太田述正コラム#7231(2014.10.10)
<皆さんとディスカッション(続x2411)>
<太田>(ツイッターより)
 「…空襲も経験しました。焼け出されて逃げ回り、だから戦争が終わった時、何とも言えない解放感を味わいました。戦争は最大の罪です。絶対にやっていけないもの。…」
http://mainichi.jp/feature/news/20141007mog00m040023000c.html
 物理学でノーベル賞をとられた先生に申し上げるのもはばかられますが、戦争は一人ではできず、相手が必要です。
 先生は、あの日米戦争は日本にとって不正義の戦争だった、と「科学的に」おっしゃるべきでした。
 しかし、それは間違いなのです。
 戦後の日本の文系の学者達が先生方のような理系の学者達とは違って、サボって碌に研究をしないできたせいとはいえ、大変遺憾に存じます。
 「安倍首相の態度軟化は「仕方なし」 輸出で中国市場に依存…」
http://j.peopledaily.com.cn/n/2014/1009/c94476-8791936.html
 自分の側が一方的に態度を軟化させたというのに、それを相手のせいにするとは・・。
 日中「和解」に向けての布石だろうが露骨だねえ。
 習ちゃんの芸術的対日戦略劇の第二幕もオモロイ。
<太田>
 習ちゃん側の一方的態度軟化の事実は以下の通り。↓
 「・・・公明・荒木清寛氏 日中関係の改善に向けた中国の姿勢の変化は。
 安倍晋三首相 今年9月に習近平主席も「長期にわたり安定した日中関係の健全な発展を推し進めたい」と述べ、中国側も日中関係改善に以前よりも積極的になってきていると受け止めている。・・・」
http://digital.asahi.com/articles/ASGB843QZGB8UTFK007.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASGB843QZGB8UTFK007
 「・・・日中関係はここにきて、雪解けを探る機運が出ている。中国は止まっている海上緊急連絡システムの協議を、再開する方針を伝えてきた。
 中国監視船による尖閣領海への侵入も減っている。今年1~9月の侵入数は、月平均にならすと延べ7.1隻。昨年同期(17.6隻)の半分以下になった。
 日本の対中投資が急減し、中国の経済に影を落としている。こうしたなか、権力闘争をひとまず乗り切った習近平国家主席が、緊張を和らげようと、重い腰を上げはじめたとの見方が広がる。・・・」
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDE02H02_S4A001C1SHA000/?dg=1
 それはそれとして、習ちゃんの日本ヨイショは今日も続く。↓
 「なぜ日本は多くのノーベル賞受賞者を輩出できるのか・・・」
http://j.peopledaily.com.cn/n/2014/1009/c94473-8792319.html
<QaW0cUiA>(「たった一人の反乱(避難所)」より)
 太田のじーさんもしかしたら、ノーベル賞受賞者へのやっかみじゃねーの。
 中村氏が米国籍を取っているからなんだというのよ、自分の価値観を押し付けんじゃねーよ。
 僕は別に中村氏が正しいとも思ってないけど、だから何?
 本人が日本に自由がないと言っているだけやろ。
 少なくともノーベル賞受賞者に難癖つけんじゃねーよ、みっともないから。
<XaXakKBk>(同上)
 気持ちはわかるが、他人を批判する時は丁寧な言葉使いをすべきでは。
 下品な表現には誰も共感しませんよ
<IAMsJ8aM>(同上)
>少なくともノーベル賞受賞者に難癖つけんじゃねーよ、みっともないから<(QaW0cUiA)
 何をどうしたらやっかむのかね(笑)。佐藤栄作と大江健三郎はどうすんのさ?
 それじゃあ、ましてチャーチル批判なんか出来んだろ。
<cOaes9EE>(同上)
 佐藤栄作とチャーチルって研究者ですか?
