太田述正コラム#7086(2014.7.29)
<アメリカ「文明」の起源>(2014.11.13公開)
1 始めに
 皆さんご承知のように、米国は、英領北米植民地時代から、インディアンを迫害し、黒人奴隷を搾取し、奴隷制を廃止してからも、制度的な黒人差別を1960年代に至るまで続け、支那人や日本人差別も行い、また、19世紀末から20世紀後半にかけて、アジアで直接的間接的に、ナチスドイツやスターリン主義ロシアを超える大虐殺を行った国です。
 つまり、米国は、人類史上、空前の犯罪国家なのです。
 さて、八幡市での3回目のセミナーの準備の一環として、協力グループに助けてもらいながら、次のような資料を作成しました。
一人当たりGDP(2013年):米9位、加10位
http://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html
平均寿命(2010年):米33位、加4位(注1)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%AF%BF%E5%91%BD%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88
(注1)医療費(2010年):対GDP比–米17.6%、加11.4%。一人当たり–8,233ド
ル、加4,445ドル
http://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/iryouhoken11/dl/02.pdf
10万人当たり殺人数(2010年):米4.8、加1.73(注2)
http://biglizards.net/strawberryblog/archives/2012/12/post_1494.html
(注2)「家庭に銃がある割合はアメリカが39%、カナダが29%」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1041762110
精神疾患の生涯罹患率:米47%、加20%
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2140.html
http://www.cmha.ca/media/fast-facts-about-mental-illness/
報道の自由度(2014年):米46位、加18位
http://rsf.org/index2014/en-index2014.php
政府腐敗度(2011年):米24位、加10位
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%90%E6%95%97%E8%AA%8D%E8%AD%98%E6%8C%87%E6%95%B0
(参考)面積:米9,628,000km2、加9,984,670km2
    人口:米316,942,000人(2013年)、加34,127,000人 (2010年)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E5%90%88%E8%A1%86%E5%9B%BD
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%80
 カナダ≒イギリス、ですから、米独立革命は、無意味どころかマイナスであったことは明白でしょう。
 つまり、本国から独立したことによって、米国は、(イギリスに対して相対的に、ですが、)失敗国家に転落してしまい、爾後、空前の犯罪国家として現在に至っている、ということです。
 
2 アメリカ「文明」の起源
 (1)問題の所在
 こういう次第なので、(そんなものを、無条件で文明と表するのも悍(おぞ)ましいことから、「」に入れることにしましたが、)米国社会はアングロサクソン文明とは異なった文明に属する、と考えるべきでしょう。
 かねてから、私は、この米国の「文明」を、できそこないの(bastard)アングロサクソン「文明」、ないし、アングロサクソンと欧州の両文明のキメラたる「文明」、と形容してきたところです。
 さて、八幡市のセミナーで、これまで、日本文明、アングロサクソン文明、そして、欧州文明の起源について、それぞれ説明を行ってきたところですが、次回にはアメリカ「文明」(注3)の起源を説明しなければなりません。
 
 (注3)「アメリカ」という言葉は極力使わないようにするのが私の方針だが、「米国」「文明」とすると、英領北米植民地時代にも同じ「文明」であったところ、それが抜け落ちてしまうし、「北米」「文明」とすると、カナダまで含まれてしまうので、止むを得ず「アメリカ「文明」」とした。また、こうすることで、結果的にだが、八幡市民という、太田コラムに馴染みのない人々が対象であることから、「中共」だの「支那」だのといった言葉を使わない配慮をしていることととも整合性がとれることにもなる。
