太田述正コラム#0333(2004.4.28)
<アフリカについて>

1 始めに

 アフリカ・・と言っても正確にはサハラ以南のアフリカ(Sub-Saharan Africa)・・については、私が土地勘がないこともあって、今までアフリカそれ自体を正面からとりあげたことがありません。
 それでも、随所でアフリカに触れたことはあります。
 調べてみたところ、エイズの猖獗(コラム#25)、民主主義の普及と貧困化(#39)、キリスト教化の進展(#93)、飢餓の蔓延(#113)、内戦の惨状(#113。コンゴ)、植民地統治の過酷さ(#149。コンゴ)、ガンジーの黒人差別(#176。南ア)、殺人発生率の高さ(#280。南ア)、世界の黒人問題の根源(#276)等を論じた際、アフリカに触れていました。
 アフリカについてきちんと論じるのはまだまだご勘弁頂くことにして、今回は、スケッチ風にアフリカの話をさせていただきます。

2 どんどん貧しくなるアフリカ

 世界銀行の最新の年次レポート(World Development Indicators =WDI)によれば、一日1ドル以下の所得と貧困を定義した場合、1981年から2001年の20年間で、世界の貧困者数は15億人から11億人に減少しました。1990年には12億人でしたから、80年代における改善ぶりが著しかったことが分かります。
中国は同じ20年間で、貧困率が64%から17%に減少しました。
(インド等の)南アジアでは、改善しつつあるものの、2001年の貧困率はまだ31%もあります。
東欧及び中央アジアでは1981年の貧困率ほとんどゼロ%でしたが、1999年には6%まで上昇しました。
中南米では、同じ20年間、貧困率は10%で変化がありませんでした。
中東及び北アフリカでは、同じ20年間で貧困率は5%から3%に減少しました。
これに対し、サハラ以南のアフリカでは、同じ20年間で一人あたりGDPが15%も減っており、現在の貧困率は47%、と全人口の半分が貧困にあえいでいます。
(以上、http://www.taipeitimes.com/News/edit/archives/2004/04/27/2003138308(4月28日アクセス)による。)
東欧及び中央アジアの貧困化は、計画経済から市場経済への移行に伴う一時的現象と言えそうである(コラム#281)のに対して、アフリカの貧困化の問題は、その原因について「長年の悪政、アフリカ産品への需要の減退、先進国が市場を閉ざしていること、冷戦の終焉による経済援助の減少、うち続く戦乱、エイズの猖獗等の複合要因による」と以前に論じたことがあります(コラム#39)が、はるかに深刻です。
1960年代以降に黒人が主権を取り戻してから時間がたてばたつほど、アフリカは貧しくなってきているのです。

3 自由・民主主義化に暗雲漂うアフリカ

 (1)総論
一昨年の6月、「1980年代の初め・・頃には、アフリカで複数政党による選挙が行われていたのは、わずか4カ国(モーリシャス、ガンビア、セネガル・・、ボツワナ)に過ぎませんでしたが、1990年以降、アフリカの48カ国中、実に42カ国で複数政党による選挙が行われています・・冷戦の終焉により、それまで反共という観点から庇護されていた独裁者達が欧米諸国に見放されたということもあり、・・アフリカ諸国で民主化へのうねりが一挙に表面化したわけです。一つ、「民主」アフリカの将来に大いに希望を持ち、アフリカを暖かく見守っていこうではありませんか」と述べたことがあります(コラム#39)が、このところ、アフリカの自由・民主主義化の行く手にも暗雲が漂い始めています。
アフリカでの石油生産が増え米国のアフリカからの石油輸入量がサウディを上回る勢いであること、アフリカのイスラム教地域が米国によってアルカーイダ系テロリストの温床の一つとみなされていること、がその原因として指摘されています。
米国にとって、自由・民主主義のアフリカよりも、安定し、治安が維持されたアフリカの方が好ましくなったというのです。
その根拠らしきデータを列挙してみましょう。

(2)長任期の最高指導者をいただく国
アフリカで長任期の最高指導者をいただいている国を、長い順番に10並べると、
トーゴ:1967-、ガボン:a、1967-、赤道ギニア:a、1979-、アンゴラ:a、1979-、カメルーン:a、モーリタニア:a・b、1984-、ギニア:1984-、ウガンダ:b、1986-、スワジランド:1986-(ただし王制)、モザンビーク:1986-
となります。aは産油国であり、bは米国の対テロ戦争協力国です。

 (3)石油輸出国
 ナイジェリア、アンゴラ、ガボン、赤道ギニア等のアフリカの石油輸出国を多い順番に10並べると、フリーダムハウスの調査結果(コラム#199)によれば、うち6カ国は13段階中最低の「非自由」、3カ国は「部分的に自由」に分類され、完全に「自由」なのは小さい島国であるサントメ・プリンシップ(Sao Tome and Principe)だけです。(ただし、日本も「部分的に自由」とされていることに注意。)

 (4)対テロ戦争協力国
ソマリア、ジブチ、ニジェール、チャド、ケニア等の米国の対テロ戦争協力国10傑中、上記ランダムハス調査結果で、3カ国が「非自由」、6カ国が「部分的に自由」、そしてマリ1カ国が「自由」とされています。

3 展望

 フリーダムハウスの調査結果を指数化すると、アフリカ諸国の総合自由・民主主義化度は、2003年、2004年にもなおわずかながら上昇していますし、アフリカでの世論調査結果によれば、依然三分の二の人々が、民主主義を他のいかなる統治形態よりも支持しています。
(以上、http://www.csmonitor.com/2004/0427/p01s01-woaf.html(4月27日アクセス)による。)
 アフリカの人々の政治意識は、中南米の人々(コラム#330)に比べてはるかに健全であると言えるでしょう。
 貧困にうち拉がれていた世界最大の自由・民主主義国家インドの経済にもようやく陽がさしてきています(コラム#284)が、アフリカはどうなるのでしょうか。
 その鍵を握っているのは、先日、アパルトヘイト(Apartheid)解消後10年にして初めて完全に自由な総選挙が行われた南アフリカ・・圧倒的多数の黒人等が少数の白人と共生を図っているアフリカで最も経済の発展した国・・でしょう。