 全然関係ないで。
 少なくとも政治家は批判されてもしかるべきやで。
 ノーベル賞中村教授 「原動力は怒り」に共感相次ぐ
http://yukan-news.ameba.jp/20141010-25979/
<太田>
 QaW0cUiAクンは、表現以前の問題として、中村サンへの、コラム#7229での「ぼやき」とコラム#7231での「批判」をごっちゃにしてる困ったチャンだな。
 「ぼや」くのはボクの自由。
 他方、「批判」の方は、中村サンを擁護する人はビョーキだぜ。
 で、「批判」の方なんだけど、
 「1年間の留学後、日亜化学工業に戻り、2億円ほどするMOCVD装置の改造に取り掛かる。会社命令を無視、会議にも出席しない、電話に出ない。と、通常のサラリーマンとしては失格と言われても仕方のない勤務態度だったが、度量の広い創業者社長のおかけで破格の研究費の元で実験を続けた。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E4%BF%AE%E4%BA%8C
を読むと、更に議論の余地はなくなったね。
 日本にもどうやら「本物の自由がない」とは必ずしも言えず、「日本で<も>大企業のサラリーマンにな」り切る必要<もまた>必ずしもないことは、もはや明らかだな。(「」内は、中村サン自身の言(コラム#7229)。)
 なお、同じウィキペディアにこうある。↓
 「青色発光素子であるGaN(窒化ガリウム)の結晶を作製するツーフローMOCVDを発明し、窒化ガリウムによる高輝度青色発光ダイオードを開発した。・・・2001年8月23日には日亜化学工業を提訴。2004年1月30日には404特許の発明の対価の一部として、東京地裁は日亜化学工業に対し、中村に200億円を支払うよう命じた。日亜化学工業側は控訴し、2005年1月11日の東京高等裁判所の判決では、404特許を含む全関連特許などの対価などとして、日亜化学工業側が約8億4000万円を中村に支払うことで和解が成立する。
 なお、日亜化学工業は同訴訟中に、量産化に不可欠な技術は、若手の研究員が幸運にも偶然発見した「アニール」技術であり、既に存在していた平滑なGaNの膜を得るためのツーフローMOCVDは無価値だと述べており、訴訟終了後に特許権を中村に譲渡することなく放棄している。この高裁控訴審において高裁から示された和解勧告に対し、中村は弁護士とは異なる記者会見を設け「日本の司法は腐っている」と述べた。」
 つまり、中村サンは、青色LED、ひいてはLEDの商品化(実用化)が可能であることを示した、という偉大な功績はあった・・だからノーベル賞には値するとボクも思う・・が、日亜化学は、中村サンの発見した技法で商品化はしていないし、同社が商品化した時点で中村サンの技法の価値はゼロになっていた、ということだな。
 だから、中村サンの同社への貢献度については、地裁の判断も高裁の判断もありうるものの、やはり、高裁の判断に軍配を上げるべきだろう。
 中村サンは、本件で最終的に自分にとって極めて不満足な結果に終わったという点だけでもって、日本の司法一般や米国の司法一般について碌に調べもしないで、「日本の司法は腐っている」と断定したのだろうが、このことも、彼がエセ科学者であるとした、ボクの「批判」の正しさ更に裏付けるものだ。
 ちなみに、同じ受賞者である、赤崎サンが真正科学者であることは、下掲からだけでも明らかだ。↓
 「・・・赤崎勇氏が名城大学で会見を開いた際に地元放送局のCBC(TBS系列)の記者が同氏に対して「今世間はSTAP細胞などについて騒ぎになっていますが」と質問。
質問をぶつけられた赤崎氏は「STAP細胞ですか?ちょっとわからないんですが」「まぁよかったんじゃないですかねえ…」と答えるしか無く、その場の空気が乱れてしまう場面があった。
 折角のノーベル物理学賞受賞者にSTAP細胞の話題を振って何を聞き出したかったのだろうか。」
http://getnews.jp/archives/679051
 この記事は、質問者に批判的だが、その批判は全くあたらない。
 むしろ、答えてしかるべき、こんな質問にすら答えようとしなかった赤崎サンの、(自分が通暁していない分野については、一切語らないという)科学者魂を称えるべきだった。
 蛇足だが、これほど慎重な赤崎サンが、「戦争は最大の罪です。絶対にやっていけないもの」(前出)なんちゅう馬鹿げた発言を(「と私は思う」さえつけずに)行ったことは、「」内が真実である、と彼が確信せざるをえないほど、戦後日本の文系学者達が怠慢で、「」的な思い込みに対する根底的批判を怠ってきたことを示すものだ。
<MN>
 大変ご無沙汰いたしております、いつもご健筆拝読いたしております。
 ううむと唸った箇所あり久しぶりにご返信いれさせていただきます。
 さて、
≫(TPPなんてものは、新手の関税同盟に過ぎない、という認識です。)ちなみに、前2者は非人間主義政治経済体制、最後のは人間主義政治経済体制、ということになります≪(コラム#7227。太田)
につき、同時進行中の”TTIP”、下記URLご案内いたします。
http://www.diplo.jp/articles14/1406ttiphalimi.html
http://www.diplo.jp/articles14/1406ttip.html
 (既出ご容赦ください。)
 内容を読めば、”非”関税”障壁”撤廃同盟ともとれます。
