
 (4)現状
 最後に、数日前のWSJの記事
http://online.wsj.com/article/SB10000872396390443819404577635073778511562.html
で、インド経済の現状を抑えておきましょう。
 「・・・<9月6日>に公表された世界経済フォーラム(WEF)の年次世界競争力報告(Global Competitiveness Report)において、インドは調査対象となった144か国中、<前年より>3つ順位を落として59位になった。
 過去3年間で、インドは10位も順位を落とし、BRICS仲間である南アフリカとブラジルの後塵を拝するに至った。
 今や、インドは、うわさのライバルたる中共に30位も水をあけられている。
 今年の6月30日で終わる四半期には、外国直接投資は、昨年の同一四半期に較べて67%も減少し、44億3,000万ドルになった・・・
 <そして、>今年の経済成長率は、6%を下回るところまで減速すると予想されている・・・
 過去2年間にわたって、インドの経済成長率が低下するにつれて、財政赤字は拡大し、投資が行われなくなり始め、政府による、社会福祉と規制の諸政策が、これら諸政策が今後もたらす支出を賄うための経済成長を脅かしていることが、従来以上に明らかになって来た。・・・
 1991年に経済自由化が始まってから何千万もの人々が貧困から免れるに至ったとはいえ、政府がなすべきことは多い。
 人間開発と所得のおおむねいかなる指標に照らしても、インドは、単にBRICSの残りの国々だけでなく、東南アジア諸国の多くに遅れをとっている。
 1990年代末には、多くの人々から見放されるに至っていたインドネシアが、今や、WEFの競争力ランキングで、悠々、インドの9位上に鎮座している。・・・
 日本、韓国、及びシンガポールは、中所得国になってからしばらくするまで、すなわち、主要な諸苦悩を克服し始めてからしばらくするまで、その社会福祉諸プログラムをまともに拡大し始めることはなかった<のに、インドはそうしなかった>。・・・
 ・・・<このことに加えて、>インドが世界競争力で下降した理由の一つは、「公衆の政治家達に対する信頼」の喪失だ。
 WEFは、この指標において、インドを106位に位置付けている。
 これは、プーチンのロシアより30位も後ろだし、共産主義の支那の実に80位も後ろなのだ。・・・」
3 終わりに
 (満州族の植民地であったとも言える清時代はさておき、)半植民地にとどまった支那、植民地になったことのないロシア、移民が中心で比較的早期に独立したブラジル、かつて植民地だったものの白人移民が経済を支配している南ア、というBRICS仲間に比べて長らく植民地であったインドが植民地後遺症に苦しめられるのは当然でしょう。
 インドに限りませんが、植民地後遺症の最たるものは、人々の公意識・・政府が自分達自身のための公共物であるとの思い・・が希薄で、政治家や公務員が賄賂をとったり一般国民が予算を目先の自利のために使ったりすることです。
 (日本の植民地であった地域のうち、北朝鮮はともかく、韓国と台湾における、かかる後遺症が比較的軽微であったことはご承知の通りです。)
 インドのユニークさは、かかる植民地後遺症に悩まされる国の多くは、独立後、独裁制的な体制になるというのに、一貫して民主制を維持してきたことです。
 これに加えてカースト制の悪しき影響をも脱し切れていないだけに、インドとのお付き合いは容易ではありませんが、(繰り返しになるけれど、)中共抑止のためにも、日本の朝野がインドとの交流をより密にするとともに、インド支援を心掛けるべきだと思います。
(完)