太田述正コラム#7816(2015.7.29)
<意外な取材(その1)/英東インド会社(その1)>(2015.11.13公開)
           –意外な取材(その1)–
1 始めに
 最近は、電波媒体はもちろんなのですが、私の、紙媒体への露出が殆んどなくなっています。
 後者は、取材は時たまないわけではないのですが、社会新報、沖縄タイムス、東京新聞、しんぶん赤旗、そして、もう一媒体(現在の防衛大臣についての取材だったが、媒体名を思い出せない)、の取材を受けながら、記事にならないことが続いています。
 というのも、最近は、安倍内閣の「右」寄りの攻勢が続いており、これら「左」の媒体は、私に安倍内閣批判を期待しているところ、その期待に私がそえないでいるからです。
 ところが、今度は、意外な媒体からの取材依頼が来ました。
2 メールのやりとり
<ZX>
 太田述正さま
 はじめまして。
 小学館が発行する週刊誌『女性セブン』ライターの<ZX(女性)>と申します。
 取材のお願いでご連絡させていただきました。
 今週入稿(8月6日木曜日発売)の記事で、いまの政治問題(安保問題など)を女性の読者にも分かりやすく解説するとともに改めて考えてみるといった内容の記事を企画進行しています。
 <冒頭の「太田述正」はコピペだったのだろうが、「上野先生」はないよー。(太田)↓>
 つきましては、急なお願いで大変申し訳ないのですが、上野先生にお話をお伺いしたいと思いご連絡させていただきました。
■掲載:女性セブン28号(8月6日木曜発売)
■ページ:活版 全5ページ
■取材内容:日本の安全保障の現状、問題点、ご意見などお考えをお聞かせください。
 安保関連法案の違憲問題、安倍政権の強行突破など話題になっていますが、そもそもにほんの安全保障の現状はいかなるものでしょうか。
 <「警察・・」のくだりからすると、検索かけてたらコラム#7811に出っくわしたということかな。それにしても、「警察に毛の生えたようなもの」の説明は、法的や能力的な観点から行うものであるところ、それがどんなにムツカシイ話か分かってるんだろうか。(太田)↓>
 いまの自衛隊に自国を守りうる能力があるのでしょうかか(警察に毛の生えたようなもの、ということか)
 <エッ、電話の方が時間がかかるに決まってんだろー。(太田)↓>
■取材形式:お会いして1時間、もしくはお電話で30分程度
■取材期限:7月30日(木)まで
 <最初から謝礼の話をするって珍しいなあ。(太田)↓>
■謝礼はお支払させていただきます。
 <これも珍しいなあ。(太田)↓>
 また、原稿の確認をお願いいたします。
 急なお願いで大変恐縮ですが、ご検討いただけると幸いです。
 どうぞよろしくお願い申し上げます。
<太田>
 取材を受けるのはやぶさかではありませんが、防衛省記者クラブの記者程度は防衛問題に通暁していないと、私の話をまとめるのは容易じゃありませんよ。
 それでもとおっしゃるのなら、いらしてください。
 1時間じゃ、理解できないと思うので、時間の余裕を見ていらした方がいいでしょう。 私の方は概ねいつでも結構です。
<ZX>
 ご連絡ありがとうございます。
 <「平坦」ならぬ「平易」な説明を行うためには、それこそ、相当高度な理解をする必要があるんだけどねえ。(太田)↓>
 今回の記事ですが、女性誌で読者が高齢のため、平坦な構成にせざるを得ません。
 ですので、太田さまのお話を平易な言い方で表現してしまう可能性があります。
 また、私自身が防衛問題に詳しくなく、もちろん、勉強して取材させていただくつもりでおりましたが、防衛省記者クラブとまではいきません。
 このような状況で太田さまの専門性の高いお話を伺うのは失礼だと思いました。
 こちらからお願いしておいて大変申し訳ありませんが、勉強しなおしてまたの機会にお話をお伺いできれば幸いです。
 大変申し訳ございません。
 何卒よろしくお願い申し上げます。
<太田>
 こちらからの提案ですが、集団的自衛権って何? どうしてそれを行使すべきなの? 今回の安保法制の集団的自衛権の部分的行使って意味あるの? といった感じに、焦点を絞ったらいかが?
