太田述正コラム#6763(2014.2.17)
<資本主義と不平等(その3)>(2014.6.4公開)
3 補足
 (1)理論
 「彼は、経済学を、第一に、(奇人的経済学者達(Freakonomics)<(注6)>やランダム主義者達(randomistas)<(注7)>よ、さようならだが、)重要で些細でない諸問題を提起するものであって、第二に、不毛なモデル構築の代わりに経験的にして歴史的な諸手法を用いることによってのみ繁栄することができるところの、(「社会」に強調点を置く、)社会科学である、とみなしている。・・・
 (注6)フリーク(freak)とは、「ある事柄に対して異常に心酔する者を指す。日本においては「マニア」と同義で用いられることも少なくない。ただし原義は上記の通り「奇形」であるため、英語圏などで「Freak」という言葉を用いると、日本で想像するよりも遙かに強烈な意味合いに取られる場合もある。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AF
 (注7)ランダム主義者(randomist)とは、しばしばランダムとなる者、または、ランダムな事象について語るのを好む人々。
http://www.urbandictionary.com/define.php?term=Randomist
 さしずめ、株価の動きはランダムであると主張する者
http://www.geocities.jp/y_infty/randomist/randomist.html
などはランダム主義者の典型ということになる。
 この本は、「資本主義の一般理論」を提供している。
 <彼が焦点をあてている、>不平等に関する諸論点は、疑いなく重要ではあるが、資本の一般理論の様相(facet)中の一つに過ぎない。
 <実に、この>ピケティの<本の、あえて>言挙げされていない目的は、経済成長理論と機能的ないし個人的所得諸分配理論の統一にほかならないのであって、資本主義経済の機能のほぼ(quasi)完全な描写を行うことなのだ。・・・
 <この本は、>(フランス、英国、米国、そしてやや少なくドイツ、日本、スウェーデン、カナダという)最も重要で金持ちの諸経済を中心に、資本、産出、国民所得諸分配、資本収益率、インフレ、相続諸フロー、に関する2~3世紀にわたる経験的データを扱っている。・・・
→ピケティはいまだにフランス中華意識に毒されている、と言いたくなりますが、彼自身が最もアクセスすることが容易で、かつ通暁しているデータを主として使用しただけのことであると解すことにしましょう。(太田)
 資本<(注8)>の総額(stock)には、あらゆる形の明示的ないし黙示的に収益を生む諸資産が含まれる。
 (注8)通常、「資本は、土地や労働と並ぶ生産三要素のひとつ」とされる
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B3%87%E6%9C%AC
以上、下出のように「土地」を資本とするピケットの資本は広義の資本ということになる。
 なお、「資本は多くの場合、以下の3つに分けられる。金融資本–金銭や株式など、物的資本–建物や設備など、人的資本(ヒューマンキャピタル)–労働者の教育程度や健康状態など」(同上)だが、ここに出てくる「建物」は、工業における工場や農業における温室、等を指し、ピケットのように「住宅」を耐久消費財ではなく資本に分類する(下出)のは一般的ではない。
 すなわち、(ピケティが、他の多くの著者達とは違って、資本の不可欠な一環であると強調している)住宅、土地、機械、現金・諸債券・諸株式の形をとった金融資本、知的財産権、そして合法化された奴隷制の時代においては人間個々人でさえも、<がことごとく資本なのだ>。・・・
 もちろん、諸資産の異なった諸タイプの相対的重要性は、資本・・ピケティによるその定義はしばしば富と呼ばれるところのものにより近似している・・を変貌させていく。
 <実際、>彼は、(「資本」と「富(patrimoine<(仏)>=wealth<(英)>)」という)二つの言葉を互換的に用いている。」(C)
 「<ピケティの主張はこうだ。>
 高度の富の不平等は、いかなる「市場の失敗」によるものでもない。
 それは「市場の成功」なのだ。
 資本諸市場がより摩擦がなく歪みから解放されておれば、富の不平等はより高度になるのだ。」(B)
 「トマ・ピケティ・・・は、悪化する不平等は自由市場資本主義の不可避的な帰結である、と主張することによって、左と右の正統派をなで斬りにする。
 <しかも、>ピケティはそこで立ち止まらない。
 彼は、資本主義の生来的な動態が、民主主義的諸社会に脅威を与える強い諸力を推進する、と強く主張する。・・・
 「これは市場の不完全とは何の関係もない。
 「資本市場がより完全であればあるほど、」当該経済の成長率に比べて資本の収益率は「より高くなる」、と。」(A)
 「この物語が意外な進展を見せるのは、テクノロジーの進歩は確かに労働生産性を向上させ賃金を増大させるけれど、それは、同時に、資本でもって労働を代替させることも容易にする、という点だ。
 その場合、急速な生産性の向上でさえ、単に、資本の所得に対する割合、資本の収益、そして、所得と富の集中、を増大されるかもしれないのだ。」(E)
 (続く)