太田述正コラム#7488(2015.2.15)
<オンリー・イエスタデー:米国の黒人虐殺(その3)>(2015.6.2公開)
 「胸を叩く(beating)、アクロバットのような、南部の熱狂的な業火(hell-fire)の説教者達を良く知っている人・・彼らによって創造された感情の諸狂騒を見てきた人・・なら誰も、リンチ殺人において役割を演じた感情的不安定性に貢献した危険な諸熱情が彼らによって放出されたことを一瞬たりとも疑うことはできない」、と。
 教会の指導者達の若干は、この実践はキリストの福音書(Gospel)に反するとして非難した・・1904年のある新聞社説は、「宗教とリンチ殺人:この国の中で、キリスト教と、粉砕・焼尽と祝福、野蛮と国家的正気は両立しえない」と宣言した・・けれど、<リンチ殺人に>白人の南部の圧倒的同意<があったこと>は、ホワイトの見解を裏付けている(confirm)。
 リンチ殺人への反対において一致していた唯一の南部のキリスト教宗派は、黒人たる米国人達のそれだった。
 同宗派は、<聖書の>記述(script)をひっくり返し、黒人達をキリスト教の救済と贖いの真の承継者達に仕立てることで、この殺戮(onslaught)を一種の磔刑であってその犠牲者達を殉教者達である、と再解釈(recontextualize)しようと試みた。・・・
 南カロライナ州の上院議員のベン・ティルマン(Ben Tillman)<(注6)>は米上院の議場でリンチ殺人を擁護し、大統領のウッドロー・ウィルソン(Woodrow Wilson)は、リンチ判事(Judge Lynch)<・・>ジャーナリストのアイダ・B・ウェルズ(Ida B. Wells)<(注7)>がリンチ殺人を行う群衆をそう名付けた<・・>と彼の使徒達を寿ぐ映画に称賛を送った。・・・
 (注6)Benjamin Ryan Tillman。1847~1918年。イギリス系の民主党の政治家で、南カロライナ州知事1期の後、死去するまで上院議員(1895~1918年)。白人至上主義者。現在の南カロライナ大学の前身の単科大学に入学するも、南北戦争勃発で退学している。
http://en.wikipedia.org/wiki/Benjamin_Tillman
 (注7)1862~1931年。米黒人女性ジャーナリスト、新聞編集者、女性参政権論者、社会学者、市民権運動の初期指導者。ミシシッピ州に奴隷として生まれ、両親を黄熱病で失ってから、幼い5人の姉弟を教師をして養う傍ら、2つの黒人大学を聴講。
http://en.wikipedia.org/wiki/Ida_B._Wells
 今日の穏健なイスラム教徒達と彼らの狂信的な敵対者達との分断は、我々の過去における北部のキリスト教とその南部のそれとの間の分断に準えることができる。」
http://www.slate.com/articles/news_and_politics/politics/2015/02/jim_crow_south_s_lynching_of_blacks_and_christianity_the_terror_inflicted.html
(2月11日アクセス)
⇒このコラムの筆者は黒人ですが、今日の「穏健」なイスラム教聖職者達は、迫力のないこと夥しいものの、「急進的」なイスラム教解釈を非難しているのに対し、当時の北部のキリスト教諸宗派が南部のキリスト教諸宗派のリンチ殺人容認論を非難した話はおよそ聞いたことがなく、現に、筆者も何も言っていないことからすれば、こんな準えをしては、今日の「穏健」なイスラム教聖職者達に対して失礼というものでしょう。
 とまれ、オンリー・イエスタデー・・つい先だって・・まで、米国は、或いは、米国の少なくとも南部は、(同じ肌の色の人々が殉教者的諦念でもってリンチ殺人されるのを横目で見ながら強い批判の声を挙げなかったとしか思えない黒人達をあえて含め、)現在のIsisの顔色をなからしめるほどの原理主義的狂信者達の巣窟であった、と考えてよさそうです。(太田)
3 終わりに
 ここで、第一次十字軍の際のユダヤ人虐殺(コラム#7464)を取り上げたコラムのさわりをご紹介しましょう。
 「中世の過去からのメッセージは、宗教的暴力は一つの標的に自らを限定することはまずなく、拡大して、存在する犠牲者達の最大数へと到達する、ということだ。・・・
 法王ウルバヌス2世はユダヤ人達を殺害せよと十字軍戦士達伝えたわけではないが、それは起こったのだ。・・・
 この物語は、現代のテロ諸集団の諸行為に準えられるいくつかの諸要素をを浮き彫りにする。・・・
 彼らはユダヤ人達を<大量に>殺した・・・上、強制改宗の諸試み、女性達と子供達の諸殺害、自分達の家々にとどまろうとした強制的改宗者達への金銭的ペナルティ群の賦課<、をやってのけたのだ。>・・・
 この問題は、鏡の反対側(other side)からの方がより良く判断できる。
 我々が今日実際に<Isisにおいて>目にしているところのものは、十字軍戦士達のように、暴力的諸手段でもって宗教的かつ政治的な権力を追求しているところの、現代の狂信者達によって支持(uphold)された中世的ふるまいの標準(standard)<的な代物>なのだ。
 それらは、宗教諸改革、啓蒙主義、そして、何よりも、教会と国家の分離、が全く起きていなかったとすれば、欧米世界がどんな風になっていたか、という、ぞっとする(ghastly)させるお化けのような(ghostly)ことに思いを馳せさせる。」
http://www.nytimes.com/2015/02/15/opinion/sunday/the-first-victims-of-the-first-crusade.html?ref=opinion
(2月14日アクセス)
 こんなコラムを掲載するようでは、MYタイムスは、このところ何度も指摘していることですが、高級紙の名に全く値しない、と断ぜざるべからずです。
 「宗教諸改革、啓蒙主義、・・・教会と国家の分離」が起きた後だというのに、米国の大部分のキリスト教諸宗派が、奴隷制にお墨付きを与えた上、20世紀になってからでさえ、黒人大量リンチ殺人がキリスト教儀典として執行され続けることを正当化ないし黙認したことを、NYタイムスが知らないわけがないのですからね。
 まさに「宗教的暴力は一つの標的に自らを限定することはまずなく、拡大して、存在する犠牲者達の最大数へと到達する」のであって、その米国の大部分のキリスト教宗派が、支那人の迫害や日本人の差別にお墨付きを与えたために、米国政府をして、かかる黄色人種差別意識に突き動かされて、太平洋戦争へと日本を追い込み、スターリン主義の東アジア席巻をもたらす、という世界史的大罪を犯せしめたこと、を考えればなおさらでしょう。
(完)