太田述正コラム#5832(2012.11.8)
<ジェファーソンの醜さ(その2)>(2013.2.23公開)
2 ジェファーソンの醜さ
 (1)総論
 「ジェファーソンは、・・・冷血で厳しい主人であり、当然のように、<黒人>児童労働を搾取し、自分の奴隷をこき使った。
 ジェファーソンは、時々、「その利益でもって邸宅の食料雑貨経費を賄うための」、極めて儲かる釘工場で働く児童達のうちの10ないし11歳の者を含め、彼らに暴虐的処罰が加えられるのを黙認した」とウィーンセック氏は記す。
 ジェファーソンは、たまに、奴隷制はいつの日にか立ち枯れて行くことだろうと主張しつつも、奴隷制は愛郷者達がそのために米革命戦争を戦ったところの諸価値に対する侮辱である、と見た友人達や同盟者達に懇願された場合ですら、この奴隷制を弱めるために指一本動かそうとはしなかった。・・・
 それどころか、1784年には、「ヴァージニア州に関する備忘録(Notes on the State of Virginia)」の中で、彼は、率直(graceful)かつ媚びるような口調で(in cringe-inducing prose)、黒人に対する強い個人的嫌悪の念を表明している。
 彼は、黒人は、嫌な匂いがするし、アフリカ時代には類人猿と性交していたし、知的業績をあげることもできない、と主張したのだ。・・・
 1792年には、彼は、自分の奴隷達の価額がどれほどのものかを正確に計算した。
 ウィーンセック氏は、「ジェファーソンが初めて明確に提示したのは、黒人の児童が生まれることで、自分が毎年4%の利益を得ている、ということだった。
 奴隷たる児童達が、彼に、大儲けを、すなわち、恒久的に複利でもって人的配当をもたらしていた。
 親しい人々に対し、ジェファーソンは、淡々と、奴隷が良い投資戦略であると描写し、友人の一人に対し、彼の家族にカネの余裕があれば、「そのことごとくを土地と黒んぼ<の購入>に費やす[べきだ]」と助言した。・・・
 彼の1826年の死から一世代後の南北戦争直前の頃には、奴隷は全部合わせれば、米国において、土地に次ぐ価値ある資本的資産になることになる。・・・
 ウィーンセック氏は、ゴードン=リード(Gordon-Reed)女史との間で、ジェファーソンと<「情婦」の>ヘミングスとの関係の重要性について、見解を異にしており、この女史に比べるとそのことについて余り触れようとしていない。
 ゴードン=リード女史は、奴隷とその主人との間の内在的不平等性にもかかわらず、一定の相互愛がこの二人の間に存在していたはずだ、と結論付けた。
 というのも、この二人は、30年を超える間、親密な関係を維持したからだ、というのだ。(後出)
 <他方、>ウィーンセック氏は、ジェファーソンは、自分が所有した人々の誰に対しても殆んど感情など抱いていなかったと確信しており、ジェファーソンとヘミングスの関係は、数年間しか続かなかったところの、単なる「取引(transaction)」であったと信じている。・・・
 彼による、ジョージ・ワシントンとその奴隷に関する見事な研究であるところの、’An Imperfect God’ (2003年)<(コラム#225)>の中で、自分の名義で保有していたところの、被保証人<たる奴隷>全員を、遺言でもって解放したのが、もう一人のヴァージニア人たる<米国>最初の大統領<のワシントン>であったことを示した。・・・
 今回の本は、<米>独立宣言の著者<であるジェファーソン>を、我々がどのように考えるかを永久に変えることになるだろう。・・・」(A)
(続く)