 『非関税障壁』とは『関税』とは関係の薄い物事を広範に含意し、説明に多大な数の語を要する言葉ですから、
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%9E%E9%96%A2%E7%A8%8E%E9%9A%9C%E5%A3%81
現代人がしっかり玩味すべき数少ない言葉だと思っています。
 また手続きの進め方は、リスボン条約的だな、と感じています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%9C%E3%83%B3%E6%9D%A1%E7%B4%84
 ルモンド読み上記先生コラム引用に戻れば、”米欧”前2者”日”後者、細分すれば
アングロサクソン&プロト欧州 - 日本+習閣下で交渉が行われている、と取れ、大変興味深く感じているところのものであります。
 英国人間主義者諸氏の立ち位置や如何。
 末筆ながら、寒露霜降、半袖などお召しになってお風邪を引かれませぬよう祈っております。
<太田>
 お気遣い多謝。
 
 それでは、その他の記事の紹介です。
 当事者の産経新聞よ、本件に限らず、こういう「実証的」な記事を書いてくれな。↓
 「「行方不明」「下品」…事情聴取で浮き彫りになった日韓の言語文化の違い
http://www.sankei.com/world/news/141009/wor1410090050-n1.html
 既に、韓国の弁護士界にも萎縮効果が・・。↓
 「・・・<産経新聞前ソウル支局長の>加藤氏は国内の2つの法律事務所に弁護を依頼したが、婉曲に断られたという。パク弁護士は「産経新聞が韓国に批判的だとか大統領に関係する事件だという理由ですべて(弁護を)避けたら国や国民が国際的に笑いものになる」と、弁護を引き受けた理由を説明している。・・・」
http://news.livedoor.com/article/detail/9342924/
 その通りだよ。
 後一歩踏み込んで政府批判ができないところに、既に、韓国のマスコミ界にも萎縮効果が・・。↓
 「産経前支局長の被疑事実、裁判で立証困難との見方も・・・」
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/10/10/2014101000777.html
 関連だが、加藤前支局長が朝鮮日報記事以外に拠った金融筋、それを取り巻く韓国金融ゴシップミニコミ群の存在を紹介した記事だ。↓
http://blogs.wsj.com/korearealtime/2014/10/09/journalists-indictment-fuels-concern-about-press-freedom-in-korea/?mod=WSJBlog&mod=WSJ_korearealtimeRealTime
 以下、Isis小特集だ。
 トルコ外相、米国等がアサド政権も標的にしない限り、トルコはシリア等に軍事介入しないと語る。↓
 ・・・Turkish Foreign Minister Mevlut Cavusoglu・・・reiterated that Turkey will not join the fight unless the coalition expands its goals to include the ouster of Syrian President Bashar al-Assad.・・・
 <トルコは、シリア領内にトルコとの緩衝地帯を設けることも求めている。↓>
 Among Turkey’s other demands is the creation of an internationally protected buffer zone in Syrian territory.・・・
http://www.washingtonpost.com/world/islamic-state-renews-push-to-claim-syrian-border-town-despite-widening-airstrikes/2014/10/09/885b03ba-df8f-4ae9-93bb-52dac7345fc7_story.html
 トルコ与党の重鎮、トルコ国境近くのシリア領内で争っているIsisもテロ集団、クルド人側もテロ集団、と切り捨てた。↓
 ・・・All the civilians [from Kobane] are already in Turkey now. Turkey has saved all the civilians. There is war now in Kobane between two terrorist groups,・・・
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-29555999
 有料記事だから小見出しプラスアルファしか分からないが、本件についての、先の大戦中のポーランド人蜂起の際の赤軍の傍観を連想したボクと同じ発想の記事だな。↓
 ・・・Shades of the Soviets standing by as the Germans attacked Warsaw in World War II.・・・
