太田述正コラム#7190(2014.9.19)
<中東イスラム文明の成立(その3)>(2015.1.4公開)
——————————————————————————-
<脚注:Isisのことが本当に分かっていない米英?(続)>
 その指導層を含め、米国人の大部分が他国のことが理解できないのは当然と言えば当然であるわけだが、いつまで経っても、そのことに彼らの誰も気付かないことは、私の理解を超えている。
 
 「Isisとの間に諸観念(ideas)に関する闘いなどない。[なぜなら、]Isisは諸観念など持ち合わせていない(bereft of)からだ。連中は諸観念に関しては破産しているのだ」と、米公共外交と公共諸問題担当国務次官(US undersecretary of State for public diplomacy and public affairs)・・・は語った。
 「Isisは、犯罪的で残忍(savage)で野蛮(barbaric)な組織以外の何物でもない」とも彼は語った。
 しかし、彼は、この集団が外国人戦闘員達をリクルートできる諸理由があることは認める。
 それは、イスラム教徒たる男性達の経済的機会の欠如、「アラブ世界において諸個人が力を与えられる(empowered)余地(ability)」の欠乏等である、と。・・・
 <更にまた、>Isisは、現代的なメディア諸手法を操っている、とも。」
http://www.csmonitor.com/USA/Foreign-Policy/2014/0918/Slick-video-with-hostage-John-Cantlie-shows-Islamic-State-is-upping-its-game-video
(9月19日アクセス)
 上掲中の最後の箇所から始めるが、それは、「ハディースに「知を求めることはすべてのムスリムの義務である」「中国までも知を求めよ」とあるように、イスラーム世界を発展させるための知識の導入は歓迎されて」いる
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%89 前掲
ことの一環であるからに他ならない。
 それ以外の箇所だが、前半については、ムハンマドないしイスラム教には諸観念などない、仮にあったとしても、それは破産している、という、死刑ファトワを食らっても仕方がないような暴言を吐いていることにこの次官は気付いていない。
 また、後半については、ムハンマドないしイスラム教の教えに忠実なIsisに対する共感と期待に基づいて参集している大半の、と言って悪ければ、中核的な外国人戦闘員達のことが全く分かっていな発言である、と指摘せざるをえない。
 
 「Isisの真の力は、そのイデオロギーに由来するのではなく、それが恵まれた(beneficial)環境下で活動している、という事実に由来している。
 すなわち、その有利さは、その純粋なイスラム教によるものではなく、二つの失敗しつつある諸国家・・一つは内戦下にあり、もう一つは高度に分権化し機能不全に陥っている・・の中のより弱い諸勢力によってしか敵対されていないことによる。」
http://www.foreignpolicy.com/articles/2014/09/17/the_coalition_of_convenience_islamic_state_turkey_qater_iran_israel?wp_login_redirect=0
(9月19日アクセス)
 上掲に関しては、Isisの「イデオロギー」、「純粋なイスラム教」を認めつつも、何とかそのことから目を逸らせようとしている、という印象を受ける。
 なお、上掲の後段の話は、むしろ、Isisの「イデオロギー」ないし「純粋なイスラム教」を引き立たせているという私の見解を後で述べる。
 「それが世論を炎上させることが確実なのに、二人の米国人(そして引き続き一人の英国人)の首を切るビデオ群を世界に情宣する論理は、一体何なのだろうか。
 考えられる諸説明は二つだ。
 第一の理論は、これらのテロリスト達は、我々が考えているよりも、もっと堕落していて(depraved)、バカだというものだ。
 彼らは極めて流血を喜ぶことから、自分達の残忍さを国際的な見世物にすることが堪えられないのであって、その結果、彼らは、自分達によるシーア派の捕虜達の虐殺を胸を張って放映したのだし、米国人達の極めて面の皮の厚い、軽蔑すべき殺戮が世論を急進的に変更させ、彼らの上に米空軍の諸憤怒が降り注がれることになる危険性を全くもって推し量ることがなかった、と。
 第二の理論は、彼らは放映される自分達による諸首切りの必然的帰結を十分知りつつ、まさのその結果を企図した、というものだ。
 それは、米国を、メソポタミア戦争に参入させるべく挑発するところの、よく効く(easily sprung)罠だ、と。
 どうしてか?
 なぜならば、彼らは、我々が敗北することに確信を持っているからだ。
 ただちにではなく、また、軍事的にでもない。
 彼らは、我々が、常に諸戦闘においては勝利するも、戦争が長引くにつれて、我々はやる気をなくし家に戻ることに確信を持っているのだ。・・・
 Isisの最上のリクルート手段は、まさに、それ自身の残忍さであることが<結果的に>明らかになった。
 意図的、挑戦的にして勝ち誇ったところの、諸首切りは、世界中の精神病質者達を引き付けるだけではない。
 それらは、無制約の決意と米国の無力さについての、振りつけられた諸顕示なのだ。・・・
 我々は、その道行の現段階においては、Isisの主要な戦いは仲間うち同士のものであることを忘れがちだ。
 それは、そのジハード上の競争相手達・・パキスタンのアルカーイダ、シリアのジャバト・アル=ヌスラ(Jabhat al-Nusra)、から、北アフリカ一帯の種々のフランチャイズ群に至る・・を出し抜き、取って代わり、一つの真実のジハードのチャンピオンとして出現することを目指している。
 その戦略は単純だ。
 世界の大超大国を引きずり込み、それを究極的な引き立て役とすることによって、即時に、急進的イスラムにおいて、米国の仇敵としての至高の地位(stature)を確保しよう、というものなのだ。」
http://www.washingtonpost.com/opinions/charles-krauthammer-the-islamic-states-jihadi-logic/2014/09/18/9b76154a-3f64-11e4-9587-5dafd96295f0_story.html?hpid=z2
 上掲に関しては、「Isisの最上のリクルート手段は、まさに、それ自身の残忍さであることが<結果的に>明らかになった。意図的、挑戦的にして勝ち誇ったところの、諸首切りは、世界中の精神病質者達を引き付けるだけではない。」というくだりが相対的にはまともなのだが、「世界中の精神病質者達を引き付ける」で台無しだし、そもそも、「<結果的>・・・リクルート手段」というのは、転倒した捉え方だ。
 そして、少なくとも、上掲中の他の全ての指摘は誤りなのであって、前述したように、Isisは、ムハンマドないしイスラム教に忠実に首切りをやっているだけであって、そういったことを通じて、世界中のイスラム教徒達の賛同をできるだけ多く得ようとしているのだ。
 彼らは、自分達が、このように、ムハンマドないしイスラム教に忠実にふるまい続ける限り、敗北することなどありえないと確信しており、米国や英国のことなど眼中にない、と見るべきだろう。
——————————————————————————-
(続く)