太田述正コラム#5726(2012.9.16)
<米帝国主義マークIIとその崩壊(その3)>(2013.1.1公開)
 その結果が、今日における、産業能力の地理的集中の完全に新しい水準なのだ。
 次から次に、生産の連鎖の若干の枢要な一つの<鎖の>主に一つの国に次いで一つの国が<といった調子で>なってきている。
 この産業能力の集中は、多くの、完全に空前の諸問題を投げかけている。
 最大の問題の一つは、それが生産システム全体を物理的に不安定にすることだ。
 史上初めて、国際産業システムの全体が金融諸恐慌(crashes)とほとんど同様の「恐慌」に晒されるようになったのだ。
 この恐慌の良い例が2011年の津波の後に日本で起こった。
 混乱(disruption)の多くはたったひとつの工場の喪失に帰すことができる。
 この工場はルネサス(Renesas)という半導体製造会社に所属しており、日本の自動車産業のほとんど全体、及び外国の自動車製造会社の多くに対して、たった一つの枢要な部品を供給していた。
 実際、今日の産業能力は、極めて高度に集中され、かつ緊密に統合されているため、たくさんの自然的、金融的、疫学的、政治的大災害のうちのどれが世界のどこで起きようとも、国際的システムの大部分とは言わないまでも多くのものを瞬時に麻痺させてしまい、恐らくは致命的な諸結果をもたらすことになるだろう。
 産業能力の極端な地理的集中が投げかける第二の問題は、それが政治的不安定をもたらすように見えることだ。
 ニューヨークタイムスのトーマス・フリードマン(Thomas Friedman)のような、この全球化の第二世代の偉い説教師達(high priests)は、このような極端な産業的相互依存がゆえに、合理的アクターなら正常状態(business as usual)を混乱させる危険を冒すようなことは決して行わない、とのご託宣を垂れる。
 要するに、システムが機能するためには、みんなが毎日仕事にやってこなければならない、というのだ。
 このようなものの考え方の問題点は、要するにそれがウソだということだ。
 実際、高度の相互依存性がゆえに、何らかの政治的意図を達成するために、商品群の正常な流通を混乱させようと試みる気に、若干の合理的アクターをさせるところの、シナリオ群を思い描くのはまことにもって容易なことだ。
 これには、極めて明白なことだが、テロリスト達のような、このシステムの諸敵が含まれる。
 しかし、それには、権力を求めて言動を行うところの、一つの国の内部における諸派閥もまた含まれるのだ。
 既存の国家指導者達もまた、中共当局自身が2010年の秋にレアアース類の日本への流通を遮断したところ、まさにそんな具合に、国家的利得を求めて、我々の相互依存的世界の中の若干の特定の依存性を、多分活用しようとしているのだ。
 この同じ力が、今度は米国に向けられることだってありうる。・・・
 戦後国際経済システムの究極の調停者かつ執行者としての我々の伝統的役割を放棄する決定を米国が行ったことで、世界が、政治的かつ経済的にはるかに危険な場所になったことを自覚する時がやってきた。・・・
 オバマの官僚達が、彼らの<軍事面での>「アジア基軸(pivot)」<政策>、及び、貿易を一層自由化するための諸提案・・若干大きくなった棒で支えられた若干大きくなった人参・・が負けを防ぐ(hedging)抜け目のない戦略である、と見ていることははっきりしている。
 しかし、この「戦略」のどちらの要素もそれ自体としてナンセンスであるからして、この二つの要素が一緒に結合された時に効果的であるとは全くもって思われない。
 話はその逆であり、この、中共を、同時に、より強力にするとともにより挑発する「戦略」は、アイゼンハワー政権によって1956年に英仏に与えられたものに似たところの、或る種の大いなる、かつ危険なる国家的屈辱<を中共に与えることへ>の地ならしをするだけに終わるかもしれないのだ。
 第一に、南シナ海において何らかの種類の現実の対決が起こった場合、中共当局は、米国が軍事力を行使する可能性が極めて低いことを既に知っている。
 結局のところ、戦いの主要ルールの一つは、自分の補給線群を確保することだが、南シナ海で最初の弾が撃たれたならば、瞬時に、米軍だけでなく米国の一般国民のためのものでもあるところの、最も枢要な補給諸システムの多くが遮断されてしまうことだろう。
 第二に、中共当局は、商品群の正常な流通を混乱させることで米国内に向けて顕著な実質的な力を投射する能力を<自らが>享受していることを既に知っている。・・・
 結局、<我々にとっての>目標は、21世紀のために持続力のある、第三世代の全球的システムを構築することなのだ。」
→この結論部分でリンが言っていることの大部分に私は同意であるものの、結論の前提となる説明は不十分ですし、「第三世代の全球的システム」の中身に言及していないことも物足らなさを感じます。
 米国は、軍事的経済的に相対的に着実に弱体化してきており、単一の世界覇権国の地位から早晩完全に降りざるをえなくなることは必至である、ということをまず押えなければならないでしょう。
 従って、米国は、中共に対しても、過度に経済関係を密にすることは避けるとともに、国際経済秩序や国際安全保障秩序を維持するための国際公共財の提供を(相対的にですが)一方的に削減して行くべきであり、そのためには、米国のイニシアティヴで、先進国たる自由民主主義諸国の経済上、安全保障上の調整システムの強化を図り、これら機構を、米国が削減した分を補填するために国際公共財の負担を各国に半強制的に割り当てる機構へと作り替えて行く必要があります。
 具体的にはOECDの事務局の権限強化やNATOの事務局の権限強化とその太平洋への拡大を図るとともに、両機構を統合して、先進自由民主主義諸国からなる小国連的なものを構築することが望ましい、と私は考えているのです。(太田)
4 終わりに
 冷戦期には、全球的政治経済システムの圏外に共産圏等の諸国がいたわけですが、この冷戦期を含め、戦後、一貫して米国は全球的政治経済システムにおける単一の覇権国でありつづけてきました。
 その米国が単一の覇権国の地位から完全に降りる時期が迫っているのですから、自由民主主義諸国中第二の経済力を有する国として、日本は、(一刻も早く米国からの「独立」を果たした上で、)自国による国際公共財の負担を漸進的に増大させることと並行して上記小国連的なものの構築に向けて積極的に努力を傾注して欲しいものです。
 
(完)