太田述正コラム#7478(2015.2.10)
<日本の中東専門家かく語りき(その6)>(2015.5.28公開)
 さて、以上を踏まえると、池内は、アルカーイダとIsisについて、どちらも、「コーランやハディース」原理主義者である点では目新しくないけれど、この原理主義をネットで普及させる点、及び、ジハードの手段として、在来型のテロのほか、ネットワーク型(ローン・ウルフ型)のテロも用いる点、に目新しさにあるとするとともに、更に、このうちIsisの目新しさを、ジハードの手段として、在来型テロとネットワーク型テロを開放された戦線と総合的に連携させる点にあるとしていることになります。
 しかし、私は、かねてより、Isisと(アルカーイダを含む)従来のサラフィー主義者達とを分かつ点を、Isisが、後者とは違って、イスラム創世記原理主義者であるところに求めているところです。
 つまり、私は、Isisを、イスラム創世記に生まれた「コーランやハディース」に加えて、イスラム創世記におけるムハンマドや初期諸カリフに係る「史実」に忠実であろうとする原理主義者である、と見ているわけです。
 ですから、私は、中東イスラム世界であれ、地理的意味での欧州であれ、イスラム教徒たる若者達がIsisに惹かれる最大の理由は、池内とは違って、(自由からの逃走云々は論外として、)敬虔なイスラム教徒であればあるほど、Isisの「思想」も「ジハードの手段」も真正である、と納得せざるをえないからだ、と考えている次第です。
 このような私の考えは、極めて常識的なものだと自分では思っているのですが、この考えと近似する論考を、これまで、日本では当然かもしれませんが、欧米の主要メディアの電子版上でも全く見つけることができなかったところ、一昨日、ついに遭遇するに至りました。↓
http://www.theguardian.com/world/2015/feb/08/isis-islamic-state-ideology-sharia-syria-iraq-jordan-pilot
(1月8日アクセス) 
 そこで、上掲のコラムのさわりをご紹介したいと思います。
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<参考:フランス政府は分かっている?>
 シャルリー・エブド、及び、ユダヤ食品店におけるユダヤ人買い物客達の殺人とくれば、今日のジハード主義者達の連中は不信心者達であると彼らがみなす者達に対する気まぐれな暴力行為群を好む単なる狂人達であると結論付けがちだ。
 これらの諸攻撃によっていまだによろめいているフランス政府は、極めて異なった見解を抱いている。
 この流血の惨事を起こしたテロリスト達は、自分達が何を狙っているのかを的確に知っていたし、それを行うことに極めて長けている、という。
 フランスの司法大臣のクリスチャーノ・トビラ(Christiane Taubira)<(注9)>は、9日のインタビューで、「とても革新的な(innovative)テロだ。なぜなら、それが人々を動員することができることを示しているからだ」と語った。「だから、これに対する対応は、監視と保安だけであってはならないのだ」と。」
http://foreignpolicy.com/2015/02/09/french-justice-minister-acknowledges-terrorisms-power-to-mobilize/
(2月10日アクセス)
 (注9)1952年~。「フランス海外地域圏<たる南米の>ギアナ生まれの<黒人>女性政治家。地元ギアナの左翼急進党(PRG)系地域政党「ワルワリ」の党首。2002年フランス大統領選挙においてPRGの<大統領>候補者であった。2012年フランス大統領選挙にて当選したフランソワ・オランド大統領のもとのエロー内閣およびヴァルス内閣にて国璽尚書、司法大臣を務める。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%8C%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%93%E3%83%A9 (仏語のはもちろんあるが、英語のウィキペディアはない!)
 経済学者、政治家、著述家。シングルマザーの下の6人の子供の1人にして4人子供のいるバツ1。
http://www.blackpast.org/gah/taubira-christiane-taubira-delannon-christiane-1952
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 「<Isisは、件のヨルダン人パイロットという>イスラム教徒たる捕虜を、それまでの凶悪な諸犯罪の諸事案におけると同様に生贄にしたこと、を正当化するのに苦労した<ようだ>。
⇒私は、いかなる場合も焼殺はシャリーア上は想定されていないと承知しているので、このくだりは、いささか理解に苦しみます。筆者の筆が滑ったのでしょうか。(太田)
 <件の>ビデオ<が撮られた時(? 太田)>の約2週間前の書面のファトワの中で、Isis系の(affiliated)聖職者達(clerics)は、スンニ派の四つの法理学の諸学派の間で本件についての意見が食い違った。
 最終的に、このIsisの聖職者達は、かかる生贄は「原則として禁止」されているけれど、「相互性(reciprocity)の諸事案においては許されうる」と判示した。・・・
 
⇒コーランとハディースにもっぱら拠って形成されてきたシャリーアに照らせば、件の焼殺にを正当化しようとすると、こういう苦しい論理になってしまうのは不思議ではありません。(太田)
 ジハードに係る諸文献の中で最も有名(prominent)なものの一つは、イダラト・アル=タワフシュ(Idarat al-Tawahush)・・野蛮の管理(Management of Savagery)<(注10)>・・という、匿名で自分自身をアブー・バクル・ナジ(Abu Bakr Naji)<(注11)>と呼ぶ、あるジハードのイデオローグが書いた本だ。・・・
 (注10)2004年にインターネットにアラビア語で公開されたもの。英訳電子本のフルタイトルは、’Management of Savagery: The Most Critical Stage Through Which the Ummah Will Pass’。
http://en.wikipedia.org/wiki/Management_of_Savagery
 Ummahは、「イスラム教のコミュニティーあるいは人々」
http://ejje.weblio.jp/content/Ummah
 (注11)Mohammad Hasan Khalil al-Hakim(1961?~2008年)ではないかとする説がある。彼は、エジプト人であり、サダト大統領暗殺に関与したとして逮捕されたのを始めとして各国で何度も逮捕歴がある。アルカーイダの幹部として活躍したが、パキスタンで米国の空爆によって死亡した。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mohammad_Hasan_Khalil_al-Hakim
 Isisの成員達は、この本がこの組織のカリキュラムに含まれていることを認めた。・・・
 ナジは、・・・「私はジハードと闘いについて語っているのであり、イスラム教について語っているのではない。
 この二つを混同してはならない。
 最初の状態(state)が敵の殺戮と抑止の段階(stage)を含んでいない限り、闘いを続けて一つの段階からもう一つの段階へと移ることはできない」、と記している。・・・
(続く)