太田述正コラム#0305(2004.3.31)
<米国とは何か(その2)>

イ 政治意識
 入れ物(政治制度)が18世紀のままなら、中身(政治意識)の方も18世紀のまま変わっていない傑作な国が米国です。
 英ガーディアン紙掲載の記事(Linda Colley記者。3月16日付け(http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/03/16/2003102678に転載(3月17日アクセス))の要約をご披露しましょう。
 
 今度の大統領選挙は、共和党はジョージ・W・ブッシュ大統領、民主党はジョン・ケリー上院議員という、どちらもエール大学卒の、しかも同大学のエリート学生クラブであるスカル・アンド・ボーンズ(Skull and Bones)(注2)会員で、億万長者である二人の間の戦いになりそうだ。

 (注2)ブッシュ大統領の父も祖父も会員であった、この秘密クラブ・・アングロサクソン系米国人たる四年生15名が毎年指名され、おどろおどろしい儀式を経てこのクラブの会員となる・・については、http://www.cbsnews.com/stories/2003/10/02/60minutes/main576332.shtml及びhttp://www.parascope.com/articles/0997/skullbones.htm参照。Lord, Whitney, Taft, Jay, Bundy, Harriman, Weyerhaeuser, Pinchot, Rockefeller, Goodyear, Sloane, Stimson, Phelps, Perkins, Pillsbury, Kellogg, Vanderbilt, Bush, Lovett等の米国の名家がこのクラブの会員を輩出しており、彼らは米国の政財界等で重きをなしてきた(太田)。

 ニューヨークタイムスの某コラムニストは、こんなことは現在の英国では考えられない。米国は中流階級の民主主義国だと言われているが、どうやら貴族願望の国であるらしい、と指摘した。
 むろん、いかなる民主主義国でも、政治にはファミリービジネスの側面があり、二世議員が幅をきかせている。
 しかし、米国の政治意識のユニークさは、母国である英国の18世紀の政治意識をそのまま現代にまで持ち越している点にある。
 選挙一つとってもそうだ。例えば大統領選挙のはでばでしさ、お祭り騒ぎはどうだ。それにこの前の大統領選挙の時、州どころか、地方ごとに選挙用紙から何から全部違っており、そのために票計算に間違いが起こったり、時間がかかったりしてブッシュ、ゴアのどちらが当選するか、大騒ぎになったことを覚えているだろう。すべてが、18世紀当時の英国の下院議員選挙生き写しだと思えばよろしい。
 しかし何と言っても、最も18世紀英国チックなのは、大統領選挙に出馬する人物が殆ど名門出身者ばかりだという点だ。1950年以来の毎回の大統領選挙で、共和党の大統領選候補者として名乗りを上げた者の中に名字がブッシュ、ドール、またはニクソンである者がいなかったためしがない。これは、18??19世紀の英国でペラム(Pelham)、キャベンディッシュ(Cavendish)やソールズベリ(Salisbury)(注3)という貴族の名門が政界を睥睨していたのと全く同じ構図だ。

 (注3)Henry Pelham(1748-54)、Thomas Pelham-Holles(1754-56、1761-62)、William Cavendish(1756-57)、William Henry Cavendish Bentinck(1783、1807-09)、Lord Salisbury(1885-86、1886-92、1895-1901)、(http://www.compuserve.co.uk/channels/news/election/history.htm。3月30日アクセス)。なお、この後で出てくるMargaret Thatcher(1979-90)、John Major(1990-97)。括弧内は首相在任期間。(太田)

 このところ、この傾向は一層つのっている。その背景として、米国における所得不平等度の拡大と選挙費用の高騰が指摘されている。
 しかしそもそも、18世紀の英国で、大土地所有者たる名門貴族が、内閣や議会を目指したのはどうしてだろうか。これは公に対する奉仕の精神だけでは到底説明はできない。当時グローバルパワーであった大英帝国の政治に携わることが、彼らにとって痛快きわまりない営みだったからだ、というのが正解だ。
 ところが、大英帝国が崩壊し、小英国となった今では、もはや政治の魅力は著しく褪せてしまった。だからこそ、マーガレット・サッチャーのような女性や、ジョン・メージャーのような大卒でもないような人物が英国の首相になれるようになったのだ。
 これに対し、第二次世界大戦後の米国は名実共に世界の超大国であり、いまやその絶頂期を迎えている。
 だからこそ、米国ではますます大金持ちの名門出身者が政治家を目指すことになった。こうして、米国の政治は文字通り18世紀の英国を彷彿させるものとなっているわけだ。

(続く)