 これだけなら、相当「平坦」に説明できますよ。
<ZX>
 このたびは、突然のお願いにかかわらず二転三転してしまい、ご提案まで頂戴し申し訳ありません。
 <これ、最初に提示すべきだったでしょ。それにしても、なんとまあ欲張りな企画であることよ。でもまあ、とにかく付き合ってあげましょうかねえ。(太田)↓>
 本誌が、今回、企画・進行しております記事では、
「そもそも自衛隊って違憲じゃないの?」
「自衛隊の歴史って?」
「自衛隊は米国に押しつけられたもの?」
「欧州の民主主義国はどうして徴兵制度があるの?」
「中国や北朝鮮と戦争になったとき、日米安保で本当に米国は日本を守ってくれるの?」
といったような、集団的自衛権に至る前の、本当にごく基礎的な問題について読者に理解を深めてもらうことを考えております。
 もちろん、それらを解説した上で、太田さんからご提案いただいている「集団的自衛権って意味あるの?そもそも何?」というところにつながるのだと思っています。
 なぜ、それをやるかというと、現在安保法案についての議論が活発になっており、安倍政権に対する弊誌読者(40~50代女性)の不安や怒りは増幅している中、感情的な反対論ではなく、日本が置かれている状況、防衛の歴史、憲法の矛盾、などについて、解説し、そのうえで安保法制に関する報道を見聞きしてほしい、という、読者にとって判断材料の一助になればいう意図があります。
 趣旨をご承知いただいた上で、ご協力いただけるのであれば、ぜひお話をお伺いしたく存じます。
 お手数をおかけし、申し訳ございません。
 何卒よろしくお願い申し上げます。
3 取材へ
 以上が一昨日から昨日にかけてのやりとりですが、結局、明日(木曜)の13:00から取材を自宅で受けることにしました。
 だけど、彼女、私の話をまとめられるだろうか。
 まとめられたとしても、編集者が私の話を本当に載っけてくれるかしら。
 いや、載っけて、『女性セブン』、大丈夫なのかねえ。
——————————————————————————-
         –英東インド会社(その1)–
1 始めに
 ここしばらく、インドを取り上げていなかったので、2シリーズ続けて、インドを取り上げることにしました。
 第一のシリーズは、表記について、来年出版される予定の本を紹介する諸文書をもとに、それがどんな本になるのかをご紹介し、私のコメントを付したいと思います。
 その本とは、ウィリアム・ダリンプル(William Dalrymple)の『無政府状態–いかに一企業がムガール帝国に取って代わったのか:1756~1803年(The Anarchy: How a Corporation Replaced the Mughal Empire, 1756-1803)』です。
A:http://www.theguardian.com/world/2015/mar/04/east-india-company-original-corporate-raiders
(3月5日アクセス。筆者自身による要約的エッセー)
B:http://colonialpapers.blogspot.jp/2015/03/the-loot-by-east-india-company.html
(7月20日アクセス(以下同じ)。「書評」)
C:http://www.oaklandinstitute.org/hedge-funds-and-corporate-raiders-africa-space-invaders-third-kind
(この出版予定本をマクラに使った、現代大企業論)
D:http://indiacorplaw.blogspot.jp/2015/03/east-india-company-and-modern.html
(出版予定本の予告編)
 ダリンプル(1965年~)については、既に何回か登場している(コラム#1769、2701、5647、6738、7345)けれど、ここで改めてご紹介しておきましょう。
 彼は、イギリスの女性小説家のヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%83%95
の従兄弟たる準男爵の息子で、ケンブリッジ大卒の歴史学者、著述家、美術史家、学芸員、キャスター、評論家で、1989年からはインドのニューデリー近郊の農場で主として暮らしていて、夏だけロンドンないしエディンバラで過ごす、という生活を送っている人物です。
https://en.wikipedia.org/wiki/William_Dalrymple_(historian)
2 英東インド会社
 (1)序
 「インドの諸言葉中、最も初期に英語に入ったものの一つが、強奪(plunder)に相当するヒンドゥスターニー語(Hindustani)<(注1)>の俗語である、loot(略奪)だった。
 (注1)「インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派に属する言語で、一般にはインドの公用語・ヒンディー語、およびパキスタンの公用語・ウルドゥー語として知られる複数中心地言語である。インド亜大陸北部に「ヒンディー・ベルト」と呼ばれる方言連続体を形成しているが、デリー方言(カリー・ボリー)が中心的な方言であり、標準ヒンディー語、標準ウルドゥー語はいずれもデリー方言を基礎としている。・・・サンスクリットを祖語とするが、上層としてペルシャ語やアラビア語の語彙が極めて多く加わっている」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%89%E3%82%A5%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC%E8%AA%9E
 「ヒンディー語・・・は、インドの主に中部や北部で話されている言語で、インドの憲法では連邦公用語としている。準公用語は英語。インドで最も多くの人に話されており、話者の数は約5億人に上る。日常会話の話者数では、中国語の約14億人、英語の約5億1000万人に続き、世界で3番目に多くの人に話されている言語。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BC%E8%AA%9E
 オックスフォード英語辞典によれば、この言葉は、18世紀末までは、北部インドの諸平原の外では殆んど使われることがなかったが、突然、英国全域の共通用語になった。
 この言葉が、かくも遠く離れた風景の中で根付き流行ったのはどのようにだったのか、そして、どうしてなのか、を理解するためには、ポウィス城(Powis Castle)<(注2)>を訪れさえすればよい。
 (注2)写真。
https://en.wikipedia.org/wiki/Powis_Castle#/media/File:PowisCastle.jpg
 代々の最後のウェールズ公(Welsh prince)のオワイン・グルフィド・アプ・グウェンウィンウィン(Owain Gruffydd ap Gwenwynwyn)<(注3)>は、ポウィス城を13世紀に岩の多い砦として建てた。
 この荘園は、イギリス君主の統治にウェールズを委ねる報償として与えられたものだ。
 (注3)?~1286/1287年。正確には、ウェールズ公の一人で、北東ウェールズのポウィス地区の一部のPrince of Powys Wenwynwyn:1241~87年。
https://en.wikipedia.org/wiki/Gruffydd_ap_Gwenwynwyn
 しかし、その最も素晴らしい諸宝は、はるかに後の時期における、イギリスによる征服と横領(appropriation)に由来する。
 ポウィス城は、要するに、18世紀に東インド会社によって得られたところの、部屋部屋の帝国主義的略奪、すなわち、インドからの強奪物で溢れかえっているのだ。・・・」(A)
(続く)