太田述正コラム#7188(2014.9.18)
<中東イスラム文明の成立(その2)>(2015.1.3)
 ついでに言えば、異教徒たる女性達や少年達に対する所業に関しても、下掲を見れば分かるように、バグダーディーの行動はハンマドの行動と基本的に同じです。
 「先月、国連は、イスラム国家が、約1,500人の女性達、10代の少女達、そして少年達を性奴隷にした、と推計した。
 アムネスティ・インターナショナルは、イスラム国家は、北部イラクで、性的攻撃或いはそれよりもひどいことのために、諸家族の全員を誘拐したとの辛辣な文書を公表した。
 6月のモスルの陥落後の最初の数日間においてさえ、女性権利活動家達は、イスラム国の戦闘員達が一戸一戸を回って、モスルの女性達を誘拐したり強姦したりした累次の諸事件について報告している。」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/09/16/the_islamic_state_of_sexual_violence_women_rape_iraq_syria?wp_login_redirect=0
 「ムハンマド<は、>・・・ハンダクの戦いで敵対的中立を保っていたユダヤ教徒のクライザ族を・・・15日間の包囲攻撃のすえ・・・全面降伏<させ>たが、・・・成人男性全員を処刑し、女性や子供は捕虜として全員奴隷身分に下し<た。>」(前出)
 当然のことながら、イスラム国がその権利の蹂躙を断行した女性達等は、自分達に敵対したり敵対的中立の姿勢をとったところの、シーア派やキリスト教徒やヤジーディら非スンニ派、及び、スンニ派のクルド人、の家族だけであったはずです。
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<脚注:Isisのことが本当に分かっていない米英?>
 米英はIsisのことが本当に分かっていなさそうであるのが下掲の2つの記事だ。
 「シュピーゲル誌記者           :米国のバグダード駐在のある幹部外交官が、我々に対し、イスラム国は、精神病質者(psychopath)達によって率いられた社会病質者(sociopath)達<の集団>である、と言っていた。
  チャラビ(Chalabi)(コラム#266、2862):それは、自分達が欧州でのけ者にされていると思い、その理由でこちらにやってきているところの、西側からの戦闘員達にはあてはまるかもしれない。
 しかし、イスラム国の指導者達は、イラク軍の元将校達や教授達だ。
 彼らは、精神病質者達などではなく、自分達が何をやっているかを的確に自覚しているし、とてもよく組織されているし、厳しい階統制を持っている。」
http://www.spiegel.de/international/world/interview-with-ahmad-chalabi-on-islamic-state-iraq-and-syria-a-991659.html
(9月18日アクセス。下掲に関しても同じ。)
 匿名で語ったものである以上、それはホンネに近いと思わなければならないことから、駐イラク米政府関係者、ひいては米国政府は、Isisのことをそのように見ている可能性が高い。
どうやら、対イラク戦の時も、シーア派イラク人たるチャラビの適切な助言を米国政府は話半分で聞き流した結果が、あの惨憺たる戦後イラク経営だったのだろう。
 「元英空軍上級将校で在イラク米軍最高司令官と米大使の対テロ及び対叛乱ストラテジスト、そして英外務省政治軍事課長<を務め、現在>・・・対英王立三軍統合研究所(RUSI)のコンサルタント・フェロー<の>・・・アフザル・アシュラフ(Afzal Ashraf)博士は、・・・アルカーイダが救済と暴力とを結び付けたのと全く同様、イスラム国家は、領域的拡大を通じた精神的至上性を主張してきた<、と指摘した>。・・・
 イスラム教の教えの大半がそうであるところの、創造者とその被造物の美しさについての人類の理解に係るもの、は、その、特異な、権力に対する血腥い欲求(bloodlust)によってかき消されてきた(eclipsed)のだ<、と>。」
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-29205447
 名前等から推察するに、アシュラフは、イスラム教徒たる、英国に過剰適応した英国人なのだろうが、遺憾なことに、彼の経歴からして、彼のような見解は英国政府のホンネでもある、と見てよさそうだ。
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 ここで、より根本的なことなのですが、上掲の脚注の中に、イスラム国家、すなわち、バグダーディー、に対し、「領域的拡大」を図っているとか、「権力に対する血腥い欲求」が見られるとか、悪罵が投げかけられているところ、ムハンマドが(アラーの言として)説いたジハード・・より限定的には外へのジハード・・というのは、外形的には、まさしく、そういうものなのです。
 コーランの、下掲の関係個所をご覧ください。
 ・第2章第193節:「騒擾がすっかりなくなる時まで。宗教が全くアッラーの(宗教)ただ一条になる時まで、彼等(メッカの多神教徒)を相手に戦いぬけ」
 ・第9章第5節:「多神教徒は見つけ次第、殺してしまうが良い。」
 ・第9章29節:「アッラーも、終末の日をも信じない者たち<(=非イスラム教徒)>と戦え。またアッラーと使徒から、禁じられたことを守らず、啓典を受けていながら<(=ユダヤ教徒とキリスト教徒であっても、)>真理の教え<(=イスラム教)>を認めない者たちには、かれらが進んで税(ジズヤ)を納め、屈服するまで戦え」(注2)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%89
 (注2)「当初、ムスリムとの戦いに敗れた多神教の信者は死か、改宗か、もしくは貢税を求められた。それに対し、「啓典の民」は服従と納税が強制された。また、「啓典の民」はのちに拡大解釈が行われ、特にペルシャや南アジアの諸地域では、ゾロアスター教やヒンドゥー教、仏教を奉じる人びとまで一神教を奉じる民と同様に扱われるようになった。」(上掲)
 この関連で付言しますが、米国政府は、イスラム国が米国人記者を2度にわたって首切り殺害したこと
http://www.asahi.com/articles/ASG9322J3G93UHBI004.html
を強く非難し、このことへの米国民の怒りも踏まえつつ、オバマ大統領は、9月10日に、「イスラム国・・・を弱体化させ最終的に破壊する」と宣言した
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0H604020140911
わけですが、これまた、バクダーディーは、ムハンマドが(アラーの言として)説いたコーランの下掲記述に従っただけのことなのです。
 ・第47章4節「あなたがたが不信心な者と(戦場で)見える時は、(かれらの)首を打ち切れ。かれらの多くを殺すまで(戦い)、(捕虜には)縄をしっかりかけなさい。その後は戦いが終るまで情けを施して放すか、または身代金を取るなりせよ。」(上掲)
 米国は、イスラム国が実行中のジハードに敵対し、空爆や敵対地域勢力への支援を行っているところ、このジハードの戦場に不信人な(=非イスラム教徒たる)国民(記者達)を送り込んだ、しかも、身代金は一切払わない方針である、というのですからね。
 バグダーディーが英国人記者を首切り殺害した
http://mainichi.jp/select/news/20140914k0000e030117000c.html
のも、全く同じ理屈でしょう。
(続く)