太田述正コラム#6638(2013.12.17)
<皆さんとディスカッション(続x2115)>
<太田>(ツイッターより)
 本日はこれかね。
 「…世界屈指の経済発展国である日本の政府と全社会は近年、本国の文化遺産の保護に意欲的で、大規模な人力・物資・財力を注ぎ、大きな成果を得ている。文化遺産の独特な価値を認識・重視し始めた中国にとって、隣国の日本の文化遺産保護に関する取り組みは参考の価値がある。…」
http://j.peopledaily.com.cn/94473/8486145.html
 「ドイツ人「日本の侵略美化傾向が激化…」
http://j.peopledaily.com.cn/94474/8486639.html
 なんて記事も併せて載ってるけど、ドイツ人の口を借りたり、及び腰であるところがカワユイである。
 米NSAによる米国内におけるE-mailのメタデータの大量収集はオーウェル的で「不合理な捜索、逮捕、押収の禁止」を定める憲法修正第4条抵触の疑いあり、と連邦地方裁判所が判決。
 亡命中のスノーデンが歓迎の意を表明。
 司法省はただちに控訴。
http://www.theguardian.com/world/2013/dec/16/nsa-phone-surveillance-likely-unconstitutional-judge
<やへがき やくも>
≫私は鑑賞用の舞踊(ダンス)を問題にしている≪(コラム#6634。太田)
 歌舞伎舞踊の派生である狭義の日本舞踊 (もちろん、観賞用) でもこんな解説がありますよ。
 「「初めて日本舞踊を見ました」という方は、よく「日本舞踊って、こんなに動きの激しいものもあるんですね」とおっしゃいます。そうなんです。日本舞踊には靜もあれば動もあり、動の踊りはスポーツ並み」
http://www.fukinokai.com/faq.html 「日本舞踊Q&A」「ふきの会」坂東流日本舞踊 坂東冨起子
 歌舞伎舞踊はその名の通り歌舞伎の演目である舞踊ですから、舞台上で踊ります。一方、上方舞は座敷の舞踊です。
 「劇場舞踊である歌舞伎舞踊が躍動的であるのに対し、室内舞踊として発達した上方舞は静的」
 「舞台芸術として発達した江戸の「踊」と異なり、<上方舞は、>埃を立てぬよう、半畳間でも舞えるよう工夫されて生まれた座敷のための「舞」であ<る>」
http://www.nihonjiten.com/monogatari/data_7.html 「上方舞」日本辞典
 演ずる場所が舞台か座敷かで異なる発達をした様です。
<太田>
 歌舞伎舞踊は、日本流誇張演技がウリであるところの、歌舞伎の原型ですよ。
 「歌舞伎の元祖は、「お国」という女性が創始した「かぶき踊」であると言われており、 これは傾き者が茶屋の女と戯れる、いわばエロティックな場面を含んだものであった。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%AD%8C%E8%88%9E%E4%BC%8E
 この歌舞伎舞踊が、荒事、和事という、型にはまった誇張された演技を行うところの、(更には花道やせり上げや廻り舞台を伴った)歌舞伎へと変貌していく(ウィキペディア上掲)わけです。
 この原型たる歌舞伎舞踊が、現在でも歌舞伎の、昼ないし夜の一連の演目の中に挟んだ形で提供されることがあります。
 例えば、(遊女物ではありませんが、)連獅子がそうです。
http://www.eonet.ne.jp/~jawa/kabuki/enmoku/renjisi.html
http://www.youtube.com/watch?v=G7UdYl3BG4Y
 しかし、歌舞伎舞踊だけが切り離されて鑑賞の対象となる、ということは通常ありませんよね。
 興味深いのは、日本舞踊の藤間流の分派の勘右衛門派のように、現在、代々歌舞伎俳優が家元となっている
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%97%A4%E9%96%93%E6%B5%81
場合でも、その舞踊は歌舞伎舞踊的ではなく、典型的な日本舞踊であることです。
 他方、日本舞踊が、(鑑賞されることには変わりありませんが、)お座敷だけでなく、舞台でも提供されることは、ご存知のことと思います。
<名無しさん@安全保障>
 日本属国論について疑問が2点。
1,新日米安保条約も、アメリカが他の国と結んでいる相互防衛条約も(米比相互防衛条約、米韓相互防衛条約)も一定地域における相互の防衛義務を課しています。
新日米安保条約なら「日本国の施政下にある領域」で上記の2条約では「大西洋地域」。実質的な話はともかくとして、形式的には新日米安保条約は保護条約ではないのでは?
2,新日米安保条約によって、日本は米国による安全保障というメリットを一方的に引き出しています。つまり、同条約は日本に有利な条約といえると思います。通常、宗主国が属国を食い物にするイメージありますのでこの状況には違和感を覚えます。
<太田>
 こりゃまた、極め付きにベーシックなご質問でござんすね。
 
 言及された三つの条約のタイトルと、防衛等の発動要件は次の通りです。
・米韓相互防衛条約(Mutual Defense Treaty between the United States of America and the Republic of Korea)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E9%9F%93%E7%9B%B8%E4%BA%92%E9%98%B2%E8%A1%9B%E6%9D%A1%E7%B4%84
いずれかの締約国に対する太平洋地域における武力攻撃(第3条)
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/docs/19531001.T1J.html
・米比相互防衛条約(Mutual Defense Treaty between the United States of America and the Republic of the Philippines)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E6%AF%94%E7%9B%B8%E4%BA%92%E9%98%B2%E8%A1%9B%E6%9D%A1%E7%B4%84
an armed attack in the Pacific Area on either of the Parties・・・(第4条)
http://avalon.law.yale.edu/20th_century/phil001.asp
・日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(Treaty of Mutual Cooperation and Security between the United States and Japan)
Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and security and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes.(各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危機に対処するように行動することを宣言する。)(第5条)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%9B%BD%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD%E3%81%A8%E3%81%AE%E9%96%93%E3%81%AE%E7%9B%B8%E4%BA%92%E5%8D%94%E5%8A%9B%E5%8F%8A%E3%81%B3%E5%AE%89%E5%85%A8%E4%BF%9D%E9%9A%9C%E6%9D%A1%E7%B4%84
 さて、タイトルが前2者と日米安保じゃあ全く違っていますよね。
 どうして、米国は違ったタイトルをつけ(させ)たのでしょうか?