 ところが、困ったことに、私が参照すべき、米国人等によるアメリカ「文明」起源論には碌なものがないのです。
 イギリス人が米国人に対し、優越感を抱き、米国人がイギリス人に対し、劣等感を抱いていることは、私の英国防大学在籍当時の経験に照らし、まず、間違いありません。
 それを、イギリス人・・カナダ人を含む・・側が公式に口にしないのは、何の得にもならないことはしない、という彼らの生き様からして少しも驚くべきことではありませんが、米国人側が公式に口にしないのは、自分達の劣等感は単に「没落」した本家(実家)への慮りなのであって、文明的には自分達の方が優位である、と心底思い込んでいるからではないでしょうか。
 彼らは、米国が、犯罪国家であるという認識を(黒人差別等に関して)若干は抱きつつも、失敗国家であるという認識が全くなく、従って、最も優位の文明に属する、ということを、毛頭疑っていないわけです。
 この肝心な認識が欠如しているためだと思うのですが、「米独立革命の起源」シリーズで取り上げたトマス・P・スローターの『独立–米革命のもつれた諸ルーツ』と「米独立革命とキリスト教」シリーズで取り上げたマシュー・スチュアートの『自然の神–米共和国の異端的諸起源』、という最新の2冊の本についても、それぞれの著者が、私の問題意識を部分的には共有しつつも、前者については、敬虔なプロテスタント信者であったピルグリムファーザーズに(少なくとも書評子達が)言及しないために隔靴掻痒の思いをさせられ、後者については、米国の建国の父達が無神論者であった、という極端な結論を提示していて、それぞれ、苦笑させられた次第です。
 (2)暫定的結論
 しかし、他に方法がないので、この2冊も「活用」しつつ、私の暫定的結論を申し上げておきましょう。
 英国人中の、a:活動の場を狭められつつあったところの英国内でいわば戦争を生業としていた無法者達(スコッチ・アイリッシュ)、b:イギリスでは例外的な貧困地帯出身のしかし気位の高い食い詰め者達(イーストアングリアのイギリス人)、c:迫害を受けていたところの(イギリス人一般の自然宗教観を抱懐しない)イギリスのプロテスタント達(ノッティンガム出身のイギリス人)、という、そのいずれもが反英本国的性向を抱くところの、三つの集団が中核となって英領北米植民地に入植した。
 aとbは人間主義抜きの裸の個人主義者達(=利己主義者)であり、戦争が大好きで侵略的かつ人種主義的であったと考えられることから、その荒涼たる心の支えを聖書に求めたと想像され、そもそも敬虔なプロテスタントであったcともども、英領北米植民地は、自然宗教社会たる英本国とは異なる、プロテスタント(キリスト教)社会として出発することになった。
 やがて、英領北米植民地は、同植民地人の反英本国的にして親欧州的な意識・・欧州は反英である上、当時はプロテスタントの勢力が強かった・・に引きずられて、合理論の欧州文明のスピノザが打ち出した無神論の影響を受けたところの、「無神論者」の多いエリート層、及び、自分の所属する宗派の教義・儀典に無条件で従うところの原理主義的キリスト教徒の多い大衆層、からなる階層社会となる。
 ただし、英領北米植民地のエリート層における「無神論者」は、スピノザとは違って、キリスト教の強い影響下にあったため、実際には、キリスト教の論理にのみ羈束される、いわゆる、リベラルキリスト教徒だった。
 (キリスト教は、人間中心主義(堕胎禁止、動物虐待・自然破壊)、女性・同性愛差別、ユダヤ人・イスラム教徒迫害、選民思想/殉教志向、終末論思想、そして最も傍迷惑な双極性障害性(利他主義と利己主義の両面性、ぶれ)、という論理を抱懐しており、この論理のみに羈束されるリベラルキリスト教徒は極めて病理的であるのに対し、カトリック教徒とプロテスタント(原理主義的キリスト教徒)は、所属する教会のキリスト教の根本的論理を水で薄めた教義、及び、その教会の定めた儀典、とに羈束されるので、双極性障害性を含む、病理の多くを免れている。)
 彼らは、ここでも、その反英本国的にして親欧州的な意識に引きずられ、イギリス人のロックによる、基本的にイギリスの政治思想を描写したに過ぎない諸著作を誤読することを通じて、民主主義、大統領制、三権分立、地方分権、政教分離という、イギリス本国の政治思想を換骨奪胎したところの、機能不全を内包する全体主義とでも形容すべき政治思想を掲げ、大衆を率いて、米独立革命を敢行する。
 このことにより、米国は、(相対的)失敗国家化、そして、空前の犯罪国家化を運命付けられることとなり、全世界もそのとばっちりで大きな被害を蒙ることとなり、現在に至っている。