http://online.wsj.com/articles/luqman-barwari-and-barry-fisher-why-turkey-shrugs-as-isis-closes-in-on-kobani-1412901826
 バグダード西のスンニ派牙城、アンバル州がIsisの手に落ちつつあるとさ。↓
 ・・・the Islamic State has conducted a “sophisticated campaign” in Anbar in the past four weeks, which has enabled the group to control most of the territory from the Syrian border to Abu Ghraib in the western suburbs of Baghdad.・・・
http://www.washingtonpost.com/world/middle_east/islamic-state-fighters-are-threatening-to-overrun-iraqs-anbar-province/2014/10/09/34b302f0-84e4-4d73-b220-2d91161363e5_story.html?hpid=z1
 イスラム世界はサラフィー主義それ自体を批判すべきだとさ。
 (そりゃ無理な相談だよ。イスラム世界にイスラム教を否定させようってのかい?(太田))↓
 ・・・Many Islamic groups condemned both Boko Haram and ISIS as un-Islamic. This is a welcome development. But they did not also condemn the Salafi theology that underpins the literal and shallow understanding of Islamic principles that inform groups such as ISIS. It is like trying to treat the symptoms while allowing the cause to metastasize. So even if Boko Haram and ISIS are dealt with, new groups will take their place. ・・・
 The work of Islamic scholars such as Ibn Taymiyyah, Syed Qutb and Abdul Wahhab, those who inspire the extremists, must be deconstructed and contextualized.・・・
http://www.nytimes.com/roomfordebate/2014/10/09/do-muslims-need-to-defend-their-faith-against-extremists/muslim-scholars-must-break-the-theological-claims-of-extremism
 イスラム教は穏健な要素も過激な要素もあるとさ。
 (何度でも言う。非真正なイスラム教と真正なイスラム教があるってだけさ。(太田))↓
 ・・・If we start going back to the Quran, Hadith and religious texts for solutions, we will be stuck with a vicious cycle of contradictions. Islam is a way of life that unites religion and politics. It is the source for a set of values that govern sexual relations, interest on loans, rules of inheritance and many other details. Islam involves every aspect of our daily life. Therefore, it is very hard to define the balance between individual freedoms and Islam. ・・・
http://www.nytimes.com/roomfordebate/2014/10/09/do-muslims-need-to-defend-their-faith-against-extremists/beware-of-autocrats-posing-as-moderate-muslims
 失踪マレーシア航空機は、最後の瞬間まで、誰かが操縦していたと考えるしかない、という指摘の紹介だ。↓
http://www.spiegel.de/international/business/mh370-emirates-head-has-doubts-about-investigation-a-996212.html
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太田述正コラム#7232(2014.10.10)
<独裁と混沌>
→非公開