 この三つは、いずれも、米国も締約国にサービスを提供する条約であるわけですが、当然、そのサービスの質量は、締約国が米国に提供するサービスに法的に釣り合ったものになっていなければなりません。
 韓比の場合は、(太平洋地域・・ハワイ等・・に限定されてはいるものの)米国を守る(defend)というサービスを提供してくれるから米国も韓比それぞれを守るというサービスを提供しますよ、ということが分かるタイトルになっているのです。
 ところが、日本の場合、一切米国は守らない・・日本の領域内に所在する米軍等は、日本の領域内に所在するあらゆる他の外国人同様、本来、日本が守るべきものです・・ことから、米国も日本は守るというサービスは提供しませんよ、ということが分かるように、「協力」とか「安全保障」という、曖昧な言葉(サービス内容)を使ったタイトルになっているのです。
 それでも、米国が日本に対し、曖昧ながらもサービスらしきものを提供する以上は、日本もその見返りに何らかのサービスを米国に提供しなければならないはずです。
 それが安保条約第6条が規定する、在日米軍基地の提供です。
 ちなみに、米韓相互防衛条約にも同様の規定はありますが、米比相互防衛条約にはありません。
 「相互防衛条約」であれば、基地提供なるサービス提供は必ずしも必要ないけれど、日米安保は相互防衛条約ではないので、日本がこのサービスを提供する(法的義務を負う)ことは不可欠なのです。
 そして、米国にとって、日本に設置される米軍基地の意義は、日本列島の軍事地政学的価値や日本の経済・技術力を勘案すると、韓国やフィリピンに設置される米軍基地と比較して、韓国防衛のための兵站基地として、また、東南アジアや西南アジアへの中継基地として、顕著に大きいので、米国は必ずや在日米軍基地を維持し続けるであろうことから、(韓国防衛をも任務としているところの、)この米軍の日本におけるプレゼンスの反射的利益として、軍事的侵攻と核攻撃の脅威に対するところの、日本の防衛は担保される、ということになるわけです。
 (米韓相互防衛条約が廃棄されたら、日米安保は成り立たなくなる、と言っていいでしょう。
 だって、韓国に対する、北朝鮮(と中共)の軍事侵攻の脅威は日本にとっても脅威であるものの、このような朝鮮半島経由のものを除けば、日本が軍事侵攻を受ける脅威など(、戦後における核攻撃の脅威は別として)、有史以来存在した試しがないのですからね。)
 いずれにせよ、日米安保条約に基づき、米国が片面的に日本の防衛(生存)を担保している、ということは、日米安保条約が一種の保護条約であることを意味するのであり、日本は、米国の重大な国益に抵触する政策を追求する自由を「法的」に有さないところの、米国の保護国以外の何物でもないのです。
 例えば、宗主国の米国に好ましからざる人物と判定されれば、米国の公然非公然の圧力に晒されることとなり、たとえ首相であろうと、職務を継続できなくなることは必定です。
 (そもそも、米国は、首相を含む日本の有力政治家達の公私にわたる電話、メール類を、全て、一方的に盗聴していて、彼らのあらゆる「隠し事」を把握していることを思い出してください。)
 私が日本は米国の属国である、と端的に指摘しているゆえんはここにあります。
 これを、日本が米国の食い物になっていると形容するかどうかなど、どうでもいいことでしょう。
<太田>
 それでは、その他の記事の紹介です。
 
 猪瀬都知事、ええかげんにせんかい。↓
http://news.livedoor.com/article/detail/8353475/
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013121702000120.html
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20131216-OYT1T01026.htm?from=ylist
 金正日の葬儀の時に棺の傍らを、金正恩とともに歩いた7人の役人のうち5人がこれまでにパージされたと指摘した上で、正恩が義理の叔父の張成沢を殺害したことは、朝鮮の儒教文化への冒涜である、と非難する、韓国生まれの米国人で一昨年末まで北朝鮮で英語を教えていた女性著述家によるコラムだ。↓
 Today, on the second anniversary of Kim Jong-il’s death, only two of the seven officials who walked alongside his hearse at the state funeral, and his heir, Kim Jong-un, remain. Five have been stripped of their titles, sent to labor camps, or executed — as in the case of Jang Song-thaek. ・・・
 ・・・for Kim Jong-un to have an uncle executed is a grave debasement of Korean culture. Filial piety is at the Confucian core of some 6,000 years of Korean history.・・・
http://www.nytimes.com/2013/12/17/opinion/the-dear-leaders-heinous-act.html?ref=opinion
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太田述正コラム#6639(2013.12.17)
<個人主義の起源(その1)>
→非公開